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第1章 第4節 あの思い出の階段で~時間よ、止まれ

ヒロトが絵のモデルを始めてから20日になろうとしていた。

今日はユカリと会う約束の日。

今、ヒロトは永森神社に着いたところだった。


『ふう~、15:30分か。少し早かったかな』


ヒロトは、約束の16時より早く着いたので、神社の庭にあるベンチに座ってゆっくりくつろぐことにした。


「ユカリと会えるのもあとすこしか・・・」


ヒロトが、ベンチに座って数分後、急にヒロトの両目が誰かの手で塞がれ、そして、すぐ後ろから少女の声が聞こえた。


「だ~れ~だ!」


ヒロトは急に両目が塞がれたので一瞬びっくりしたが、すぐにユカリの仕業と気づいた。


「お、おい、止めろ、こら、何も見えないじゃないか!ユカリ!」

「あはは、びっくりした?ヒロト」

「あははじゃないよ、ユカリ」


ヒロトは大笑いしているユカリを見ながら頭をかいていた。


ふと、ユカリを見るとユカリはスケッチをいくつか持っていた。


「あれ、ユカリ、今日はスケッチいくつか持っているね」

「あ、これね。今日ね、中学で今まで描いたスケッチ持ってきたの。ヒロトに見せよーかなって思って・・・」

「へえ、見たいな」


するとユカリは、ヒロトの左隣にひょこんと座ってきた。


「えへ、実は、美術部の人以外にはめったに見せないんだ」


そして、ユカリの右腕がヒロトの左腕にぴったりくっつくほど、ユカリはヒロトのすぐ近くまで寄ってきた。


ユカリが描いていたのは風景がほとんどだ。


「へえ~、いろんな風景を描いているんだ」


ヒロトは、じっくりユカリの書いた絵を一枚一枚見た。ユカリは一枚一枚の絵に込めた風景の想いをヒロトに説明した。


「あたしね、画家になりたいの。こんな時代に画家なんてもちろん現実性がないってことはわかっているけど・・・でも、絵を描くのがとても好きなんだ・・・」


二人は、その日、絵を描くことは止めて、ずっとベンチに座ってユカリの絵を見たり、ユカリの夢を聞いていた。


こうして時間は17:30になった。

しばし、二人は沈黙していた。

二人は、ただ、静かに並んで座っていた。


ヒロトは思った。

『ユカリ、急に静かになったな』

しばらく静かにしているユカリの方を振り向くと、なんとこっくりこっくり眠っていた。


「なんだ、ユカリ、眠っていたのか。

そういえば、さっき、最後の仕上げで昨日眠っていないって言っていたっけな」


ヒロトはユカリが起きるのを待つことにした。

すると、ユカリの顔がヒロトの左肩に完全に寄りかかってきた。


ヒロトは、中3にしてはおしゃれなヘアースタイルをしているユカリの顔がすぐ近くまで接近していることに少しどきっとした。


「しょうがない、どくわけにもいかないし、このままでいるか・・・」


ユカリの小さな顔はヒロトの腕に完全に寄りかかっていた。


『このままずっと時間が止まってくれたら・・・』


ヒロトは、何だかとても幸福な気持ちにさえなった。


『ユカリはどう思っているのかな・・・』


ヒロトが少し肩を動かし、楽な姿勢をすると、ユカリが目を覚ました。


「う~ん、あれ?あたし眠っていた」


ユカリは、ヒロトに寄りかかって寝ていた現実をしり、顔を少し赤くしてヒロトの肩から慌てて離れた。

「ああ~、ヒロト、あたしが眠っている間、変なことしなかった?」

「す、するわけねーだろ」

「ほんと?」

「ほんとだ。なんでおまえなんかと」

「あやしーなあ、まあいいか。でも、今日は、もうこんな時間ね」


・・・


こうして、残りの日も過ぎていった。

最終日になり、ちょうどその日に絵が完成した。


「よし、完成!ギリギリ間に合ったよ」

「よかったな、絵が完成して・・・」


「本当にありがとうね、ヒロト、何だか無理いっちゃったかな?」


少し目がとろんとしたユカリにヒロトは言った。

「そんなことないよ!俺、とても楽しかったよ」

「ほんと!」

ユカリは笑顔で答えた。


「待って、ヒロト、えっと・・・御礼に・・・」

「ん?」

ユカリは最初、少しもじもじしてたが、「えいっ」とヒロトに何かを渡してきた。

それは、永森神社のお守り、絵馬だった。


その絵馬には「ヒロトがハッピーになりますように。ありがとう、ヒロト」と大きく書かれてあった。

ヒロトは、ユカリと会うときだけ救われていた気持ちになっていた。

