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第8章 第6節 赤い糸に導かれて~10年の願いが叶ったよ

彼女は誰かが階段の上から走って追いかけてきたことに気づいた。

それは紛れもないヒロトだった。


『え、ヒロト・・・』


ヒロトは、今、ユカリが踊り場にいたのを確認できた。

ヒロトはそのまま走ってユカリのもとに近づき、ユカリに何も言わずにいきなり抱きついてきた。

ユカリは、突然ヒロトが抱き着いてきたことに驚いた。

ユカリは、その瞬間、手に持っていた赤い風船を放してしまった。ヒロトはユカリを強く抱きしめていた。


「ちょっとくるしいよ、ヒロト」

「ユカリ、ごめん、俺・・・」

「どうしたの、ヒロト」

「ごめん」

ヒロトは泣いていた。


「赤い風船、飛んでしまったじゃない」

「ごめん」

「ヒロト、どうして、何どもあやまるの?

何で泣いているの?」

「本当にごめん」


理由を聞こうと思ったが、ヒロトは謝る一方だった。でもユカリにはヒロトの気持ちがすぐ理解できた。ヒロトの感情が不思議とストレートに伝わってくるのだ。


「ヒロトって、昔から私に謝ってばかりだったんだから」

ユカリも涙が溢れてきた。ユカリもヒロトをぎゅっと抱きしめた。


「ヒロトが泣いて急に抱き着くから、赤い風船だってあんな遠くに飛んでしまったんだよ」


「今度は風船もユカリも絶対離さないから」

「もう、あやまったって絶対ゆるさないもん」


ユカリの声が震えていた。でもその震えは寂しさでも怒りでなく、ずっと君を待っていたというヒロトの思いがユカリにも伝わってきた。


こんなにストレートに二人の心が通じ合ったのは初めてだった。


10年前、あの階段で一つの赤い風船から二人の出会いが始まった。そのときから二人は何か強い運命のようなものを感じていた。

そして、10年後、また赤い糸をつけた風船が二人を導いてくれた。

二人はそんな気持ちがしていた。

でもこんなときでさえヒロトは「好きだ」といえなかった。あんなに仲が良かった時もそういえば好きだとヒロトは言っていなかった。


自分の情けなさとユカリへの感謝と申し訳ないという気持ちが錯綜していた。


でも、何も言わずともヒロトとユカリは初めてお互いの本心をはっきり理解できた。


言葉はいらなかった。気持ちがなぜかストレートに通じた。

いや、本当は10年前から通じていたのかもしれない。

10年間、心の奥底では二人はけっして離れられなかった。その10年はけっして無駄ではなかった。


ヒロトは、一番好きだった人、本当に愛していた人、本当に大切な人は誰だったか、それを確信させる10年だった。


ユカリはヒロトに抱かれながら遠くに飛んでいこうとする風船が目に入った。その風船をユカリが見るとさっきまで風船についていた赤い糸がなくなっていた。


ふっとそのとき、ユカリは自分の小指に目がいった。そして小指に赤い糸がぼんやり結んであるのが見えてきた。確か、大学3年のときにも赤い糸が指に結んである夢を、この神社で見たのを思い出した。


『あれ、また赤い糸が』


ユカリはもう片方の赤い糸の先を見ると、赤い糸はなんとヒロトの小指に結ばれてあった。


以前、大学3年のとき、幻か何かで見たときは、赤い糸の先は大空の先のどこに繋がっていたかわからなかった。


でも、今ははっきり見えた。運命の赤い糸はユカリの小指とヒロトの小指に強く結ばれていた。


ユカリは涙した。もう、その糸が幻なのか現実に見えているものかなんて関係ない。とにかくユカリはありがとうの気持ちでいっぱいだった。


ユカリは、赤い風船がまた、ヒロトと巡り合わせてくれた。あの風船がなければ出会いも、そして再開もなく、ヒロトと心が通じることはなかった。


風船は遠くに離れて見えなくなった。

でもユカリとヒロトの心は、今、切れない一本の赤い糸でしっかり結ばれていた。

「赤い風船さん、ありがとう。。。」




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