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6:段々と見えてきた事

 さて。無事……と言っていいのか分かりませんけども。視察の初回が終わりました。あまり長居するとフラッシュバックが怖いので。睡眠は領地視察という慣れない事をやったからか、4時間くらい寝られました。うむ。疲れていたわけで。結構寝られた上に悪夢も無かったのは有り難かった。


 で。帰りも行きと同じ馬での移動なんですけどね。その道中、領地視察で気になった事を思い返してました。どうしても気になる事が有りました。


 マトモに領地視察を行なっていたら、ウチから借りたお金の1/3は減ったと思うんですよね。つまり1/3は全く不要な借金ということ。もしや、領地なんて気にかける必要も無い、とでも思っているのでしょうか。そこまで考えていなかったとしても、領地を気にかけてなかったのは確かですよね。領地に来る前の時点で、私はおかしな所に気付いたわけですし。そして領地に来た早々、不正発覚。


 少しでも領地視察をしていればあっさりと判った事がずっと放置されていた。……前当主である一応の義父も現当主である一応の旦那様も何を考えているのか。


「相手を信頼する事と領地視察をしない事は全くの別物だと理解していないのでしょうかね……」


 思わず溢してしまった愚痴にレスタが反応する。


「左様でございますね……。私ももっと大旦那様にも旦那様にも領地へ目を向けるよう進言するべきでした。長年不正を放置していたのは、私にも責が有ります」


 そんな事は無いです、と簡単には言えない。執事として出来る限りの声がけをしていたのか、それとも軽く諫める程度だったのか、私が来る以前の事など解らない。ただ言えるのは、結果が見えてしまっている、ということだけ。


「一応の旦那様も一応のお義父様も領地へ意識を向けていなかったのは確かでしょう。こう言ってはなんですが、よくそんなので侯爵位を務められていますね」


 皮肉でもなんでもなくただの疑問。レスタは何も言わず私から視線を逸らした。言い過ぎかもしれないが、でも、そういうことである。まぁ、もう過ぎた事。


「取り敢えず、これで税収は安定するでしょう。本来ならきちんと納められていた筈の税です。収入が増えますが、増えた分は領地へ正しく返還しましょう」


「借金へ返すお金に充てるのでは?」


「旦那様が頑張って仕事して返して下さるとのことです。それが何年かかっても構わないのでしょう。でしたら領地に使用するのが一番でしょう」


「左様でございますね」


「それにしても。1/3は領地をきちんと見ていれば不要だった借金でしたね。残り2/3の借金はどういった理由の借金なのでしょうね。レスタは把握していないのですか」


「いえ、把握しております。恥ずかしながら見栄の為の借金でございます」


「見栄の為」


「左様にございます。侯爵位という高い地位である以上、前侯爵夫人である大奥様主催のお茶会や侯爵家主催の夜会等で家格に見合った茶会や夜会にせねばなりません」


「確かに。茶会で用意するお茶一つとっても茶葉の質から吟味しなくてはならないでしょう。花もまさか道端に咲いている野草というわけにはいかない。夜会もドレスや燕尾服に装飾品や小物も明らかに流行遅れでは笑われる。特に女性はその辺り、同じ女性に対して厳しい目を向ける。成る程、必要経費のための借金ですか。それは仕方ない。それにしても、何処から借りているんです?」


「お早いご理解をありがとうございます、奥様。借りる先は……ブレバス伯爵家をご存知でしょうか」


「ああ、バンダリウム侯爵家とは親戚でしたっけ。確か、一応旦那様のお祖父様にあたる方の末弟様の婿入り先?」


「さすが奥様、良くご存知で」


「そこに借金を? しかし、随分な金額を借りています。返済もしていないのに良く貸して下さいますね」


「現在のブレバス伯爵は、その、代替わりをされているのですが。気弱な気質で断れないようで。奥方にあたられる方も同じような気質らしく……」


「では、もしや現在のブレバス伯爵家が落ち目という噂は、バンダリウム侯爵家にお金を貸していて返してもらっていないから、という事ですか」


 レスタが視線を逸らして私は自分の予想が当たっていた事を知る。溜め息を大きく吐き出し、実家へ急ぎ連絡する事にした。


「バンダリウム侯爵家の見栄を保つ為に、たとえ親戚とはいえ一つの伯爵家を没落の憂き目に追い込むなど有って良い事では有りません! 何をしているんです、あの義父と旦那は!」


