表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

7:1年じゃなくて今すぐ離縁したい

 あの領地視察から3ヶ月が経ちました。

 ブレバス伯爵家へ、3日後にはお伺いしまして、これまでのバンダリウム侯爵家の非を非公式扱いにしてもらって頭を下げて当面何とかなりそうな分くらいを返しましたよ。ついでに、借用書なんて気弱な伯爵は作成していなかったので(当然、バンダリウム侯爵家にも借用書どころか、ブレバス伯爵家から借りた金額すら書かれたメモ書きみたいなものも無かったよ)、一体バンダリウム侯爵家はいくら借りたのか尋ねました。


 ブレバス伯爵は大まかな金額しか覚えておらず、さて困ったぞ……と思ったところで、伯爵の嫡男であるノーチス様が事細かに金額をメモ書きしていたのを見せて下さいました。彼は父である伯爵の気弱さに辟易していたようで、彼が当主の座についた暁には、バンダリウム侯爵家へ返還を求めるようでした。そのために長年(ノーチス様は現在私の2歳上の19歳。その彼が10歳になるかならないか頃から借りていたようです、バンダリウム侯爵家。……信じられない)借りに来た金額をメモ書きされていたそうです。


 と言っても、彼も最初は気付かなかったようなので借り始めの金額は曖昧ですが。その曖昧な金額を抜きにしても、メモ書きされた金額を見て私は溜め息を大きく吐き出しました。そしてウッカリ気を抜いてしまい、ブレバス伯爵邸でやらかしました。フラッシュバックとそれに伴う私のアレコレです。レスタを連れて行ったので、レスタが冷静に対処してくれましたが。


 ブレバス伯爵夫妻と嫡男のノーチス様には、初対面でとんでもないモノを見せてしまった事を丁寧に詫びました。ついでに私が奇行令嬢と呼ばれる所以がコレだ、と説明したら納得して下さり、その上夫妻からは同情心一杯の目を向けられ、なんだったらこのお金でその病を癒すために使って欲しい、とブレバス伯爵家の借金返済のために持って来たお金をそのまま使うように言われた時には、「何のために持ってきたのか分かりません!」と思わず大声を出してしまいましたよ。


 どんだけお人好しなんですかね、あの夫妻は……。


 とにかく、メモ書きされた金額を全部足して出た金額は、さすがのレスタも魂が抜けかけたような顔をしていたので、レスタの件は取り敢えず後回しにして、今すぐ全額は無理ですが、1年以内に返済します、と念書を書いて(私の名前ですよ、実家から借りるので)伯爵邸を出たわけですが。それから3ヶ月。実家から再びお金を借りてブレバス伯爵家へ返済しに行った帰りです。


「あー、あと半年以上も待たずに今すぐ離縁したいです」


 今回はレスタではなく、レーリアを連れての訪問でした。この3ヶ月の間に、私のフラッシュバックは片手を超えて起こってますから、ブレバス伯爵邸でやらかしてもレーリアなら対処出来るだろうと思って、の訪問でした。ちなみに今回はフラッシュバックは起こらずに帰り道です。


「お、奥様、そんな」


 反射的にレーリアが反応しましたが。私は片手を上げてレーリアを抑えます。


「だってブレバス伯爵家への謝罪も借金返済も旦那様はお声がけしているのに無反応。平民だか何だか知りませんが、愛人の元に入り浸って侯爵家へ帰って来る事が一度もない。いくらなんでも自分が妻帯者だと忘れていませんか? 一応仕事はやっている、とレスタが言っていたのでまだマシですが。閨を共にせずとも、一応夫婦なんです。交流くらい、図ろうともしないとは、どういう事でしょう。それでいて実家からのお金はきっちりレスタから受け取っているらしい。


まぁ契約書を作成した時にお互いに干渉をしない。愛人の事も干渉しない。愛人の子を侯爵家の跡取りとして据える。白い結婚で1年経ったら離婚。離婚しても、旦那様は仕事して借金を全額実家に返す。私は侯爵家の名に傷が付かない限り自由にする事と、重大な案件が起きた場合、交流を図る。というのが私の方の条件です。ブレバス伯爵家の借金は重大な案件でしょう⁉︎ ですから旦那様にお声掛けして交流を図ろうとしているのに、侯爵家に顔を出さない。連絡一つして来ない。お金だけは受け取る。それもレスタに持って来るように命じて持って行ったら交流を図るようにレスタが進言しても無視って、契約違反では無いのですか?」


 レスタとレーリアには契約書を作成し、私と旦那様がサインした物を確認しています。ちなみに、旦那様には無くすと困るから、と同じ契約書を旦那様用・私用・前侯爵様用・実家用と4枚作成してサインしてもらってます。尚、前侯爵様用の契約書。義父様は目を通しもせず、契約書を破ったそうです。

 それって格下の子爵家から嫁に来たくせにって行動に移したわけですよね?

 まぁ読んでいようがいまいが、渡したのは渡したのですから、契約書が有る限り文句は言えないですけどね。言わせませんが。


 それにしても、旦那様の仕事に見合う賃金では、実家からの借金返済額には一生かかっても到達しないですが、それに気付かず実家から借り続ける旦那様は、計算が出来ないんですかね。それとも踏み倒すつもりですか。


「奥様……」


「取り敢えず、ブレバス伯爵家へきっちり返済するまでは離婚しませんよ。その代わり、その返済額も実家の借金に上乗せしますが。旦那様は一生借金を返済してくれる気が有るんですかね。実家からの借金とご自分の賃金が見合ってないんですけど。それとも踏み倒すつもりですかね」


 私は大きく溜め息をつきました。

 もし、踏み倒すつもりなら、旦那様だけでなく前侯爵……つまり義父様もハルファ子爵家をあまりにも見下し過ぎてますけどね?