本当は、ヒロトがユカリに感謝したいくらいだった。


ヒロトは様々なトラブルに気持ちがすっかり滅入っていて、ユカリの絵のモデルをしているときが唯一の安らぎでもあった。


さらに、ユカリが感謝の思いを込めた絵馬をプレゼントしたことは、ヒロトにとってこれ以上ない嬉しさでもあった。


ヒロトは感動し、ユカリの手を思わずぎゅっと握った。

「ユカリ!ありがとう。俺、この絵馬、ずっと大事にするよ」


ヒロトは、ユカリが顔を赤くしていることに気づいた。

ヒロトはユカリの手を両手で握っていることを知り、ヒロトは慌てて手を放した。


「ご、ごめん」


すると、ユカリは普段の強気の口調に戻った。

「な、なに、手を強く握るんだよ、ったく、今、いやらしいこと考えたでしょ!」


ユカリは顔を赤くし、腕組みした得意のポーズで、ヒロトを横目で軽蔑するように見ていた。


ヒロトもその姿を見て言い訳がましいことを言い出した。

「な、なに、いってんだよ。俺はガキには興味はないの」


「ああ~、また子供扱いした~。やはり、今もあたしのこと子どもだと思っていたのね。

それにあたしたち3つしか違わないじゃないの。このスケベ、変態!」


「変態はねえだろ!」


「えへへ、じゃあ、スケベは認めるんだ。ヒロトのどスケベ!」


「どスケベだけは勘弁してくれよ~」


また、ヒロトはユカリのペースに乗せられてしまった。

こうなるとヒロトはユカリにはかなわない。


「いいわ、もう許してあ・げ・る」

ユカリから笑みを浮かべながら言った。


「何だか、最初に会った時のこと、思い出すね」

「あ~、何だか俺たち変わらないなあ」


「でも、いいんじゃない。ヒロトはヒロトなんだから・・・」


そう言って、ユカリはヒロトをじーっと見続けていた。

そんなユカリを見て、ヒロトは照れながら言った。


「な、なんだよ。ん?」


すると、ヒロトはユカリのバックにぶら下がっていた絵馬に気づいた。


ヒロトは、その絵馬をみて質問した。

「あれ、ユカリ、もう一つ絵馬を持っていたんだ」


「この前の日曜日の行事で、祈願したときにヒロトの分と一緒にもらったんだ。

この神社はね、祈願した人にもお願いすれば絵馬をくれるんだよ」


「そうか、地元の俺でさえ知らなかったな。

じゃあ、そっちの絵馬にも何かお願い事したんだろ。何て書いたんだ?見せてよ」


ヒロトがユカリのカバンの絵馬に手を触れようとしたら、ユカリが急に恥ずかしそうに言った。


「だ、だめ~、こっちは絶対見ちゃだめ!」


「そんなに見られたくないから、そんな目立つ場所にぶら下げておくなよ」


「でもぶら下げたいの!」

「ったく、わからんやつだなあ」


「べー」

ユカリは目をつぶって舌を出した。



「ところでさ、ユカリ。山口の両親のところにもう帰るんだろ」


「うん、だから」

そう言って、再びユカリは少し笑みを浮かべながら、ヒロトをジーっと見つめていた。


『ここは思い切って言ってみるか』

ヒロトはドキドキしていた。


「あ、あのさ、ユカリ」

「なあに、ヒロト」

「いや、なんでもない」


そんなヒロトを見て、ユカリは心で思った。

『もう~!!!』


ユカリは、じれったいとばかり一瞬怒った顔をしたが、すぐにニコッと笑って言いだした。

「えへへ~、ヒロト。実は、あたしとまた会いたいな~って、今、思っていたでしょ」


『図星だ・・・。俺の気持ちを知っていて言っている』


相変わらず、ヒロトは顔に出ていた。

しかし、本心がばれないようにヒロトはユカリに言った。

「別に、そんなこと思ってねえよ」


ユカリは、ヒロトの気持ちが顔の表情から何となくわかっていた。

そんなヒロトが年上なのにかわいくみえた。


『でも、ヒロトから直接『会いたい』って言ってくれたらやっぱりうれしいな・・・』

ユカリはそう思っていた。


だから、わざと私がヒロトに気のないふりをして、いじわるするかのように言ってみた。


「あ、そう。じゃあ、これでバイバイね」


ヒロトは焦った。

「いや、それも・・・」


『もう~、ほんとにじれったい男だ!』


ユカリはメモをヒロトに渡し、ヒロトに言った。

「そこにあたしの携帯とメルアドが書いてあるよん」


『え、』


「じゃあね、ヒロト、連絡頂戴ね~」


ユカリはたったと走っていった。


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