エピローグ④~あれから3年(最終回)
明日香の結婚式から3年後、ある美術館に一枚の絵が飾ってあった。
その絵は、ユカリが新たに描いた風景画だった。
当初、その絵は風景画が好きな人を中心に人気だった。
ただ、次第に恋愛成就の噂が広がり、風景画に興味のない人にまで、若い男女を中心に徐々に人気が広がっていった。
さらに二人の恋愛をモデルにした小説が発刊され、数百万部を超える大ヒットとなった。著者はヒロトであった。その小説では、ユカリとヒロトの不思議な体験まで詳しく描かれていた。
その影響でネットを中心に、その絵を見れば素敵な恋が成就するという噂が全国に広がり、その絵を飾っている美術館は、若い男女の間ですっかり大人気となった。
その絵は、まず若い男女が肩を寄り添ってきれいな星空を眺めていた。場所は小さな山の頂上のようで、背景には自然の木々で溢れ、遠くに湖が描かれていた。また、神社のような建物も小さく描かれ、電灯が近くの木々の葉っぱに反射してキラキラ輝いていた。その風景は紛れもなく、永森神社の広場で描かれたものだった。
二人の小指には、ほんのりと輝いた赤い糸が結ばれていた。そして、大きな木の上の枝には赤い風船を持っている、白い服と赤い袴を履いた12歳くらいの巫女の女の子が微笑んで座っていた。巫女の女の子は二人をそっと見守り、祝福しているかのように見えた。
その絵は、とても幻想的で神秘的な絵だった。さらに星々が、草木が、湖が、自然がまるで二人を祝福しているかのようだった。
眺めているだけで心が洗われる・・・。見る人を感動させる、不思議な思いにさせられる絵だった。
その絵が大人気なったことが引き金となって、永森神社でも若い男女が集まるようになった。絵のモデルとなった神社としてすっかり若い人たちの聖地となっていた。
集まってくる人たちは、ただ恋人がほしいという目的よりも、あのユカリとヒロトのような、10年越しの素敵な恋愛をしてみたい。
特に女性の間では、ユカリが10年ずっと思い続け、別れた後でも彼のために、絵を描き続きたという彼女の気持ちに感動する女性が多く、女性の見学が多かった。自分たちも彼の為に生きれる恋愛をしたいな。そうゆうあこがれを強く持っていた。
少し、月日が過ぎて今日は8月10日の午前。
平日にも関わらず、今日は特に永森神社は、若い参拝者で溢れかえっていた。
永森神社の神主は神社の賑わいを、礼拝殿から眺めていた。
『あの二人の出会いとあの絵は、きっと何百年経ってもこの神社で語り継がれるじゃろうな。
ひょっとしたら、ユカリさんは、永森村の言い伝えで残っている恋愛成就の女神様の生まれ変わりかもしれない・・・』
『どれどれ、神域を乱さないように、午後の祈願祭の前にしっかりお祈りせんといかんな』
神主はそれから本殿に向かった。そして神主は本殿の入口にある絵をちらっと見て、本殿の祈りの間に入って行った。
本殿の入り口には、ユカリが描いた新作の絵の複製が飾られてあった。
そして、その日、8月10日の深夜のこと。
ユカリはこのとき27歳。今、ユカリは新しいマンションの自分の部屋ですでにぐっすり眠っている。
ユカリは今、眠ったまま、クスッと笑った。とても幸せそうな寝顔。ユカリは、どうやら楽しそうな夢を見ているようだ。
ユカリは、今、永森神社の階段の踊り場の木の上にいた。その木は、ユカリとヒロトが最初に出会った場所。そして10年後に二人が再開し、心が通じ合った思い出の場所でもあった。
ユカリは、自分の姿を見ると、白い着物と赤い袴を履いていた。その姿は巫女の衣装だった。そして、年は12歳の頃の姿に戻っていた。さらに右手には、赤い風船を持っていた。
それからユカリは、木の枝から飛び降りて本殿に向かって歩いていた。本殿に着くと、本殿の扉は鍵がかかって閉まっていたが、ユカリが本殿の入り口の前に立つと、扉が自動扉のように開いた。
それからユカリは、本殿に入り、入り口にあった絵をじーっと眺めた。
そして、ユカリはその作品名の書かれた案内板を見た。ユカリはその案内板に描かれた絵のタイトルを見て微笑んだ後、その絵の中に吸い込まれるように静かに消えていった。
案内板にある絵のタイトルには、次のように書かれてあった。
作品名「眠れない天使のように~運命の赤い糸に導かれて」
作者:早川由加里(旧姓:天宮由加里)




