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20.油断大敵

アルディンたち討伐隊一行は、南の森の手前にある村に到着した。


この村に立ち寄ったのは、先に送った南の森調査団が溢れた魔物に襲われ、重傷を負って歩けなかったり、高熱を出した者たちをこの村に託したからだ。


負傷者たちには村長の館の離れが用意され、手厚い看護のもと順調に回復していた。だが、高熱を出した騎士は残念なことに亡くなった。ツブと呼ばれる昆虫系の魔物に体内から喰われたことが原因だった。


魔物に襲われて亡くなった場合は、土葬ではなく火葬される。魔物の毒や種子が体内に残って増殖しているかも知れないから、火で浄化するのだ。


村を守るために魔物と戦った騎士の死を悼み、村人たちは心からの哀悼を込めて弔った。


村を出発する前に、村長がガタイのいい屈強な男たちを6人連れてアルディンの元にきた。


「陛下、この者たちをお連れ下さい。」村長は6人の男たちと共に跪いて、言った。

「その者たちは?」

「彼らは魔物を狩る猟師たちです。2人が剣、2人が槍、そして残り2人は弓の達人です。」


村長が紹介すると、猟師の頭領らしい男が顔を上げた。

「陛下、我らは普段は南の森で狩りをしており、道案内ができます。それに騎士さまほとではありませんが、剣や弓を使えます。足手まといにはならないとお約束します。」


アルディンは思案顔で第2騎士団長のオロゴンを見た。オロゴンは猟師たちの中に見知った顔がいたのか、ニヤッと笑いながら言った、「陛下、こいつらは使えます。それに逃げ足が早いから、絶対に足手まといにもならないでしょう。」


「逃げ足か。重要だな。もし魔物が大挙して襲ってきたら、逃げ切れる自信はあるか?」しごく真面目な顔でアルディンが猟師の頭領に聞いた。


「陛下、我々も武器を持って戦えます。」少し傷付いた顔で頭領が答えると、アルディンは首を振って自分の真意を説明した。


「お前たち猟師は魔物を狩り、騎士たちは魔物と戦う。似ているようでぜんぜん違う。同時に相手をする魔物の数が違うんだ。道案内は素直にありがたいから、案内役としてなら同行を許す。」


頭領は何か言いかけたが、ぎゅっと唇を噛んで飲み込んだ。そんな頭領に代わって、村長が「では猟師たちは、道案内としてお連れ下さい。」と、頭を下げた。


出発するアルディンたち討伐隊を、村人たちが総出で見送った。村の女たちは大人も子供も全員、男と同じ戦闘衣を着ていた。サイラスは国民皆兵だ。平民も貴族も関係なく、幼い頃から剣や弓を習う。


5歳くらいの幼女が、胸当てを付けた戦闘衣姿で討伐隊に手を振っていた。騎士たちがつられて、ちょっと片手を振り返していたのはご愛嬌だ。


守らねば。誰もがそう思った。


南の森に近づくにつれ、異様な臭いがしてきた。アルディンは過去に参加した討伐時の記憶をフルスピードで思い起こすが、このような臭いは初めてだ。


「猟師の頭領を呼べ。」傍らの騎士に告げると、すぐに伝令という形で伝わり、後方にいた頭領がアルディンの側に来た。猟師たちは馬ではなく、ラックルに騎乗していた。


「陛下、お呼びでしょうか。」

「ああ、この臭いを知っているか?森に近づくにつれて強くなる。」


それはベッドシーツを土砂降りの雨の中に一晩放置して、生乾きのまま日陰に何日も重ね置いたような臭いと、残飯が腐ったような臭いが入り混じって、どんどん強くなるのだ。


「ガキの頃から森で狩りをしてますが、こんな臭いは初めて・・・グホっ!!」頭領が言いかけて突然大量に吐血した。


アルディンの側に従うサザランドが瞬時に討伐隊の周囲の空気を浄化した。アルディンは隊列を止めると、魔道士の1人に頭領の治療をさせ、容体を聞いた。


「魔道士長が瞬時に空気を浄化されたので、この者の肺も浄化されて命に別条はありません。」思わずホッとして、すぐにサザランドに向き直った。


「サザランド、これはなんだ?まさか臭気の魔物とか言わないだろうな。」「さすがに臭気の魔物はないでしょう。」軽く答えて、だがサザランドは空気の色と流れを読んで顔色を変えた。


