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俺はWeb小説家をやめる  作者: TOBE
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私は見透かされる

 きたる日曜日。県下最大の鉄道駅、西中央駅で、私達は落ち合った。


「ったく女だけっつったのになんであんた達も来んのよ」


 憤慨する予夢ちゃんを男子を呼んだ当人である上竜さんがなだめている。


「まぁまぁそう言わずに。あら、近葉くん、紺野くん?」


 気付くと男子二人は行先とは反対方向の西口に向かって歩いていく。

 予夢ちゃんは慌てて呼び止めた。


「ちょっと、どこいくのよ」

「どこって、帰るんだけど」

「わーった、私が悪かったわよ。このヤサグレ供めが」


 エネミーランドにはバスに乗っていく。バス停で待つ間、男子のローテンション具合いに予夢ちゃんがいきりたつのを、上竜さんと二人、並んで笑う。

 と、上竜さんの笑顔の端に、なんだか憂いのようなものを見つけ、私は「どうしました」と話しかけた。


「いえ……」

「当てましょうか。クズさんと二人きりだったらなぁ、とか考えてたんでしょ」

「そんな」

「いいんですよ。私も思わないでもないですから。だけどクズさんをデートに誘う時は、お互い一言報告しましょうね」

「そ、そういうものかしら」

「だっていつの間にか付き合ってた、なーんて辛いじゃないですか。だから自分が選ばれなくても応援できるように、ここは一つフェアにいきましょう。ライバルとして、友達として、ね?」


「フェア……友達……」


 俯き、言葉を反芻する上竜さんの顔は、影がかかってよく見えなかった。だけどすぐにいつもの涼やかな笑顔に戻り、白くて華奢な手が私の前に差し出される。


「分かったわ。隠しごとはなしね?」


 握りかえすと、なぜかひんやり冷たかった。




「みんなの目の敵、エネミーくんだよ~。君たち今日は僕のこと殴りに来たのかな~?」


 エネミーくん怖っ。卑屈すぎて怖っ。

 でも人を小馬鹿にした猿顔といい、クネクネと気色悪い動きといい、見てると確かにムカムカしてくるわね。

 私が自分の手を抑えていると、上竜さんがツカツカとエネミーくんのそばまで歩いていき、興味深そうに着ぐるみをポンポン叩いた。


「私が着た時はすぐに息が上がってしまったのに。中の人はしっかりと訓練を積んでいるようね」

「中の人とか言うんじゃないよ君~。精神攻撃は勘弁しちくり~」


 ヘイト慣れしてるエネミーくんも、上竜さんの天然にはタジタジのようだ。

 というか「私が着た時」ってどういう意味だろう。バイトでもしてたんだろうか。

 謎は解けないまま私達は一つの建物の前へ。建物の名はミラーハウス。


「なぜ私達は最初のアトラクションにこれを選んでしまったのか」


 戦慄する予夢ちゃんに紺野くんが「地味だよね」と相槌を打っている。


「ええ~いいじゃないですかぁ。全国のミラーハウスファンに失礼ですよ」


 従業員にフリーパスを見せて入ろうとすると、予夢ちゃんが「あ、ちょっと待ちな」と呼び止めてきた。


「なに?」

「賀来ったら先頭で入る気?あんた鈍臭いから頭ぶつけても知らないよ?」


 私が鈍臭い……?

 ゴゴゴゴと効果音が鳴る中、みんなを見る。いっせいに視線が反らされる。


「クズさん違いますよね。私は鈍臭くなんか」

「ええっと、まぁ。前に屋上の窓から動けなくなったことあったし」

「上竜さん」

「動きは鈍そうよね、胸の重みで」

「紺野くん」

「ホルスタイン」


 そんな風に思っていただなんて、みんなひどいっ。あと紺野くん下ネタが直球すぎる。


「いいですよーだ。私の迷路さばき見せてやろうじゃないですか」


 迷路さばきってなんだと自分でも思いながらさっさと中に入る。


「ミラーハウスってのは基本、不思議空間を楽しむための場所であって、迷路自体はそんなに」

 