 お父様は子爵位から陞爵されるのを断っているだけで、本来なら直ぐにでも伯爵位を与えられる方ですよ。だって、この国の流通経路の半分はお父様が関わってますし、他国との貿易もお父様が大半に関わってますからね。お父様がこの国を捨てる事になったら、この国の経済の半分は打撃を受けますよ。


 更にお母様は隣国の財務の文官でしたけどね、お母様のお姉様は隣国の王妃様とは親友と言っても過言ではない付き合いをされているんです。そんでもって隣国の王妃様と我が国の王妃様は当然ながら交流が有りますけど、王妃同士という公的な関係だけでなくそれなりに親しい付き合いなんですよ。

 だから、ハルファ子爵……つまりお父様の事も我が国の王妃様が直々に気にかけて下さっているんです。当然ながら私の事もご存知で、私の病気について心を痛めて下さっている、とお母様経由でお聞きした時は、感動したものです。それはさておき。そんなハルファ子爵家の事を、旦那様も義父様もどこまでご理解していらっしゃるのか。


 ーーいえ、ご理解頂けてないから、私を「嫁にもらってやる」と義父様は仰って、契約書を読みもせずに破くわけだし、旦那様も契約書を作成してお互いにこの契約書は守りましょう、と約束したのに関わらず、重大な案件だと言っているのに交流をして来ないのですよね……。


 もう、1年経たずに離婚してはダメですかね。


 旦那様に関心を寄せていないですよ。無関心なら感情を向ける必要も無いでしょう。でも私に関する事なら、旦那様はどうでもいいですが、領民達に関する事は怒りますよ。私の夫としての“旦那様”ではなく領主としての“旦那様”には感情くらい寄せます。だって領民達にとって、旦那様は領主なんですから。


 はー。

 これ以上は期間限定の妻には何も出来ません。新しく妻になられる方には、是非とも領民の味方になって欲しいものです。


 それからまた数ヶ月が経ち……なんだかんだで、旦那様と結婚してから半年以上を過ぎた矢先のこと。

 ブレバス伯爵邸から最後の借金返済を終えて帰ってから1週間経った頃の事。

 王宮から使者が来る、と珍しく義父様が慌てて屋敷を訪れました。義父様は旦那様が居られない事に対し「早くアイツを連れて来い!」とレスタに命じまして。結婚式以来、実に半年以上ぶり……正確に言えば8ヶ月と12日ぶりに、旦那様とお顔を合わせました。

 皮肉な事に、私に時々思い出したように嫌味を言いに来る義父様の方が顔を合わせてましたね。6回ですけど。


「父上、王宮からの使者とは一体、どういう事なんですか!」


 カイオス・バンダリウム侯爵……つまり、旦那様は帰って来たというのに、挨拶もせずに義父様に詰め寄って居られますね。しかも私が一応義父様の隣に居るというのに、一顧だにせず。無視ですよ、無視。まぁどうでもいいですけど。


「私も分からん。王宮からの使者がバンダリウム侯爵夫人に話が有る。だから侯爵共々待つように、と私の元に来たのだ」


 つまり、私、ですか。

 というか、使者が前侯爵の所に行って言付けをしてからやって来るという異常さに気付いてますかね。

 要するに、王宮からの使者……国王陛下か王妃殿下或いは王太子殿下の何方かの使いか知りませんけど、王家にバンダリウム侯爵は家に居ない、とバレているという事なのに、ね。そこに父子揃って気付かない事の方が笑えます。


「えっ。侯爵夫人……?」


 そこでようやく私の存在を目にした旦那様は、どうやら私と結婚したことをお忘れになられていたようですね。どれだけ頭の中身が空っぽなんでしょうね。


「あらやだ、旦那様は私が妻だということをお忘れみたいですね。頭の中身が空っぽなんですか」


「貴様……」


 ウッカリ口を滑らせたら旦那様が顔を真っ赤にしましたけど、本当の事じゃないですか。


「嫁に来た分際で夫に対してなんて言い様だ」


「夫? 白い結婚で、結婚式以来、本日が2度目の顔合わせの方です。どう夫だと思え、と? ついでに言わせてもらえますなら、義父様と旦那様の実家に対する借金返済、旦那様が一生かかっても払い切れませんが、踏み倒す事は許しませんから。きっちり返済してもらいますわ」


「「なっ……。嫁の分際で」」


「嫁の貰い手も無い奇行令嬢が」


「私の妻という名ばかりの存在が」


「あらあら。契約書の存在が有る以上、文句など言わせませんわ。それに、領地の不正にも気付かない無能な領主父子に言われたくないですね」


「「不正……? 無能、だと……?」」


「あらあら、旦那様は記憶力の悪いお方なのですね。レスタがきちんと報告したはずですよ。バンダリウム家の名に傷を付けないなら何をしても良い、と仰ったから、傷を付けないように私が処罰した、という事まで報告しているばなのに、さすがは無能ですわね」


「こ、小娘がっ」


 旦那様は顔を真っ赤にして何かを言おうとしましたが、義父様は「どういうことだ⁉︎」とレスタに問い詰めてます。レスタが説明をしようか迷った所で、王宮からの使者が訪れました。


「良い機会ですわ、レスタ。王宮からの使者様の前でこの話をしましょうか」


「ま、待て! あ、後で良い。後で聞く。今は使者様の話が先だ。お前に用が有るらしいからな」


 私が使者様の前でバンダリウム侯爵家の恥を語って聞かせよう、と言えば義父様が後で良い、と大人しくなった。最初からそうして黙っていて下さいませ。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