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第9章 第4節 ユカリと明日香~明日香の報われない告白

ヒロトは、皆川部長との話が終わり、ビルの屋上に上がって待ち合わせをしていた。


今から2時間前の午前10時、ヒロトがシラトリシステムに着いたとき、明日香から本当に久しぶりにメールが入った。


「久しぶりにお昼に会いましょう。ビルの屋上で、明日香」


ヒロトは、会社のビルの屋上で明日香を待っていた。


やがて明日香がやってきた。ヒロトは久しぶりに明日香を見た。


明日香は、こちらにつかつか歩いてきて、ヒロトの目の前に立った。


「明日香・・・いろいろ、ありが...」


バチン!

ヒロトがお礼を言おうとした瞬間、明日香は、いきなりヒロトをビンタで殴った。

初めてみる明日香の怒った顔だった。


でも、明日香のビンタには私情の怒りは感じなかった。あくまでヒロトを想ってのビンタだったことはヒロトにも伝わった。


「ヒロト、私はあなたの肩書や才能に惹かれたわけではないのよ」

「明日香...」

「あなたは勝手に、もう私と不釣り合いだと思って、あなたの勝手な判断で私の前から消えてしまった。そうよね」


「・・・」

ヒロトは黙ったままだった。そのとおりだった。今、何を言っても言い訳にしかならない。本当に明日香にはすまない、迷惑ばかりかけてしまったと思っていた。


「何で、私に何も相談してくれなかったの。

あなたの会社が倒産しても、私はついていくつもりだったのよ」

「え」

「私は父が反対しても、家を出て、勘当されてもあなたについていく覚悟はあった」


ヒロトは、明日香の意外な反応に驚いた。


全て、ヒロトが勝手に思い込んでいただけだった。そういえばユカリも永森村のことも明日香の件についても、自分の思い込みだけで先走っていた。

家族にもユカリにも明日香にも先生にも友人にも今まで相談さえしなかった。誰も相談にのってくれないと、ずっとずっと思い込んで生きてきた。ヒロトは、トラブルは全て自分の思い込みから起きたことを改めて気づかされた。


「すまない、明日香・・・本当に何から何まで・・・」

ヒロトは、明日香から何度でも殴られる覚悟をした。


しかし、謝るヒロトを見て、明日香は、ニコっと笑ってくれた。


「ヒロト、いろいろあったけど、会社だってあなたを高く評価していたし、2か月後、以前よりもっといいプロジェクトにも加えてもらえることになったのよ。


これからは、一人で暴走することなく、人にちゃんと相談するのよ」

「本当にすまなかった、明日香」


明日香もヒロトの性格上の欠点をよく知っていた。


「ところで、ひと段落したようだし、今度、久しぶりに新宿公園に行かない?」

明日香はヒロトをデートに誘った。


しかし、ヒロトは、いつもと雰囲気が明らかに違っていた。いつもはすぐにかえってくる返事がなかなか返ってこない。少し下を向いたまま、ヒロトは明日香に目線を合わせられなかった。それは仕事の悩みで返事ができないからではない。明日香は直観で感じた。


明日香は、以前の美術館での出来事が思い浮かんだ。


明日香「だ~れだ!」

ヒロト「ユ、ユカリ!」


それを思い出すと同時に明日香は、ヒロトの心には自分がもう住んでいないことを知った。

今までのヒロトならすぐに喜んでくれた。

でも今はずっと下をうつむいたまま・・・。


これは仕事のことで申し訳ないと思ったわけではない。

明日香の気持ちに返事ができない理由がある。

きっと好きな女性、心のよりどころになる人ができた。あの永森村に帰って・・・。それは、きっとユカリさんという女性・・・。


俗にいう女の観だ。それはまぎれもなく当たっていた。いや、以前から予感はあった。実家に帰ったことを聞いたときから、ヒロトはもう私のところに戻ってこない。覚悟はしていたが、ヒロトの様子でそれをはっきり確信した。



「ヒロト~、私と会わない間に実は好きな人できたでしょ~」

明日香は意外にもおちゃらけた感じで言ってきた。


ヒロトはきょとんとした。

「あ、明日香・・・」

ヒロトは顔をあげ、明日香を見つめた。

明日香は、嘘をつけないヒロトの表情を見て、それが事実であることを確信した。


むろん、ヒロトは顔にそんな表情が出ているなんて思っていない。


明日香は何から何まで俺の心配をしてくれて・・・

ヒロトは、どう言葉を出したらよいかわからなかった。

相変わらず、明日香は穏やかで優しい表情をしていた。


「さっき、言ったことは冗談よ。ヒロトを元気づけてあげたかったからね。

どう、少しは、元気出ました?」


「何も言わなくてもヒロトのことわかるから...私も素敵な彼氏、見つけようかな~」


「じゃあねっ、ヒロト」


そういって彼女は去っていった。


『ありがとう、明日香。そしてすまない』



明日香ははそのあと会社の着替え室に入った。


そして、急に大粒の涙がどっと出た。ハンカチで涙を何度拭いても止まらない。次から次へと涙が出てくる。


ヒロト・・・・


明日香はヒロトのために、ヒロトが復帰できるように努力した。


「だ~れだ」


すでにあのときからこうなる予感を感じた。

きっとその女性。


もし、あのとき、ヒロトをしっかり離さなければ、ヒロトは今でも私の側にいたのかな・・・


もっと強引にこの都会でヒロトを捕まえておけば、永森村に行かせなければよかったのかな。

でも、それではヒロトの心は捕まえられなかったよね。そうゆう私だとヒロトはそもそも振り向いてくれなかったよね。


明日香はしばし、着替え室から出られず、涙を流していた。ハンカチで何度拭いても涙が流れる。


13時になり、仕事が始まった。

でも仕事にならない。すぐに思い出しては、涙が出てくる。


その日、明日香は何度も着替え室やトイレに行って、涙をみんなから隠すようにした。


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