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18.魔物襲来

サイラスの王都アルカスの大通り広場。その中心にある時計塔の中ほどにある窓から、数字の【8】の垂れ幕が掲げられている。


城を抜け出したアルディンは、時計塔の対面から垂れ幕の数字を眺めていた。あと8日でオルドネージュから第一皇女が到着する。今日は北王国に入国したころだろうか。


「だんな、ルシャの果実酒はどうだい?体が温まるよ。知ってるかい?ルシャは皇国から輿入れする皇女さまの好物らしいよ。」アルディンのすぐ脇に出ていたドリンク屋台のおやじが、声をかけてきた。


「ほう?皇女は酒好きなのかい?」

いぶかし気にアルディンが尋ねると、屋台のおやじは慌てて両手を降った。


「違う違う、皇女が好きなのは果実水の方。こっちは果実酒だ。ま、見た目はおんなじだけどさ。」ニヤッとおやじが笑う。


「悪いな、これから仕事だ。果実水だったらよかったのに。」

「仕事あとのいっぱいも格別だよ。気が向いたら、帰りにでも寄ってくれ。」


商売上手なおやじに手を振って、その場を離れた。時計台の反対側に歩いていくと、護衛騎士のカロンが走ってくるのが見えた。様子が変だ。


「緊急事態です!ラックルを広場入口につないでありますので、急ぎ城にお戻りを!」


「どうした?」走りながらアルディンが短く問うと、「魔物が。」と低い声で、アルディンにだけ聞こえるようにカロンが答えた。


魔物の一言で全てを察したアルディンは、ラックルのもとに駆けよると、その背に飛び乗って王宮に向かって駆け出した。カロンもすぐに後を追う。


『南の森から、魔物が溢れたか。被害の状況を聞き、すぐに討伐隊を出さなければ。同行できる魔導士の数はサザランドに報告させて・・・』アルディンは王宮に向かってフルスピードで駆けるラックルの背で、瞬時に王宮に着いたあとの流れを頭の中で確認していく。


『魔物が例年より多いとの報告を受けてはいたが、こんなに早く森の結界が破られるとは。』


王宮に向かう途中、南の森に調査のため派遣していた騎士団と魔導士が、明らかに数を減らして王宮に戻るところに出くわした。


『何人、ヤラレた?』被害の大きさを横目に見ながら、アルディンは血と泥で汚れた一団の脇を追い越した。急がねば。


執務室に駆けこむと、すでに大臣たちがそろっていた。


南の森近くに点在する村々の被害は、思ったほど大きくはなかった。

結界は破られたが、同行していた魔導士副長が魔法陣を敷いて、魔物が森近くの村に襲い掛かるのを防いだからだ。


だが、騎士たちの被害は甚大だった。調査派遣だったため、第1騎士団の1班10人しか騎士を出しておらず、魔物に喰われて遺体も残らなかった騎士が2名、重傷者3名、残りも全員負傷した。


「第1騎士団は王都警備隊の兵団と協力し、王都と周辺の街や村の警護を!第2と第3騎士団はただちに討伐の準備を。魔塔からは魔導士を最低4人は出してほしい。第4騎士団は騎獣の準備をしておくように。」


アルディンの命令が第4騎士団にまで及ぶと、執務室内に緊張が走った。

「陛下、第4騎士団を動かすのですか?」宰相のアルバ公が確認の声を上げた。


「あれを今使わないで、いつ使うんだ?当代一の魔導士サザランドが張った結界を破ったほどの魔物の大群だぞ?」アルディンが指摘すると、第4騎士団創設のきっかけとなった情報大臣エルメは、ごくりと喉を鳴らした。


「いいか、1刻半後には出発する。討伐隊の指揮は私が執る。反論は認めない。アマリスとシエロは負傷者のための準備、他の者も自分の持ち場を守れ。」アルディンの解散!!の声と共に、大臣たちが散っていく。


きっちり1刻半後、第2・第3騎士団による合同討伐隊と魔導士6人がアルディンに率いられ、南の森に向かって出発した。


遠ざかっていく討伐隊を、ネヴィルと宰相のアルバ公が執務室の窓から見送った。今回は副長ではなく、魔導士長官のサザランドが同行する。そうでなければ、国王が討伐隊の指揮を執るなど、絶対に認めなかった。


「あいつは、自覚が無さ過ぎる。後継ぎのいない国王が、討伐隊の指揮だなんて。」ネヴィルが呟くと、宰相のアルバ公が肩をすくめた。


「もうすぐ皇女が到着される。これから陛下には、討伐ではなく閨でがんばってもらわねばな。」



     ●◎〇●〇◎●◎〇●〇◎●


北王国滞在の最終日。朝食後、紗奈はスニシャだけを伴って祖父母の待つ国王の間に向かった。ミルヤは今日は非番だ。


国王の間が近づくと、なにやら人の出入りが多く、慌ただしい雰囲気だ。何かあったのだろうか?

国王の間の扉前に立つ護衛騎士に、到着を伝えるとすぐに扉を開けてくれた。


「エドウィナ!こちらへ。」王妃の祖母がソファから両手を広げて立ち上がった。叔父の王太子も立ち上がった。国王の姿は見えない。奥にある部屋でなにやら報告を受けたり、命を出しているようだ。


それより、王太子の叔父がいることに驚いた。午前中は祖父母とのお茶だったはず。何か問題でも起きたのだろう。


「おばあ様、急ぎのご用が出来のですか。わたくし、部屋に下がりますね。」紗奈が部屋を出ようとすると、奥から祖父が現れた。なにやら難しい顔をしている。


「エドウィナ、来たか。座りなさい。」

「はい・・・」何だろうとは思ったが、王妃の隣りに腰を下した。王妃と王太子も腰を下ろし、王妃は体を紗奈の方に向けた。


「エドウィナ、落ち着いて聞いてほしい。」

落ち着けと言われても、紗奈には何が何やらさっぱり分からない。


「はい。」と素直に返事はしたものの、祖父母たちの様子がおかしいので、どんどん不安になってきた。


「今朝、サイラスから知らせが届いた。2日前に魔物が大量発生し、国王が騎士団を率いて討伐に出た。昨夜未明、魔物がまた大量発生して結界を破り、討伐隊に甚大な被害が出たらしい。」


祖母がそっと手を伸ばし、紗奈の手をにぎった。その手は小刻みに震えていた。


「国王アルディン殿の姿も、見つからないそうだ。」


「ッ!」紗奈は息を飲んだ。


「で、だな。今は婚姻どころではないので、しばらく北王国にてお待ちいただきたい、と。」


ああ、まただ。日本でむかし結婚した啓太は、浮気して出ていった。この世界で最初の婚約者は、紗奈が事故で昏睡状態になると、すぐに妹の第2皇女に乗り換えた。


そして今度は夫になる人が生死不明だなんて。どうして?祖父母や叔父、スニシャが何か言っているが、耳に入ってこない。


わたしは幸せになっちゃいけないんだ。きっとそう。幸せになってはいけない人間なんだ。


そして紗奈は、意識を失った。


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