 ゴンッ。ソッコー頭をぶつけた。な、なんだと。


「と、まぁ。これはお約束のボケということで。分かってますって、正解はこっち」


 ゴンッ。


「……私きっと、ここで死ぬんだわ」


 私はもう一歩も動けない。お父さんお母さんごめんなさい。


「何アホなことしてんのよ。どうしてもってんなら、手を前に出して鏡があるか確認しながら行きなさいよ」

「何それ裏技?さすが予夢ちゃん!」

「裏技というか、常識でしょ。ほんとあんたって鈍臭いわよねぇ」


 むぐぐぐ。このままでは賀来密=鈍臭いが定着してしまう。本当はくの一のようにすばしっこいのにっ。

 私が歯噛みしていると、あることに気が付いた。


「でもこの場で一番ドジなのは予夢ちゃんだよね」

「は、なんで私がドジなのよ」


 予夢ちゃんがいつもの高慢ちきな感じを出すと、上竜さんがカツカツと歩いてきて「確かに岳野さんはヌケてるわよね」と床に指をさした。


「ミラーハウスにミニスカートはご法度よ?」

「うへっ?うわわわわ」


 とそこへ、何ともタイミング悪くクズさんと紺野くんが入ってくる。


「うわー綺麗だね、近葉くん。地味だなんてとんでもなかったね」

「そうだな。でもなんか不気味さもあるよな。ゲシュタルト崩壊しそう」

「実際、合せ鏡を見続けてると凶暴化する人もいるって聞いたことあるよ」

「ほんとかよ、そんなの都市伝せ……」


 彼らの楽しげな会話は、隅の方で固まる私達三人を見つけてピタリと止まる。


「お前ら何やってんだ」

「来ないでください。予夢ちゃんに近付いたら駄目です」

「え、岳野どうかして」

「いいから先行ってくださいっ。目ん玉ほじくって鮫のエサにしますよ!?」




 さあて、岳野さんのパンツはこのバニラの色だったかな、それともストロベリー?

 紺野くんがクスクス笑いながらアイスクリーム屋さんからアイスを受け取っている。


「あんたってほんと、知り合う前はこんな奴とは知らなかったわ」

「こんなやつって?僕はフツーの男だよ」

「ったくなんでそんな勝ち気なのよ……で、近葉。あんたは見なかったでしょうね!?」

「おおおお俺は見てねーよ。ちゃんと言われた通り先行っただろっ」


 クズさんは真っ赤になって否定する。


「ほら、これが正しい反応よ」

「近葉くんはアザとすぎるよ」


 紺野くんの呟きに女三人は「同意」と返し、クズさんは「なんでだよ!」と憤っていた。

 クズさんと紺野くんの追いかけっこが始まって、上竜さんと予夢ちゃんは笑いながら見ている。

 私は輪から少し離れ、携帯についてるカメラで写真を撮る。メインに据えるのは勿論クズさん。画面の中の彼は怒っているが、目の端に弾むような明るさがあった。彼が楽しそうで、私も嬉しくなる。

 一人でクスリと笑っていると「楽しそうだね、お嬢さん」後ろから声を掛けられた。


「エネミー、くん?」


 振り返ると着ぐるみが立っていた。


「まずは作戦成功というわけだ」


 入り口にいたエネミーくんも妙に癇に障る鼻ぬけ声であったが、目の前から聞こえる声は、それとは別種の不快感――試すような、心を覗きこむような、サイコな知能犯を思わせる響きがあった。


「作戦ってなんですか」

「またまた惚けてはいけないよ」


 謎のエネミーくんは「上竜小筆を誘えば、セットで彼がついてくる」と言った。

 私は息を飲むのを悟られないよう音を殺し「あなた、誰ですか」ときく。


「知ってるだろう?みんなの敵さ」

「ふざけないで下さい。私もクズさんの小説を読んだんです。あなたは……」

「ねぇ、悔しくはないのかい」


 正体を言おうとした私の口を塞ぐように。別の言葉が覆い被さってくる。


「君には出来なくて彼女には出来た。作戦は成功だろうけど、敗北感を感じないかい」

「私は……最初は女子水入らずでって考えてましたから」

「ほほう、じゃあ誘おうと思えば誘えたと」

「……」


 黙っている私に、悪党はもう一歩近付き、言った。


「本当は薄々感付いているんじゃないか。上竜小筆とモブ・モブ男くんの関係は、君に対してより何歩も先を行っていると」


 おうい、賀来。おいってば。

 クズさんの声が遠くに聞こえる。


「賀来、どうした。しっかりしろ!」


 突然クズさんの声が大きく聞こえ、私は思考停止から戻ってきた。


「クズさん……違うんです。私はただ、みんなともっと仲良くなりたくて……」

「分かっているよ。でもどうして急にそんなこと」


 答える代わりに、私は視線を別の方向へ向ける。

 しかしそこに例の悪党の姿はなく。まるで曖昧な噂のように、忽然と姿を消していた。 




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