第6章 第4節 すれ違う恋 ~ 眠れない天使その2
次の日の放課後、ユカリは、長江先生よりコンクールの件で美術部の部室に呼ばれていた。
長江先生「天宮さん、コンクールの一次審査が合格して、本当によかったですね。
私たちの大学から受賞者がでるかもしれないですよ」
「はい・・・」
ユカリは元気なく返事した。
「天宮さん、どうしたの?目も少し赤いよ」
「いえ、なんでも・・・昨日、眠れなかったので」
長江先生は、ユカリの様子がいつもと違い、とても落ち込んでいることに気づいた。
「天宮さん、何か困ったことがあったら、先生、相談乗るわよ」
長江先生が優しくユカリに話した途端、ユカリの目から涙がぽたぽた落ちてきた。
「長江先生、あたし、賞とっても全然嬉しくありません。絵も出したくないんです」
「天宮さん・・・」
「ぐずん、ぐずん」
ユカリは先生に抱き着き、そして大声で泣き出した。
「え~ん、え~ん」
長江先生は、泣いているユカリの背中を優しくさすった。
「天宮さん、どんな辛いことがあったかは知らないけど、一つだけ先生の言葉を信頼して。
天宮さんは素敵な女性よ。今はどんなに辛くても、天宮さんは絶対、幸せになる。先生がそれを保証する。だから、今日は思いっきり泣いていいのよ」
「え~ん」
ユカリは、しばらく長江先生の胸で泣いていた。
数日後、ユカリは少し元気を取り戻した。そして放課後、長江先生のいる職員室を訪問した。
長江先生は29歳。ユカリは長江先生をお姉さんのように慕っていた。
「長江先生、先日は本当にすみませんでした」
「もし、宜しければ、先生に事情を話してくれますか」
ユカリは長江先生にヒロトのことを一とおり話した。
「そうだったんだ。でも、天宮さんは素敵な恋愛しているね。先生、なんだか羨ましくなるな」
「そうですか」
ユカリは、長江先生の意外な返答に驚いた。
「天宮さん、早川ヒロトさんとは今後どうなるかは先生にもわからない。でもね、やっぱりいつまでも引きずっていてはよくないと思うの」
「はい」
長江先生は、一つの案を思いついた。
「天宮さん、先日はね、応募する絵の題名を決めようと思って呼んだの。そこで、先生からの提案なんだけど、思い切って、今の天宮さんの気持ちを絵の題名に込めたらどう?」
「え?」
「さっきも言ったけど、いつまでも引きずるのはよくない。だからこそ、自分の今の気持ちを思いっきり絵に込めるのよ!」
ユカリは一晩、絵の題名を考えた。
『ヒロトは、私の想いがもう届かないところにいる。それでも、二人であの永森村で絵を描いたことをけっして忘れない。
今でも私はヒロトが好き。忘れることなんてできない。なぜなら、ヒロトも永森村も私の一番大切な思い出・・・。だからヒロトも気づいてほしい。あの永森村のすばらしさを・・・』
そのような思いを絵の題名に込めた。
それから約8か月後。ユカリが大学3年になった5月。
ユカリの絵の最優秀賞受賞が決定した。
絵の題名は
「想い別れし恋人~永森村の風景」
だった。