「陛下、森は危険です。村へ、直ちに村へ!!」

「どうした、サザランド?」


「我々は今、瘴気の真っ只中にいます。」サザランドの答えに瞬時に状況を察したアルディンは、魔道士たちに自分の指示を全員に届けるように命じて、指示を出した。


「全軍撤退!村に戻れ。最後尾が先頭、先頭が最後尾だ。このまま村まで戻れ!!」


騎士たちは素早く馬を方向転換させ、最後尾にいたものから順に村に向かって馬を走らせていった。


なぜ、という疑問はある。だが、緊急時には説明はあとだ。何かが起こって村が危ないのだ。騎士たちの脳裏には、自分たちに向かって手を振っていた幼女の姿が浮かんでいた。


守らねば。


「サザランド、瘴気が森の外に発生するなんて聞いたことがない。」村に向かって馬を走らせながら、隣りを走るサザランドに声をかけた。サザランドは防音魔法で馬の駆ける地響きの音を消しながら、状況をわかる範囲で説明した。


「調査団に同行していた魔道士副長が、修復して更に強化魔法までかけた森の結界に、何か異常が起きたと考えます。」

「なんと・・・結界を破るほどに大量の魔物が発生したのか。」


「いいえ、強化魔法までかけた副長の結界です。魔物が溢れるほど広範囲に破られたというより、小さな綻びが生じ、そのすき間から瘴気が洩れだしてきたと思われます。今、魔道士2人と猟師の1人が道案内となって森に向かっています。」


「森は危険なのでは?」

「それでも結界の綻びを見つけて修復しなければ、瘴気が洩れ続けることになります。」


アルディンは魔道士たちと猟師が無事に戻ることを祈るしかなかった。



途中で寄った村は無事だった。アルディンはすぐに周辺に点在する村や町に伝令を飛ばし、無事を確認した。


ところが今いる村から2時の方向にある別の村から、ツブが出た!!との知らせがきた。


そうだ。大きな魔物は抜け出せない結界のすき間でも、小さな昆虫系の魔物なら這い出してくるだろう。アルディンは討伐隊を4班にわけ、各班に1人ずつ魔道士を配して、周辺に散らばる町や村の守備と魔物退治に当たらせた。


すぐに別の村から、チャバネが出たと報告がきた。アルディンは、他に昆虫魔物が結界から這い出していないか確認するために、サザランドを連れて街道に出た。


下級から上級までのどんな魔物でも、マスターのアルディンは剣で倒す自信がある。

だが、昆虫魔物は厄介だ。小さすぎて見つけるのが大変で、気が付いた時には何十万、何百万もの大群になっている。1匹1匹は小さいツブツブだが、何十万も集まれば人間などひとたまりもない。


アルディンは、ツブやチャバネといった極小魔物を道端で探すのに、つい熱中してしまった。


「陛下、危ないっ!ああ、うわあぁぁ!!!」サザランドの絶叫が聞こえた。ばかな。大陸一の魔道士長だぞ。


 人の心配をしている場合ではなかった。

肩から背中にかけて、熱湯を浴びせられたような激痛が走った。この僕が油断するなんて・・・


 このまま殺られるのか。魔物め。アルディンの意識はどんどん暗闇に沈んでいき、沈み切る寸前。

「陛下!!」サザランドの声が頭の中に響いた。


 そして、サザランドが決死の力をふり絞ってアルディンを掴んでどこかに転移するのを感じた。


助かったと思った瞬間、サザランドの素の言葉が頭に響いた。


「やべっ・・・」




次話で、2人はやっと初めて顔を合わせます。スミルが邪魔しなければ・・・

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