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第6章 第1節 すれ違う恋 ~ あれからユカリは・・・

時は、ヒロトと明日香が美術館でユカリの絵を見たときからおよそ1年3か月前に戻る。


このときユカリは大学3年生。季節は夏休みになっていた。今、ユカリは永森村の神社にいる。そして1枚の絵をちょうど仕上げたところだった。


『ふ~、ようやく描き終えた~』

ユカリは絵を描き終えて、昔を思い浮かべていた。

そう、ヒロトと最後にあった高校1年の夏のことを…。


『もう、あれから5年も経ったんだな…』


このとき、ユカリの脳裏にヒロトの最後の言葉が浮かんだ。


「ユカリといたら俺は不幸にしかならないんだよ!」


ユカリは、新橋の公園で泣いて別れた後、電車に乗って、実家のおばあちゃんの家に向かった。

おばあちゃんの家に着いたのは、夜10時過ぎだった。

「あれ、ユカリ?どうしたの。元気ないように見えるけど、何かあったの?」

「うんうん、なんでもないの。今日は、疲れたから離れの家で休むね」

ユカリは、離れの家の部屋に行き、机に座った途端、わんわん泣いてしまった。その夜はずっと泣いていて、ほとんど寝付けなかった。


次の日、ユカリは、ヒロトと絵を描いた永森神社の広場に行った。ユカリは、広場のベンチに座った途端、また、泣いてしまった。


「ヒロトと一緒に絵を描くの、本当に楽しみにしていたのに。なんで、なんで」

その日、ユカリはここで一日中泣いていた。

2,3日、ユカリはずっとこのような状態だった。

ユカリは、思った。

「あたしはヒロトが今でも好き。でもあたしの存在がヒロトを不幸にするって、ヒロトが思っている…」

その言葉を思い出すたびに、涙が出てきた。


ユカリは、それから永森神社に足を運ぶのを止めた。そこに行くとどうしてもヒロトを思い浮かべて辛くなってしまう。

そして、ヒロトの電話番号、メールの連絡先を全て削除した。ヒロトのことは今も好き。でも今はこうしないと苦しくなるだけ・・・。

その夏は、ユカリは、永森神社には行かず、湖や他の山の広場に行き、絵を描いた。



さらに2年が過ぎた。ユカリは高校3年になっていた。高2の夏は永森村には行かなかったが、高3の夏も行かないつもりだった。

でも、ヒロトへの苦しみの感情は時間が経つにつれて少しずつ和らいでいった。

でも、どうしても、ヒロトへの思いを断ち切ることができなかった。


ユカリは、今、山口県の両親の家にいる。高校の夏休みは半ばを過ぎていた。ユカリは、家のすぐ近くにある神社に気分転換で夜中、散歩していた。

ユカリは、神社から星空を眺めていた。


『そういえば、小さい頃も、嫌なことがあった時、この神社に来てよく星空を眺めていたっけな』

ユカリはしばらく星を眺めていた。そして、ヒロトとの思い出の一つ一つを振り返っていた。


12歳のとき、永森神社の階段で初めて出会い、いきなりヒロトに怒ってしまったこと。


中学3年のとき、一緒に絵を描いたり、ベンチに二人で座って絵をヒロトに見せたこと。


高校1年になってデートしたこと。

なんだか、いつも喧嘩ばかりしていたっけ。

ユカリは少しだけ笑った。


でも、本当はヒロトもきっと大変だったんだろうな。そんなヒロトの気持ち、理解してあげようと、本気で思っていたのかな。あたし、ヒロトにわがままばかり言っていたな。それでもヒロトは何一つ不満を言わず、あたしに付き合ってくれてたんだな。


ユカリは、ヒロトの立場で、過去をいろいろ振り返り、思いふけっていた。

そう思ったら、ヒロトがあのとき傷つけた言葉を言ったことは薄れていき、反対にヒロトへの感謝の思いが次第に大きく膨らんでいった。


『ヒロトに申し訳ないことしたな』



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