 馬車の中であるにも構わず、思わず大きな声を上げてしまいました。レスタがちょっと震えるのを見て、慌てて口を閉じる。


「言い過ぎました」


「いえ。奥様の仰る通りです。私を含め、皆、バンダリウム侯爵家が良ければ他家など……という傲慢な考えが有ったように思えます。恥ずべき事です」


「解ってくれてありがとう。帰り次第、実家へ連絡し、急ぎブレバス伯爵家への借金をある程度返します。没落させてはなりません」


「かしこまりました」


「合わせて旦那様にはブレバス家への返済と実家への借金の件、きちんと連絡して下さいね」


「はい」


 様々にレスタへ指示を出して実家への手紙をどのように書こうか考え。また、ブレバス伯爵家へ旦那様か義父様が詫びに向かうべきか……と頭を捻りました。私が赴いても構いませんが、きちんと披露目を……ってあら。


「もしやブレバス伯爵は結婚式に出席されてましたか」


「はい、その、覚えていらっしゃるでしょうか。5年以上前に流行した燕尾服とドレスの40代程の夫妻なのですが……」


 直ぐに思い浮かびました。レスタの表現はマシでして、はっきり言ってご夫妻共に色褪せた、要するに使い古したお召し物だったのです。そういえば、旦那様も義父様もそちらを嘲笑っていましたが……。


「あのご夫妻が?」


「は、はい」


 思い出すと共に旦那様と義父様の嘲笑を思い出したら怒りが湧いて来ました。レスタは私の怒りを敏感に感じ取ったようです。流行に遅れたお召し物という事は、あまり裕福では無いのだろう。そのような状態で肩身の狭い思いをしながら出席して下さったのか。有り難い。とだけ考えていた私ですが、その裕福で無い原因がバンダリウム侯爵家にあるのに関わらず、それをあの父子は嘲笑っていたのです。


 怒りしか湧きません。

 何より。呑気に裕福で無いのに肩身の狭い思いでも出席して下さって有り難い、などと思っていた自分に腹が立ちます。ブレバス伯爵夫妻はもしかしたら出席もしたくなかったのではないでしょうか。格上の侯爵家だから、親戚だから、と断れなかっただけで。

 きっと実家に借金を申し込んで来たのは、ブレバス伯爵家のお金が殆ど無くなり、借りられなくなったから、私と婚姻を結ぶという建前で今度は実家から毟り取ってやろう、と考えている事が判明したでは無いですか!


 格下だと思ってバカにするのも大概にして欲しいものです。


「至急、ブレバス伯爵夫妻のお好きな物を準備して下さい。実家から纏まったお金を借りるにしても、直ぐには無理です。3日必要でしょう。3日以内に伯爵夫妻のお好きな物を準備し、私が赴きます。表向きは結婚式に出席して下さったお礼です。他家にはお礼状と共に簡単なお礼の品を送っていますが、ブレバス伯爵家はバンダリウム侯爵家の親戚ですから、新妻である私が赴いて改めてお礼を伝えても何ら問題は無いでしょう。旦那様が居なくても構いません。表向き仕事で忙しい事にしておきます。旦那様には当日の朝にでもブレバス伯爵家を訪う事を報告しておけば良いでしょう」


「は、はい。かしこまりました、奥様」


 レスタは長年侯爵家の執事を勤めているだけあって、私の怒りの理由を、今の発言で理解したようです。頭の回転が早くて助かります。先ずはバンダリウム侯爵家なんかより、ブレバス伯爵家を没落の憂き目から避ける事が先決です。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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