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エピローグ①~幸福を創造する天使のように 秋本明日香~明日香のけじめ

時は、ヒロトと明日香がビルの屋上で別れた直後に戻る。


お昼が終わり、13時になった。

明日香は、泣いていたことを仕事仲間に悟られないよう、涙をしっかり拭いて仕事場に戻り、何事もなかったかのように振舞っていた。でも、どうしても昼のことを思い出し、涙が止まらなかった。


明日香は他の課やコピーを取りに行く振りをして、その日は何度も着替え室やトイレに行き、泣いていた。

仕事が終わり、家に戻っても自分の部屋でずっと泣いていた。


幸い明日は土曜日で仕事が休みだったが、土日もずっと思い出しては涙を流していた。

さすがに母も明日香の様子がいつもと違うので心配して声をかけてきた。

「明日香、何かあったのかい?元気ないね」

「うんうん、大丈夫だから」


心なしかペットの犬のクロウさえ、アスカを励ますような顔をしている。

「く~ん、く~ん」

クロウの表情を見るとまた涙がでてきた。

明日香は、ヒロトと付き合っていた頃、スマホで撮影したヒロトの写真を、クロウによく見せていたことを思い出した。



『クロウ、これがヒロトの写真よ!』

クロウは、スマホに表示されているヒロトを見て、いつも「ワンワン」と吠えて答えていた。


「ごめんね、クロウにまで心配かけちゃって・・・」


もちろん明日香は今までに好きになった男性はいた。でも、ここまで真剣に愛した男性はいなかった。



「あなたの会社が倒産しても、私はついていくつもりだった」

「父に勘当されても、家を出てあなたについていく覚悟はあった」



ヒロトに言ったあの言葉は、明日香の本気であり、覚悟で会った。


『ヒロト・・・』


・・・


しかし、明日香にはやがて、新たな出会いがやってくる・・・・。

父の知り合いの青年実業家。

年商100億円の青年実業家で、父のお気に入りの男であり、以前から何度か父の家に招待されていた。

ヒロトと付き合う前に一度、父から明日香に付き合ってみないかと紹介したことのある男性であった。


父は明日香に彼を再度紹介した。彼の名は、長谷川尚道だった。


尚道のことは明日香が大学院生のときから知っていた。

そのころから尚道は、年に1,2回、明日香の父の家に招待されていた。

最初に明日香が尚道と出会ったのは、明日香が大学院1年生のとき、5年前だった。


明日香はペットのクロウと庭で遊んでいたときだった。

尚道が父と一緒に明日香のところにやってきた。

するとクロウはいきなり、彼に向かって走り出し、尚道にじゃれてきた。

クロウには、鎖をいつもしていなかった。

そのため、尚道のスーツのズボンが少し汚れてしまった。


父は怒った。

「クロウ、こら!彼のスーツが汚れてしまったじゃないか!」


明日香は慌ててクロウを捕まえ、クロウを抱っこした。

アスカ「クロウ、だめでしょ!本当にすみませんでした。普段は人にじゃれたりしないんですが・・・」


すると、尚道は明日香に近づき、クロウの頭を撫でた。

「いえいえ、大丈夫ですよ」


尚道の第一印象はとてもよかった。2年半ほど前に父から尚道と付き合ってみないかと言われて断ったのは、尚道のことが嫌だったからではなかった。


まだ、付き合ってはいないものの社内にヒロトという気になる男性がいたという理由もあった。


再び、父から尚道を紹介され、それから明日香は彼と二人で食事するようになった。

何度か食事をして、明日香も彼の誠実な人柄を理解した。


ただ、明日香にはなかなかヒロトのことが踏ん切りつかなかった。頭ではわかっていても心がどうしてもついていかなかった。


ある日、尚道は明日香に言った。

「明日香さん、誰か忘れられない人がいるんですね」


明日香ははっとした。明日香は本心がわかってしまい、びっくりした。

明日香もヒロトはもう戻ってこない。そんなことは明日香もわかっている。でも、感情がどうしても抑えられない。


でもそんな明日香を見て、彼は言った。


「明日香さんは自分のことよりも常に相手のこと、周りのことを先に考え、相手のために生きていました。明日香さんはお忘れかもしれませんが、明日香さんがまだ大学院生だったころ、私と少しお話したときに明日香さんが私に言われた言葉がありました。


「私は、父がよく言っている『人の為に生きることで人は幸福になれる』、その言葉がとても好きなんです」と。


仕事には厳しいけれども、御父上のそういった謙虚な姿勢を私はずっと尊敬していたのです。


御父上は私情よりも会社の代表として社員の生活を守らないといけない立場。だから、時には家庭などの私情を押し殺してでも、トップとして公的な判断を優先されてきました。明日香さんは、御父上の気持ちを理解されていて、考え方も御父上とよく似ておられます。


そして、社会人になられてからも、明日香さんはそれを実践していました」


明日香は答えた。

「尚道さんのお気持ち、とても嬉しいです。でも、私は、みなさんに褒められるような女性ではありません。彼が私から去ったとき、悪女になってでも彼を奪い取りたいと思ったこともありました。私は、立派な女性でも素敵な女性でもないのです」


「明日香さん、あまり自分を攻めないでください。誰でも時には悪い思いだって出ることはありますよ。それと、彼のこと忘れる必要なんてありません。明日香さんが彼のことを忘れられないなら、私も彼のことを理解しようと思います。


あなたの心に昔の彼が今もいるなら、私もそんな彼を好きになります。

私はそんな明日香さんを好きになったんです。明日香さんのすべてを受け入れる覚悟がなければ交際なんて申し込みません。明日香さんが彼のことで苦しくなるなら、私はあなたの悲しみを分かち合いたいと思います」


明日香は、彼に泣いて抱きつきいた。


その夜、明日香は、スマホに保存していたヒロトと過ごした写真アルバムをすべて消去した。


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