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俺はWeb小説家をやめる  作者: TOBE
26/62

俺の就労体験は意外なものに決まる

 学校での一日は退屈なりにあっという間に過ぎ、残すところは最後のロングホームルームのみとなった、とある日の休み時間。上竜がクネクネと身体をくねらせながら、甘ったるい声で話しかけてきた。


「ねぇん、いずいずぅ~」


 isis……英会話の練習か?何にしろ気持ち悪いから他所でやって貰いたいものだ。


「もしかして近葉くんのニックネームかな」


 やめろ紺野、食い付くんじゃない!


「ええそうよ。二人はもう渾名で呼び合う仲なのよ。ほらいずいず、いつもみたいにコフィって呼んでちょうだい」


 コ、コフィ!?確実にアナン事務総長が連想されるがいいのか!?


「呼ばない」

「どうして」

「部屋に入ったからって調子に乗るなよ」


 遠くの席で賀来が「なぬっ」と声をあげたが無視して、俺は続ける。


「部屋に入れたのは母ちゃんがそうしろと言ったからだ。多分クラスの誰が訪ねて来ても同じだったんじゃないか」

「そんなことないわ。私とお母様はツーカーだもの。私は特別よ」

「どうだかな。母ちゃんは社交的だから、俺のクラスメイトなら誰でもウェルカムだと思うけどな。それを証拠に紺野なんか週に一度は遊びに来るんだぜ」


 その事実は上竜にとって相当にショックだったようで、硬直から立ち直ると慌てて紺野に確認する。


「本当なの、紺野くん」

「まぁね。近葉くんの部屋ってシックで居心地いいからつい足を運んじゃうんだ。あの映画のポスターも……知ってた?あれの裏にはちゃんと穴の絵が貼られてるんだよ。洒落てるよね」

「知らない、私は近葉くんの穴を見せて貰ってない」

「えーっ、見た方がいいよ。近葉くんの穴」


 なんか別の穴に聞こえるのは俺がおかしいのか?


「いつか近葉くんの穴を見せて頂戴ね。私の穴も見せるから」

「その言い方は絶対おかしいだろ!」


 ったく、なんて下品なやつらだ。腕を組み、仏頂面を作っていると、意外な人物の訪問があった。


「ハロー、陰キャ共」


 冗談なのか微妙な挨拶と共にやってきたのは、文化祭以来、俺が苦手とする岳野予夢である。

 こいつは、普段なじみのないコミュニティにもズケズケと入っていく剛胆さと、チャラチャラした見た目とは裏腹に回転の早い頭脳、更にはこうと決めたら相手の都合などお構い無しの強引さを併せ持つ、相手取るには非常に厄介な存在なのである。


「何の用だよ」

「もー、そんなに身構えないでよ。ちょっとききたいことがあってさ。あんたら就労体験は何をするかもう決めた?」


 就労体験。文字通り特定の職業を一日体験し、将来の就活に役立てようという、カリキュラムである。

 俺はクジで決まった適当な連中と、適当な仕事を適当にこなそうと思っていたのだが、どうして岳野は俺達にそんな質問をするのだろうか。

 これは紺野も不思議に思ったらしく「岳野さんはどうするの」ときいた。


「私?私は仕事は何でもいいけど、グループは気の合う人と組みたいわね」


 それを聞くと、上竜はキョトンとした顔で言う。


「でもグループはクジで決まるのよね。自由には選べないんじゃないかしら」

「いやあ、そこはほら、なんとでもなるっていうか」

「まさかクジを交換しようって腹じゃないでしょうね」


 上竜の咎めるような言い方に岳野が「別にそんなん誰でもやってるでしょ」と返し、二人の間にバチバチと火花が散る。

 世渡り上手と曲がったことが大嫌いな真人間。件のようなグレーゾーンに関していくら話し合ったところで、二人の意見が重なることはないだろう。

岳野の方はそんなこと重々承知なのか。


「まあとにかく、クジを引いたら私の所に来て。絶対よ」


 飛竜院が入ってくるなり彼女は早口でそう締め括り、自分の席に帰った。

 それにしてもどういうつもりだろう。交換の選択肢を増やす為の声かけだろうか。まさか俺達と組もうなんて言い出す気じゃないよな。

 あーあと賀来、こっちに来ようとしてたみたいだが、一歩遅かったな。優柔不断なとこ直した方がいいぞ。




 さてクジを引き、言うこときかないと何されるか分からないので、素直に岳野の席までやってくる。


「近葉、何グループだった」

「待て、まだ開けてない」

「嘘でしょ。クジって普通、貰ったらすぐ開けるじゃん」

「興味ないからな」


 言いながら、俺は折り畳まれた紙を開く。

 別にどのグループでも一緒。こんな紙切れ、ただ数字が書いてあるだけ……。

 

