15.身内ってやっぱりいいよね
北王国の王都レタに到着した時は既に日が落ち、エドウィナ皇女の馬車隊一行は疲れきっていた。皇女が国王をはじめとする王族たちとの挨拶を済ませた後は、簡単な夕餉が振る舞われただけで解散となった。
到着の晩はゆっくりと休んでもらい、歓迎の宴は翌日に行うよう、王妃が国王に進言したのだとか。これは正直、ありがたかった。城に着いた直後はあまり疲れを感じなかった。だが、国王一家と対面し、母に似た顔立ちの人たちになつかしさを覚え、ほっと安心した途端、どんどん眠気が込み上げてきたのだ。
疲れすぎて、眠すぎて、食欲もほとんど感じなかった。だから対面の後、疲れた体と胃腸にやさしそうな夕餉を見た時は、祖母の愛情を感じて胸にあついものが込み上げてきた。
夕餉のあとで紗奈が案内されたのは、こじんまりとして可愛らしい部屋だった。皇族や高位貴族などに用意される貴賓室とは、家具や壁紙など明らかにテイストが違う。
紗奈が部屋の中をきょろきょろと見回していると、スニシャが微笑んだ。「何か気づかれましたか?」
「何かしら・・・。誰かの部屋に遊びに来たみたい。懐かしいというか、不思議な気持ちになる部屋だわ。」
「ここは皇后陛下がオルドネージュに嫁ぐまで使われていたお部屋でございますよ。」スニシャが得意そうに破顔した。
「この部屋を最後に使われたのは王太子殿下の第1王女さまですが、先日ご結婚されてまたこの部屋が空いたので、王妃様がアリシア皇后の当時のお部屋を再現されたんです。」
この世界での母であるアリシアが嫁ぐまで使っていた部屋を、自分のために用意してくれたのか。初めて会った北王国の身内が、暖かい人たちで良かった。紗奈は心からそう思った。
翌朝、朝食後に王都レタを案内してもらうことになった。案内役はなんと叔父である王太子の第3王子、テオだ。
父が紗奈の結婚相手として挙げた候補の中に、テオも入っていたはず。母が呆れながら話てくれたのだ。おかげで、昨晩の対面時にはテオの顔を2度見してしまった。まだ10歳の少年だ。まったくお父さまは・・・
テオは紗奈を姉上と呼んだ。こちらでは、従姉も姉も一緒のようだ。初対面なのに昔から知っているような気がしたのは、テオもどこか母に似ているからだろう。
「姉上、今日は僕とレタに行く約束ですよ。レタはたくさん、見るところがあるんです!」紗奈の部屋に迎えに来たテオは、早く早くと紗奈を急かす。
ミルヤに支度を手伝ってもらい、紗奈はテオに手を取られて出発した。付き添いはミルヤと護衛騎士モーリス。スニシャには夜まで休みを取らせた。北王国出身の彼女に親戚と会う時間を与えるためだ。
「姉上、あそこがレタの中央公園です。あそこは王立学院で、僕が通っているのはあの初等科の建物です。あの建物が魔塔です。ああっ、お腹が空いたらすぐに言ってくださいね。僕、とってもおいしいケーキの店を知ってるんです。」
馬車の窓から一生懸命に案内をするテオ。それを微笑みながら、一つ一つの説明に頷く紗奈。ミルヤはそんな2人の様子を見て、従姉弟同士というよりまるで親子だわと思った。微笑ましいというより、不思議で仕方がない。
事故に遭ってからの皇女は変わった。子供の接し方が異常にうまい。まるで子供を持つ母親のような・・・
紗奈が以前、庭園で子供についてスニシャに問いかけた時、ミルヤもその場にいた。スニシャは皇女が「子供を生むことができるか?」と言ったと理解していた。
でも、ミルヤの耳には皇女が別のことを言ったように聞こえた。
「私は子供を生んだことがあったかしら」
その時は、皇女がそんな質問をするはずがない、自分の聞き間違えだ。スニシャが聞いた内容が正しいと思った。
でも今では、スニシャの方が聞き間違いをしたのでは?と心の中で思うようになっていた。
ミルヤが考え事をしている間、紗奈とテオは仲良く会話を続けていた。テオは初めて会った従姉が大好きになったようだ。




