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第9章 第1節 ユカリと明日香~小さな巫女の女の子って

ユカリと再会して1週間が経過した8月も中旬を過ぎた頃。

ヒロトは再び、永森神社に来ていた。


ヒロトは、そこでユカリを待っていた。今日はユカリと一緒にお祈りをする約束をしていた。



ー数日前のメールでのやり取りー


ユカリ「ヒロト、何だか深い悩みがあるようだね。でもね、そうゆうときこそ永森神社にお祈りしてみるのよ。この神社はね、いろいろと願いをかなえてくれるの」


ユカリから言われ、ヒロトはユカリと一緒にお祈りすることにした。元々、ヒロトは信心深くなかった。でも、心境がかわった。ユカリとここで出会えたのもまさに奇跡の連続だった。ヒロトは、天のお導きを信じたい気持ちになっていた。


今は、午前10時30分。待ち合わせの11時より30分早く到着した。


ヒロトは早めに神社に着いたので、広場に行って永森村の景色を眺めようとした。すると途中で、一人の初老の神主らしき人が境内の掃除をしているのが目に入った。


ヒロトはその人に声をかけた。

「すみませ~ん、神主様ですか」

「そうじゃが、何かご用ですか」


神主はヒロトの方に近づいてきた。


ヒロトは、1週間前、ユカリのことで大変お世話になった小さな巫女さんに御礼を言わなければいけないと思った。

「こんにちは。あの~、ぜひ、御礼が言いたくてお声がけしたんですけど。12歳くらいの女の子の巫女さんは今日、来ておりませんか」


神主は答えた。

「はて、そんな小さい巫女なんてうちにはおりませんよ」

「え?」

「うちの神社は神主のわしと祭司合わせて3人、あとは行事のときに、お手伝いさんの年配の女性さんたちが手伝ってくれるだけじゃ」


ヒロトは驚いた。ではあの小さな巫女さんは一体・・・

ヒロトは、神主に1週間前にここで出会った不思議な巫女さんについて説明した。


「そうか、まさに言い伝えどおりのことが起きたのじゃろう。

最も、神主のわしでさえ、言い伝えでしか聞いたことがなくてのお。おぬしも地元の人のようだから知っているかもしれないけど、


『心清く、人の幸福を願って祈願し、恋愛成就を司る女神様の心に叶ったならば、女神様は目の前に現れて、願いを叶え、幸福に導くであろう』


といういい伝えがあるじゃろ。


きっとユカリさんの長年に渡る純粋な思いを女神様がしっかり聞いてくださったんじゃろ。それで女神様が君の前にあらわれたのじゃろう」


ヒロトはきょとんとした。

今までは、「言い伝えなんて迷信にすぎない。俺は自分の力だけで道を開いてやる」、そう思って生きてきた。


でもそれは間違っていた。俺は、みんなに助けられ、支えられていた。東京でもこの永森村でもみんなの支えがあったからこそ、俺はここまでやっていけた。


ヒロトの心境はずいぶん変化していた。

ヒロトは、女神様の導きを信じたい気持ちになっていた。


神主にお礼を述べた後、ヒロトは、広場に行き、広場から見える村の風景を眺めていた。


こんなに素晴らしい景色だったなんて・・・。

ヒロトは改めて感じた。昔、何度も見た同じ景色なのに、今日はずいぶん違って見える。

村がこんなに美しいなんて・・・。


『ユカリがこの村を、自然を、全てを愛した理由が今ならよくわかる・・・』


ヒロトはその場所で座りこんだ。

『ユカリは、俺と別れたあともずっとお祈りしてくれた。そしてあの絵を俺のために書いてくれた・・・

それにしても、あの女の子の巫女さん、どこかで・・・』


ヒロトは、ショートカットの巫女の顔をどこかで見たことがある。そんな気がしていた。しかし、思い出せそうで思い出せなかった。


すると後ろから

「だ~れだ?」

とヒロトの目を両手で塞いできた。


その声はまぎれもないユカリの声だ。


「ユカリ・・・」

「あったり~」


ヒロトが後ろを振り返ると、ユカリは微笑んで立っていた。

そのとき、巫女の女の子とユカリの顔が重なって見えた。


『そういえば・・・そうだ!』

あの巫女が誰に似ているのか今思い出した。


そう・・・ユカリと初めて出会った時の12歳のユカリだった。


ユカリ「ヒロト、何、驚いた顔をしているの?」

『そうだ、確かに似ている、似ているぞ。12歳の頃のユカリと・・・』


「ユカリ、おまえ・・・ひょっとして」

「ん?なあに?」

ユカリはヒロトに顔を近づけた。


「いや、何でもない」

「また~、そうやって、肝心なことは言わないのは昔といっしょなんだから」

「あはは」


ヒロトは、ふっと頭をよぎった。

「ユカリ、おまえ、ひょっとして言い伝えにある女神じゃないのか・・・」


でもその質問をするのは止めた。しかし、あの巫女は錯覚ではない。確かに俺の目の前に現れ、そのおかげで、今、俺はユカリと一緒にいられる。


本当にユカリのいうとおり、この村、神社、自然は俺を愛してくれていたんだ。ずっとずっと昔から・・・。

その事実だけでいい。ヒロトはこの村で生まれたことに深く感謝していた。




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