「……」


 くまさんチーム。そしてファンシーなクマの絵。

 飛竜院のやつ絶対笑かしにきてるだろ。あいつは自分の真面目そうなルックスを最大限生かしてボケてくるからな。


「く、クマさんチームだったよ」

「あらそうなん?だったら手間が省けたわ」


 差し出された岳野の手には同じくクマの絵があった。ということはやはり。


「お前、俺達と一緒に?」

「まあそうなんだけど。あっ紺野、何グループだった」

「クマだけど」

「おっほー。こりゃ楽でいいねぇ」


 岳野が指を鳴らして喜んでいるとそこへ、賀来が勢いよく駆け込んでくる。


「わ、私も。私もクマさんですっ。偶然にもパンツと一緒です!」


 いや下着の柄は発表せんでいい。


「なんてこと……私もクマさんチーム」


 えっ、何この子。なんかプルプル震えてるけど大丈夫か。確か毒蝮三太子(どくまむしさんだこ)とかいう、名前だけはとんでもない、毒にも薬にもならない地味目女子だった気がする。


「あああどうしたらいいの私、陰湿セフレ野郎と腹黒ショタ、極悪女番長と一緒のグループになってしまうなんて!」


 前言撤回、ものすごい毒を吐くぜ三太子!

 俺が戦慄していると、白々しくメソメソしていた三太子の震えが止まる。

 えっまさか。そこで床に手をついているのは。


「ミス・高飛車……?」


 お前は恐山の石か!

 三太子に対するツッコミはともかく、俺は夢を見ているのだろうか。

 あの気の強い上竜が土下座……?


「ぐ、ぐじを……ぐじをごうがんじでぐだざいっ」


 ああ……。




「こちらこそありがとうございますっ。お陰で陰湿セフレいかくさ豚野郎に視姦されずに済みますっ」


 上竜とクジを交換した三太子は晴れやかな笑顔で去っていく。アバヨ、歩く青酸カリ。


「さてと、じゃあ面子も揃ったところで話し合いを始めますか」

「ちょっと待ってくれ岳野。話し合う前に聞かせてくれ。どうして俺達とつるもうって気になったんだ」


 クラスの中心人物である彼女のことだ。グループ組む相手なんて他にいくらでもいるだろうに、何か目的があるとしか思えなかった。

 フォークダンスの時のように、またろくでもないことを企んでいるのではと警戒し、尻尾を掴もうとする俺であったが、岳野の返答は全く掴みどころのないものであった。


「私、本が好きなの」

「そうらしいな」


 知ってたか。岳野は少し照れ臭そうに頬を掻き「だから小説書いてるあんた達と一緒なら、面白そうだなって思ったの」と言った。


「はあ?意味分かんねーぞ」

「とにかく!場を仕切るリーダーがいればあんた達も楽できるでしょ?」

 

 この言葉に上竜が反応する。


「場を仕切るって、独断で仕事を決める気じゃないでしょうね」


 またもトゲのある言い方だが、流石に今回は分が悪いようだ。


「あら、早い復活だったね、ミス・土下座さん。それとも二枚舌さんって呼んだ方がいいかな」

「うぐぐ」


「だから話し合うって言ってんじゃん」岳野は肩をすくめて見せ、それから「みんな、何かやりたいことある?」ときいてきた。


「そうだな、このリストから選ぶとなると……」


 もちろん就労体験は自由に何でもやっていいわけではない。学校側の要請に応じた企業がリストアップされており、その中から選ぶのだ。


「やっぱ本屋かな」

「そうだよね、僕たち人よりたくさん本読んでるから、お客さんに薦めたり出来るもんね」


 俺の意見に紺野も賛成のようだし、これが一番無難じゃないか。

 ところが岳野は首を振って黒板を指差す。そこには縦に並べて書かれた職業の一覧、本屋の横にはウサギさんチームとあった。


「あっクソ、先越されたか」


 流石ウサギさんチーム。素早い連中め。しかしこうなると困ったぞ。俺達の共通項といえば読書家であるという一点のみ。唯一の技能を封じられたとなればあとは……。


「打ちっぱなしの練習場とかどうだ。たぶん球拾いとかになると思うんだけど」

「あー、近葉くんって単純作業、好きだよね」

「単純作業を馬鹿にするなよ、紺野。そういう裏で働く人のたゆまぬ苦労があって、世の中は回ってるんだ」

「それは分かってるけど」


 うーん。みんなは煮え切らない様子である。なんだよ、いいじゃねーか。球拾おうぜ?


「あの、いいでしょうか」

「おっ、いつもこういう場では前に出られない引込み思案の賀来密さん、珍しく意見をいいますか」

「もー、予夢ちゃんやめてよ。あのですね……」


 賀来の話は俺達を驚かせた。なんとリストにある幼稚園で、従姉が働いていると言うのである。


「なるほど、賀来さんの親戚が働いているなら、少しはハードルが下がるわね」と上竜は頷く。

「うんうん、良いんじゃない?僕、子供好きだし」紺野も顔を綻ばせ「決まりのようだね」岳野が纏めに入る。

 俺はと言えば……。


「近葉も幼稚園でいいよね」

「あ、ああ……」


 ええーっ俺がガキの世話だと!?




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