第2章 第4節 ユカリの中学時代の思い出~恋の芽生え
「え、え~!ひょっとして、あのときの女の子!」
彼はびっくりしていた。
ユカリは、彼が忘れていることに少しいらだった。
『も~、忘れるなんて。あたしがこんなに会いたい、会いたいって思っていたのに~~。ぷんぷん!でも赤い糸、いや赤い風船を渡してたからきっと会えたんだ!永森神社の女神様~、ありがとう~!』
ユカリは、そんな本心を隠して彼に言った。
「ふう、やっと思い出してくれたのね~」
「ほんと、また会えるなんて」
「夏休みはね、おばあちゃんの家に泊まることがあるのよ」
「何だか、ずいぶん背も伸びたね」
「そう?これでもクラスの中くらいの身長かな。
もう、これで子供っぽく見られないですむかな?」
ユカリは、「どう、こんどは大人に見えるでしょ」と、少し誘惑めいたポーズを彼に見せて、彼の反応を楽しみにした。
「うん、なんだか、ずいぶん『女の子っぽく』なったよ」
カッチーン!
ユカリは、『女っぽく』でなく『女っ子ぽく』と言われ、ショックを受けた。
「あ~~、『女の子っぽく』っていった~。まだあたしのこと、子供って思っているんだ!」
「ごめん、ごめん」
「そしてあいからず、適当に謝ればごまかせるって思っているんだね~」
ユカリは、『私のこと忘れるなんて・・・』と内心苛立ちを感じながら、彼を斜め目線で見た。
『でもいいか、会えたんだから』
ゆかりは、そう思って、ニコッと笑った。
それから、彼は絵画に気づいたらしく、ふっと話しかけてきた。
「ねえ、何を描いているの?」
「夏休みの宿題で、風景を描いているの」
「俺もその絵、見てみたいな」
ユカリは絵のある所に戻って、絵をヒロトに見せた。
「へ~、きれいに描けているじゃん!」
「えへへ、そう」
「いい風景みつけたね、ここの風景、俺、好きなんだ」
「そうよね、この風景いいよね。なんだか心も和んでくるし・・・」
ユカリは、夕方になって日差しも弱くなったので、かぶっていた麦わら帽子を取った。
そのとき、ちょうどさわやかな風が吹いてきて、ユカリの髪が頬に微かに当たり、ユカリは髪をそっと手で脇によせた。
すると、ユカリは何だか視線を感じ、ヒロトの方を向いてみた。
すると、ヒロトがじーっとこちらを見ていた。
「うん、どうしたの?」
「え、いや、確か以前、中1と言ってたよね~、今、中3だろ。受験はいいのか」
「私ね、美術コースの学校に行きたいから」
「なるほどね、それで絵を描いていたんだね、それにしてもよく描けているね」
「えへへ、ほめてくれてありがと」
「ところで、え~っと・・・。そういえば、君の名前、しらなかったっけ?」
ユカリは思った。
『そういえば、名前言っていなかったっけ』
「天宮由加里、ユカリって呼んでね」
「俺は、早川ヒロト」
ユカリは、彼の表情が優しく穏やかになり、その表情がユカリにとって相手は年上なのにかわいく見えた。
そして思わず、妙なことを口走ってしまった。
「クス、じゃあ、ヒロトって呼んであげるね」
「ヒロト?それに呼んであげるって。まるで上から目線じゃん。
俺は3つも年上だよ。先輩だぜ。せめてヒロトさんって呼んでくれよ」
「はい、はい、わかりました。ヒロト」
「ぷっ」
ユカリは、おもわず笑いだしました。
ヒロトもそれにつられてしまい、笑ってしまいました。
それから少し、二人の間は、静寂に包まれた。
ユカリは、思っていた。
『ヒロトとまた会えたのは嬉しい。でも、今日、このまま別れるのも・・・どうすれば・・・そうだ!』
そこで、ユカリは今、思いついたことを思い切って話すことにした。
ただ、さすがにそれを話すのは勇気がいる。
ユカリは心臓が今までにないくらいドキドキしていた。
「わたしね、8月29日までおばあちゃんの家にいてね。それまで絵を描きにここにくるの」
「そうなんだ」
「ところでね、風景だけだと少し寂しいかなって思っていてね。人も描いた方がいいかなって思っていたところなの。
それでね、男性のモデルを絵に入れたいなあって思って・・・」
ユカリの声が次第に小さくなった。
「ヒロトってさ、長身でスラっとしてスタイルいいでしょ。
モデルにちょうどいいかなって・・・」
ヒロトがこちらをじーっと見ている。ユカリは心臓が飛び出そうなくらい、緊張していた。
『やっぱ、だめかな・・・』
ユカリがもじもじしていた。
すると
「じゃあ、俺がそのモデルやってみるよ!」
「え、いいの、ホント助かる!嬉しいな」
こうしてユカリは、ヒロトをモデルにして絵を描くことになった。
ユカリはもう一度最初から絵を描くことにして、最初にどの風景を描くかを決めた。
永森神社から見える風景には、角度を変えれば永森村の街並みを見渡せる風景、湖と川が見える風景、田んぼが広く見渡せる風景が見えた。
ユカリは街並みと川と湖、田んぼのすべてが見えて、永森村の雰囲気が最も感じ取れる風景を選んだ。
そして、モデルのヒロトがどうゆうポーズをするのがよいか、ヒロトが立ったり座ったり、後ろをみたり、前を向いたりといくつかポーズを試してもらった。
そしで決まったのが片手を木に添えて、真正面、つまり絵を描いているユカリの方を向いているポーズをしてもらうことになった。
絵を描き始めた頃は、ヒロトがずーっとユカリを見つめているポーズだったので、さすがにお互いに照れていた。
「ヒ、ヒロト、あんまし、じーっと見ないでよ!なんだかはずかしいじゃない。。。」
「ユカリがこうゆうポーズをしてっていったんじゃないか!」
「イーだ!」
言い訳になってないユカリのしぐさをみて、ヒロトは小さく笑った。
ユカリは、絵を描きながら思っていた。
『ヒロトはこのイメチェンした私を見てどう思ったかな。
今日はピンクの服を着ているけど、どう感じたのかな。
こうゆうことにヒロトはまるで鈍感で、言葉に「かわいいよ」と出すタイプではなさそう。
でも、本当は彼から「似合うね」って言ってくれたらやはりうれしいな。。』
ユカリは、いかにも女子学生が考えそうなことを思っていた。
『でも、ヒロトにモデルを頼んでいるからこそ、しっかり描かないと。
ヒロトがせっかくモデルを3週間引き受けてくれたんだ。
真剣に描いてヒロトを喜ばせないと・・・』
澄んだユカリの目が、ヒロトと風景をじーっと見つめて絵を描く。
そして、絵を描き続けるたびに、ユカリのヒロトへの想いは次第に大きくなっていった。
『やっぱり、あたし、ヒロトが大好き!』と。