表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/51

第8章 第1節 赤い糸に導かれて~赤い風船の思い出

次の日の午後5時。ヒロトは永森神社の麓にやってきた。今日の天気は曇り時々晴れで、時々太陽が顔を出しているが、今は雲が太陽の光をさえぎっていた。


永森神社は標高100mほどの小さな山の頂上にある。ヒロトは麓から山頂に続く永森神社の長い階段を眺めた。


『確か高校1年のとき、バイト帰りによくこの階段を上ったな』


ヒロトは、昔の記憶を思い出すように、この階段をゆっくり歩いて、山頂の永森神社に向かって上がっていった。


一段一段上がるごとに、まるで当時の記憶がよみがえってくるようだった。ヒロトは、昔を振り返っていた。


『嫌な思い出しかなかった永森村だったが、今日は少しばかりいい思い出が浮かんでくるな・・・』


やがて中間地点の階段の踊り場に着いた。そして、その踊り場で立ち止まり、階段のすぐ脇にある一本の木を眺めた。


『高校一年の頃は、なんだかんでいって一番充実していたな。

バイトをしながらも成績はトップで、陸上の県南大会で入賞し、バイト仲間と楽しく過ごし、貧しくても充実していたな・・・』


ヒロトは木を眺めながら、10年前の高校1年のときのころを振り返っていた。


『あれからもう10年か』


そしてたくましく生き抜いていた和代や雄二の二人と今の自分と比べ、ヒロトは思った。


『今の俺は、10年前のあの頃とまったく変わっていない。いや、むしろあの頃よりも後退している。10年前の俺は今よりも充実していた。結局、俺だけこの踊り場で10年間ずっと立ち止まっているんだな・・・』


そのとき、さやわかな風が吹いてきた。その風で踊り場のすぐ近くの木の枝が揺れて、木の枝からささーと音がして、木の葉が数枚ゆらゆら落ちてきた。


ヒロトは、その光景が、風が、心地よかった。


「いい風だな」


そのとき、ヒロトは、ユカリが中学3年でヒロトが高校3年の時のことを思い起こした。


風が吹いてユカリの頬に髪があたったシーン。そのとき、ヒロトはユカリを見て初めてドキっとしたときだった・・・。


『ユカリと初めて出会ったのは、確か木に赤い風船を引っかけて・・・・』


ヒロトは思い出した。

そう、ユカリが赤い風船をひっかけたのは階段の踊り場の木だった。


「そうか、何だか懐かしい感じがしたのは、この木だったのか」

その木は昔の姿とまったく変わらぬまま、葉が豊富に生い茂っていた。


ヒロトは木に向かって心の中で話しかけた。

『おまえも10年前と同じで全く変わっていないな。

ユカリは、10年前、この木にひっかかった赤い風船を必死で取ろうとしていたな・・・。


むぎわらぼうし、白いワンピースだったかな。

あのときは、ユカリは背が低く、本当にガキっぽかったんだよな。その割には最初からため口で、あいつ生意気だったな・・・』


しばし、ヒロトはその木を眺めていた。


俺の25年間の人生で一番幸せを感じていたときは、ユカリと一緒にいたときだったかもしれない。この永森神社の自然を感じながらユカリといっしょに絵を描いていたとき・・・』


ヒロトは、木に勇気付けられたような気がした。

ヒロトはその木に近づき、木に手のひらを当てた。

「ありがとな」


それから、ヒロトは山頂に向かって再び歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=873241521&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