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12.道中は多難です

春月の25日にオルドネージュの王都を出立したエドウィナ皇女の花嫁行列。先導の馬車、皇女の御用馬車、その後ろに侍女や女官たちの馬車3台が続き、さらにその後ろを衣装や宝石、各種調度品など諸々積み込んだ荷馬車10台が続く。


総勢15台の馬車列は、その規模と華麗さで見送る人々を圧倒した。さらにはその馬車隊の前後左右を100騎の騎士たちが守っている。


この行列の華々しさと騎士たちの数は、サイラスに対する威嚇でもあった。

【皇女を大切に敬え、さもなくばどうなるか・・・わかるな?】と。


馬車列はオルドネージュの国境を抜けるまではゆっくりと進み、国境を超えて北街道に入るとスピードを上げて、一路経由地の北王国を目指した。


馬車が急にスピードを上げたため、スミル・デメテリス伯爵夫人はバランスを崩して馬車の内扉に肩をぶつけた。あまりの痛さにスミルは癇癪を起こし、対面に座っている双子の侍女、マリサとエリサを怒鳴り付けた。


「なぜ、お前たち平民と伯爵夫人の私が同じ馬車なの?!おかしいでしょう。北王国に着いたら、お前たちは平民用の馬車に移りなさい!!」


座席の手配をしたのはマリサとエリサ姉妹ではない。この2人を怒鳴り付けるのはお門違いだ。だがスミルは朝、王宮で馬車に乗り込む時からすでに怒り狂っていた。


皇女に従う女官・侍女の中で一番身分が高いのは、伯爵夫人の称号を持つスミルだ。当然、スミルは自分が皇女の御用馬車に同乗するものと信じて疑わなかった。


ところが、あのスニシャとかいう女。あの女は!!騎士が馬車の扉を開けると、赤毛の不細工な女が最初に馬車に乗り込んだ。次に乗り込む皇女を馬車の中から手助けするためだ。それはわかる。


ところが、あの女。皇女が馬車に乗りこんだ後、スニシャは当然のように皇女の次に乗り込んだのだ。伯爵夫人である自分を差し置いて。


『わたくしを誰だと思っているの?!』心の中でスニシャに毒づきながら、さあ自分も乗り込もうとドレスを持ち上げた瞬間。


スニシャが馬車の扉を閉めた。スニシャに他意はない。馬車に乗ったら扉を閉めるという、当たり前のことをしただけ。だがスミルは、スニシャがわざと扉を閉めたと曲解した。


ないがしろにされたようで、はらわたが煮えくり返った。そして皇女の護衛馬車ということを忘れ、憤怒の表情で馬車の扉を開けようとして、護衛騎士に止められた。


「皇女殿下の馬車である。何用か?」

「わたくしは、スミル・デメテリス。伯爵夫人ですわ」


「デメテリス伯爵夫人でしたか。失礼しました。伯爵夫人の馬車はあちらです。」騎士が一礼した後、別の馬車を指さした。


「なんですって?わたくし、このデメテリス伯爵夫人が皇女殿下のお側に侍るべきではありませんか!」怒りでスミルが体を震わせると、馬車の扉が開いた。


ホッとして乗り込もうとしたスミルを遮ったのは、スニシャだった。スニシャは馬車を下りて扉を閉めると、スミルの前に立ちはだかった。


「殿下の御前です。お声を控えなさいませ、伯爵夫人。どの馬車に誰が乗るかは10日も前に決まったこと。何か意見があるなら、なぜその時に言わなかったのですか?」


低い、でも迫力のある声でスニシャはスミルに問いかけた。スミルは、そういえば何かの通達が来ていたと思い出した。ポイっと机の文箱に放り投げた文書、あれがそうだったのか。


ギリっと歯を噛みしめるスミル。通達文の中身を確認していなかった。


「モーリス殿。デメテリス伯爵夫人を先導馬車に案内して差し上げて。」スニシャは御用馬車の護衛担当騎士、モーリス・ダグバットにスミルを任せ、馬車の中に戻った。


自分が乗るのは先導馬車か。スミルは少し気分がよくなった。皇族専用の御用馬車ほどではないが、先導馬車は侍女たちが乗る馬車よりも大きい。


護衛騎士のモーリスに先導馬車まで案内してもらい、乗り込もうとしてまた怒りが爆発した。中には10代後半の綺麗な顔をした双子の姉妹が座っていたのだ。


「なぜ、ここに乗っている?これは先導馬車よ?」双子の姉妹、マリサとエリサは扉を開けるなり、不機嫌な大声を上げた迫力ある美女に驚き、オロオロした。


「も、申し訳ございません。私たちの持ち場がこの馬車・・・なんです・・・」消え入りそうな声のマリサに、スミルは「お前、平民ね?降りなさい。」と高圧的に命じた。


皇女の御用馬車の前からスミルを見ていたモーリスは、やれやれと肩をすくめた。


「伯爵夫人、どの馬車に誰が乗るかは10日前に決められたことです。彼女たちの持ち場はこの先導馬車です。夫人も早くお乗りください。」モーリスはスミルに手を差し出して、馬車に乗るようエスコートした。


スミルはモーリスのエスコートで馬車に乗り込みながら、悔しそうに憎まれ口を叩いた。


「こんな配車と人員の計画を立てたのは、きっと平民ね。貴族のルールを知らないのでしょう。」


「馬車に誰が乗るのか、最終的に決定されたのは皇后陛下です。」にこやかにモーリスが伝えると、スミルは無言で馬車の扉を閉めた。


北王国までの道中、怒りの静まらないスミルはマリサとエリサに難癖をつけながら、ネチネチと小言を言い続けた。双子が若く、綺麗な顔立ちをしているのも気に入らなかった。


北王国に着いたら、皇女殿下にお願いして、スニシャとかいう生意気な女と馬車を交代してもらおう。皇女だって、伯爵夫人がそばに侍っている方が見栄えがいいと思うはずだわ。


自分の都合のよいことを考えいるうちに、スミルの機嫌は少しだけ直った。逆にマリサとエリサは、これからずっとこの伯爵夫人の下で働くのかと思うと、目の前が真っ暗になった。


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