祓魔師 フツマシ ~ お供えのお菓子が呼ぶ嵐の竹ぼうき
エクソシスト。
ギリシア語で「厳命による追放者」を意味するこの言葉は、しばしば「祓魔師」と訳される。この言葉、元は、悪霊を追放する意味ではなく、衷心より真剣に祈る者という意味であった。
私の名は、フアリー・メライ。
今、問題の墓の前に菓子を供え、衷心をもって祈りを捧げている。しかし、予想通り何事も起こらない。やはり、アレが必要なのだろう。
懐から包丁とタマネギを取り出す。数回、トントンと切り付けたところで、それは起こった。
目からポロポロと、涙が流れはじめたのだ。
周囲の空気の温度が下がるのを感じる。どこからともなく風が吹き込み、突然、声が聞こえた…。
~ 私のお墓の前で、泣かないで ~
地縛霊である。死を受け入れられない、あるいは、死を理解できず、この世から離れられなくなった悪霊だ。
~ そこに私は居ないわ ~
墓地では、最近、夜間に墓が倒れるなどの被害が出ており、私のような祓魔師の出番となったわけだ。
「あなたは、もう死んでいる。成仏してっ。」
~ 死んでなんかいないのよ ~
周囲の墓石が倒れ、供えた菓子が散らばった。恐らくこの悪霊には、自我が残っていないのだろう。説得に対してまともな答えも無い。…仕方がない。両手を空に突き上げ呪文を唱える
―― 霊風塵 れいふうじん
霊風塵は、アンデット化した者を払う風魔法だ。…悪霊よ。この魔法で仙なる風となり、あの大空で鳥とたわむれるが良い。
舞う風が悪霊の漂わせるよどんだ空気を飛ばす。どうやら浄化に成功したようだ。
バシッ
その時である。背中に強い痛みを感じた。た…竹ぼうき?ほうきを持った坊主が私の背中を叩いていたのだ。
「てめぇか。ここ最近、墓石にいたずらをしていたのは。
分かってるだろうな。全部片づけるまで帰さねぇぞ。」
「いえ、私は、悪霊払いでして…。
その、この墓に憑いていた地縛霊をですね。」
バシッ
「黙れっ。つべこべ言わずに片付けろっ。」
説明をしようとすると、竹ぼうきが飛んで来る。
鬼気迫る顔の坊主から、説明に対してまともな答えを期待するのは無理であろう。…仕方がない。両手を地面に向けて広げると、散らばった菓子を拾う。
バシッ
「おらっ、ちんたらするな。
倒れている墓石は、これだけじゃないんだぞっ。」
背中に降り注ぐ竹ぼうきの嵐に耐えながら、私は、辺りの墓石を直していった。
エクソシスト。
ギリシア語で「厳命による追放者」を意味するこの言葉は、しばしば「祓魔師」と訳される者のことである。
文字数(空白・改行含まない):1000字
こちらは『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』用、超短編小説です。