第7章 第5節ヒロトの憂鬱~ユカリとの思い出
ある夜、ヒロトは湖近くの公園のベンチに座って、物思いにふけっていた。
中学同期生の和代と雄二の二人と久しぶりに出会って、ヒロトは少しだけ落ち着いた気分になっていた。
『何かずいぶん長い年月、大切なものを忘れてしまっている気がする・・・』
ヒロトの手のケガは回復が早く、2日前に完治した。
ヒロトは、今いる公園から5kmほど離れた山を眺めた。その山は永森神社のある山だった。
『懐かしいな。7年ぶりに永森村に戻ってからずっと落ち着かなくて。あの神社のこと、思い浮かばなかったな…』
ヒロトは、心が温まる思いがしてきた。
『永森神社か・・・』
ヒロトは、10年前、そこでユカリと出会ったこと。一緒に絵を描いたこと。デートしたこと。そして別れた日のことをなつかしく思い浮べていた。
(神社の階段でユカリに初めて出会った10年前)
ユカリ「お嬢ちゃん、お嬢ちゃんって、あたし、小学生じゃないもん!これでも中学1年なんだから!」
ユカリ「ガキだと思って、謝れば収まりつくんじゃないかって思ったのね。絶対、許さないから!!」
(8年前、ユカリと初めて絵を描いたとき)
「ヒロト、あんまし、じーっと見ないでよ!なんだかはずかしいじゃない。。。」
「ユカリがこうゆうポーズをしてっていったんじゃないか!」
「イーだ!」
(ユカリがヒロトの肩に寄り添って眠っていたとき)
「ヒロト、あたしが眠っている間、変なことしなかった?」
「するわけねーだろ」
「あやしーなあ、まあいいか」
(デートでユカリが大勢の人前で抱き着いてきたとき)
「おい、ユカリ!みんな見ているぞ」
「かまわないもん、どうせ、みんな知らない人ばかりだから!ヒロトに久しぶりに会えてうれしいんだもん!」
(ユカリと最後の別れのとき)
ユカリ「私にとって、一番の思い出の場なの。永森村は!」
ユカリ「一緒に絵を描いていたとき、ヒロトは一体どう思っていたのよ!」
ヒロト「ユカリがいたら俺は不幸にしかならないんだよ!」
(その後、ユカリは泣きながらその場から走り去ってしまう・・・)
『ユカリと別れてからもう7年経つのか』
ヒロトは、ユカリの言葉が浮かんだ。
ユカリ「私はこの村が大好き。ヒロトはよく見ていない。この村を・・・」
ヒロトは思った。
『ユカリが言っていたことは、このことだったのかな』
ヒロトは少しため息をついた。
『もうユカリと会えるわけないのに。
こんなときにまで、ユカリのことばかり思い出す。何だかユカリと別れたのが、つい昨日のことに思える・・・』
『そういえば、ユカリと初めて会った時も8月、今頃だったかな。
ユカリと会って以来、ずっと永森神社に行っていなかったな』
ヒロトは、永森神社のある山をずっと眺め、懐かしく、そして安らかな気持ちになっていった。
『あの神社に、明日行ってみよう』




