第8章 第3節 赤い糸に導かれて~正反対の道
ヒロトは心の中で思っていた。
『俺は、本当は、そんなことを言いたいんじゃない。
君に会いたかった。特に最近そう思っていた。ここで奇跡的に君に会えて嬉しかった。でも、なぜ、ヒロト、それを言わないんだ!』
実は、ユカリも同じことを思っていた。
『ヒロトの夢を壊してはいけない。私は今でもヒロトが好き。昔のように飛びついてヒロトを抱きしめたい。
でも今、私の正直の気持ちを伝えては絶対だめ。ヒロトには新しい彼女ができて、幸せに生きている。ヒロトの幸せを壊してはダメ。ユカリ、お願いだから自分を抑えて!』
二人は、本心を言えなかった。
ヒロト『ユカリ、君に言いたいことがある。ありがとう、そして、君を愛していると』
ユカリ『今でも私、ヒロトを愛しているよって言ってしまいそう。だからヒロト、お願い。この場から早く離れて。でないと、私、我慢できず、泣き出してしまいそう』
沈黙している状態で、ユカリから話し出した。
ユカリ「じゃあ、これで」
ヒロト「ああ」
ユカリ『ヒロトはもう私の手に届かないところにいる。ヒロト、好きよ。でも、それを言ったらヒロトが不幸になる。
ヒロトは私と別れたからこそ、東京で成功でき、新しい彼女ができて幸せになれたんでしょ。もう私とは不釣り合いなんだから。
でもユカリ、これでいいの?本当は会えて嬉しいんじゃないの。素直になりたいんじゃないの?』
ヒロト『御礼だけでもいいたい。でも、それを言ったら好きだという感情が爆発してしまいそうだ。明日香のこともある。明日香とはずっと会っていないが何一つけじめをつけていない。今、それを言ったら、明日香を裏切ることになる。絶対それは言えない。でも...』
ユカリが「じゃあ、これで」と言ってから、10秒経過した。二人は、一歩をなかなか踏み出せなかった。
そして、ようやく、ほぼ同時に二人の右足が一歩動き出した。ヒロトは階段を上りはじめ、ユカリは階段を降り始めた。
でも、二人は心で強く叫んでいた。
ヒロト、ユカリ『待って、行かないでほしい』
しかし、お互いの心を閉したまま、二人は違う道をそのまま進んでいった。
ユカリは階段を下りていく。
ヒロトは階段を上っていく。
二人は、180度正反対の道を歩んでいった。




