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俺はWeb小説家をやめる  作者: TOBE
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俺は最低な名案を思い付く

 赤ペンを握る手の横に、コトリとカップが置かれる。コーヒーの香ばしい匂いを含む湯気の向こうを伺えば、賀来のニッコリ笑う顔が見えた。


「お砂糖とミルク、一つずつでしたよね」

「ああ、ありがとう」


 なんなの、完璧なの。やっぱこういうちょっとした気遣いなんだよねぇ。俺が女子に求めてるのは。万人にウケる小説の書き方とかグイグイ来るんじゃなくてね。

 ホッコリした気分でひと口飲む。


「うん、うまいよ、賀来」

「本当に?良かったですっ」


 賀来はお盆を抱え、身体を軽く弾ませる、謎の萌えムーヴをした。そういえばあれだよな。こういう地味目メガネ女子って隠れ巨乳な設定めっちゃ多いよな。


「あの、やっぱり美味しくなかったですか。あ、それとも台本の校正なんて地味な仕事はやっぱり嫌だとか」

「いやそんなことぜんぜん思ってないよ。なんでそんなこと言うんだよ」

「だって怖い顔してたから」

「あ、ああ……」


 ごめん。怖い顔してたのは君の身体の一部を目に焼き付けていたからです。




 必死で怒ってないアピールをすると、賀来はようやく自分の席に戻ってくれた。

 俺は主に自分の性癖を隠せたことにホッと胸を撫で下ろし、速やかに話題を別の方向へ向ける。


「むしろ都合いいんだよな、台本の校正」

「そうなんですか?確かに安価でも台本を来客に売ろうって話ですから、大切だとは思いますが。もっと目立つ仕事がやりたいんじゃないかと」

「いやいや誰もが岳野みたいな性格だとは限らないさ。俺はもともと舞台裏で、サボってる扱いされない程度の仕事をするつもりだったんだから」

「あはは、やっぱり近葉くんって私と似てますね」

「そうなのか?この前も賀来と俺が同類みたいな言い方してたけど、お前だって岳野みたいな大物とつるんでるんだし、もっとみんなの前で演技指導とかしたいんじゃないのか」

「つるんでは……いないかな」


 おやおやどうした賀来。視線を斜め下に落とすそれは、なんかピンとくるんですけど。

 俺の予想した通り、彼女の口から、女子の人間関係における闇が語られ始めた。


「予夢ちゃんが喋ってくるのは、たいてい私にチケットの予約を頼む時だけなんです。ほら私って見た目がこうだから、ネットとか詳しいでしょーって」

「利用されてるってことか」


 眉を下げる悲しい笑みを浮かべ、賀来はコクリと頷く。


「中学の時はこんな関係じゃなかったんですけどね。予夢ちゃんも今みたいに派手なお化粧もしてなかったし、知ってました?予夢ちゃんてああ見えて昔は本が好きで、私とは趣味の合う、普通の友達だった」


「演技指導って言いましたよね」そう切り出された話から分かったのは、彼女が一度チャレンジしているということ。

台本の前半部分が完成し、みんなの手に渡った日、教室では配役の会議が行われていた。脚本のメインを勤める賀来は当然、出席したわけだが、そこで半ば強制的に岳野を主役に指名させられたという。

更に岳野は監督も自分がやると言い出し「それなら私が脚本を書いた視点で演技のアドバイスをして、予夢ちゃんを手伝う」という賀来の提案を拒絶した。


「舞台は私に任せて、賀来は脚本に専念しな」


 それを聞いた時、賀来は全てを悟ったという。予夢ちゃんは、自分が目立つポジションに就くために、コントロールしやすい私を脚本に推したのだと。


「また利用されたんだと知ってショックでしたけど、もう一つショックだったのは、周りのみんなが誰も異議を唱えなかったことなんです。賀来も脚本書いてるんだから、仲間に入れてやればいいじゃんって、誰も言ってくれなかった。結局みんな、私に面倒な脚本作成を押し付けただけで、台本さえあれば私はいらないんだなぁって、つくづく思っちゃって」


「あ、ごめんなさい。なんだか随分ディープな愚痴を聞かせちゃいましたね」苦笑する賀来は想像できるが、俺の視線は天を仰いでいた。

 なんつーか、通った道だなぁ。

 ぼっちに元からぼっちだった奴はいない。生まれてこのかた一人を好んで生きてきたなら、そいつにとってはそれが普通であり、ヒネクレとか暗いとか、ぼっちという言葉の持つ、ネガティブなイメージとはかけ離れた性格になるだろう。

 最早それはぼっちとは別のカテゴリー「独特の世界観」であって、天才にはこういう奴が多いんじゃなかろうか。

 故に、真のぼっちは元からぼっちではない。

 何か切っ掛けがあって、何かしらの逃避行の末に……俺も、そうだった。


「最初はさ、自分が何に不満なのか分からないんだよな」

「えっ」

「でもいつしか正体は孤独だって気付く。孤独ってのは群れの中にいると、かえって感じやすいものだからな。ほら、友達だと思ってる奴らの中でも、自分の扱いは随分軽いとか。そばにいるのにまるで空気みたいに扱われるとか。これじゃあ自分がいる意味なんてありはしない。そう思うよな」


 賀来は強く、強く頷いて「そう。本当に、そうです」と言った。


「私はみんなと一緒にいても、風景でしかない。私の話なんて、誰も聞いてくれない」


 そんなの誰もが思ってることだし、そんなもんだと言う人がいるかもしれない。しかし当人が感じている以上、それは事実なのだ。

 だがあえて言わせて貰えば、彼女が抱えている問題はどうでもいいことだ。問題は抱えているだけじゃ解決しない。大事なのはここから。


「で、お前はどうしたいんだ。また前みたいに岳野と本当の友人関係になりたいのか。みんなに自分を受け入れて欲しいのか」

「それは……勿論そうなれば嬉しいですけど」

「だったらやっぱり俺とは違う。いいか賀来、一人はな、慣れるぞ。慣れちまったら今もってる願望とか全部めんどくさくなって、考えるだけで嫌気がさすようになる。だから引き返すなら今のうちだ」

「でもどうしたら」

「さっき校正なんて地味な仕事やらせて申し訳ないって言ってたよな。だったら一つ、俺にちょっとした仕事をくれ」

「仕事……?何をするんです」

「なぁに。ほんとにちょっとした、後書きみたいなもんさ。本番当日になれば分かるよ」


 俺を信じてくれ。そう言った俺の顔は、素直な賀来でさえ「う、うん……」と訝しそうにするほど、胡散臭い笑顔だったに違いない。

 それくらい、このとき思い付いた名案は最低の部類だったのだ。




 さてさて今日は色々と道筋が立ったところでお開き。あったかい我が家に帰るとしますかね。

 そういえば上竜のやつ、今日もこっちに顔出さなかったな。便りがないのは元気の証じゃないが、うんうん、あいつは俺とは別の場所で幸せな学校生活を営んだ方がいい。

 自ずと顔が綻ぶのを感じながら靴箱を出る。するとドスのきいた声が飛んできた。


「おう近葉くん、ちょっとツラかせや」


 いや上竜さん?いくら頑張ってドスきかせても無理があるでしょ。キャラが違うでしょ。

 面食らってる間に腕をガシッと掴まれる。


「ちょ、待てっておい、上竜!?一体どこへ……ああっ意外と力が強い!」


 こうして訳も分からず体育館裏に連れていかれ。


「おんどりゃあああああ!!」

「おぐはっ」


 そこで俺はボコボコにされた。






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