4:やらかしてしまいました。
領地への視察を強行し、代行官(バンダリウム家が用意した領主の代わりに領地を見る人だ)が驚くのも構わずに領主館に押し入る。というか、そもそも代行官が領主館に居る事がおかしいんだけど。領主館の隣にある行政館に寝泊まりするなら分かるよ? 此処はあくまでもバンダリウム家の当主一家が住む領地の屋敷だからね? なんで領主館にただの代行官が我が者顔で暮らすの。
なんだか胡散臭い代行官のあまりにも見え透いた媚具合が気になって行政館へ乗り込む。代行官の執務室に、あからさまに金庫が置いてあった。これ見よがしに置いてあるって何かの罠かな? とは思いつつもレスタに「コレ開けられる?」と尋ねれば、鍵が室内にあるはず、というので机を漁ったらアッサリ見つかった。……えっ、ねぇこんなに分かり易い所に置いておくなんて、もしや本当に罠?
取り敢えず、開けてみた。
拍子抜けってこういう事を言うのだろう。
表向き……つまり領主に報告する時に見せる帳簿と、実際の所の所謂裏帳簿が存在した。私が指摘した地方の税収の数字のおかしさが、この裏帳簿にて理由が判明した。
「成る程ね。こういった事情だったわけ。領主が視察にくる時は前もって分かっていたから、こういった裏帳簿も隠せていたのでしょうが、抜き打ちで私とレスタが来るなんて思わなかったので隠せなかった、と」
「こ、こんなこと、領主様が許すはずが……大体、あんたみたいな小娘が本当に領主様の妻かどうかも分からないじゃないか!」
あらあら。代行官ともあろう者が領主の妻に対してなんたる暴言かしら。
「あら。私はバンダリウム家の名前に傷をつけない限り、好きにしていいって言われているのよ?」
私の発言に、代行官が少しだけ黙ってそれからニヤリとした。あら、何を考えたのかしらね。考えが透けて見えそうですけど。
「ふ、ふふん。その裏帳簿の存在が表に出れば、バンダリウム家の名前に傷が付くぞ! 今ならまだ間に合う。さぁ小娘、それを渡せ!」
「……なんて言われて素直に渡す程、私は見下されているのね。あなた、私はイアンヌ。イアンヌ・ハルファでしてよ? この名前に聞き覚えが有りませんこと?」
「は、ハルファ⁉︎ まさか、あの、国で指折りの金持ちという⁉︎」
「どうして、私みたいな小娘が帳簿の見方など解るのか疑問に思いませんでしたの?」
「あ、ああ、あああっ」
ハルファの家名を出せば代行官は崩れ落ちた。我が家は国有数のお金持ちですが、どうしてそれだけ裕福か、といえば、お父様は商才に長けていますので、それも有りますが。お母様は実は他国で文官でしたの。それも財務の。
他国では我が国よりも女性が躍進しておりまして、まぁお母様のように文官を務めている女性も多い国が有ります。ちなみに武官にも女性はおりましてよ。お母様はその国出身で、実はお父様の商才に目を付けましたの。それも不正を行って荒稼ぎをしているのではないか、といった方向で。
お父様が国内で稼いでいる分には、仮にそうであっても放置していたと思われますが、お父様は国外の輸出入商品も扱っておりまして。お母様は自分の国が食い物にされてしまうのでは⁉︎ と危機感を抱き、お父様に接触を試みたそうなのですが。
まぁ端的に言えば、お互い意気投合したようでして。あっという間に婚約、結婚の運びになったそうですわ。もちろんお母様も貴族の方ですから、それなりに婚約期間も設けたそうですが、まぁ財務担当の文官を務めていたお母様ですから、あっという間にご自分の両親を説得して押し掛け半分で嫁いできたそうです。
そんなお母様をお父様はきちんとお迎えし、珍しく相思相愛の貴族の結婚です。そしてお母様は財務担当の文官だった経験を思う存分発揮しまして。こういった帳簿付けや支払い等裏方に徹しています。そんなわけで、私がバンダリウム家の帳簿と裏帳簿を確認するのは、当然出来ます。何しろ、私の悪癖がありますからね。
そんなわけで、代行官や今回の一件に絡んでいた者達は、領主代行の名の元に私個人の裁量で処分を下しました。だって、名前を傷付けるわけにはいかなかったですからね。レスタに、内々で旦那様に報告をしてもらうことにして、急激に時間が出来てしまったので、さてどうしよう? というわけ。当然、既に代行官以下の者たちは、牢に入れたのだけど。さて、どうしましょうかね。
「ーーっあああああ!」
気を抜いてしまった途端、コレだ。
私はレスタやこの領主館の使用人達の前で、フラッシュバックを起こしてしまった。
お読み頂きまして、ありがとうございました。