第4章 第4節 明日香との交際 ~ デートのお誘い
ある日のこと、時計は夜10時を回っていた。
職場の事務職で残っていたのは、月末の残務を処理するのに遅くなった明日香だけだった。
『ふ~、これでだいたい終わったかな』
明日香は帰る支度をして、その後社内を見回ったところ、開発室の灯りがついていた。
『こんな遅くまで・・・』
明日香が開発室を覗いてみたら、一人の男性が黙々と仕事をしていた。それはヒロトだった。
『早川さん…。そうだ、深夜で他の社員は誰もいないし、少し声をかけてみようかな』
明日香は、開発室の扉を開けてヒロトに近づき、声をかけてみた。
「早川さん、ここのところ、ずっと遅くまでお仕事されていると耳にしましたけど、お体の方は大丈夫ですか」
「はい、心配頂き、ありがとうございます。大丈夫ですよ。体だけが丈夫なのが唯一のとりえですから」
「早川さんってこの会社の仕事以外にも、仕事を抱えているのに、本当に偉いですね」
ヒロトは明日香の方を見て答えた。
「私なんて、まだまだですよ笑」
「いいえ、とても素敵だと思いますよ」
「そう言われると照れますね」
ヒロトは満願の笑顔で答えた。
『あら、この笑顔・・・』
明日香は確か前にも一度、この笑顔を見たことがあったのを思い出した。明日香は、ヒロトの少年っぽい無邪気な笑顔に惹かれるものを感じていた。
そして、明日香もいっぱいの笑顔で返した。
・・・
この日を境に明日香は、ヒロトがメインメンバーの一人として行う会議では、事前に営業部の管理職に伺って、必要な書類を用意したり、会議のセッティングを行うようになった。
ヒロトは、会議がある日、朝早めに出社して、準備をしようとしたら常に誰かが用意してくれていた。会議で必要になりそうな参考書類まで用意してあった。
ヒロトは、てっきり開発部の部長か課長が気を利かせてくれて、前日中に段取りをしていると思っていた。今までは会議の日になると、ヒロトは深夜遅くか、早朝早く出社して準備やセッティングを行っていたが、おかげで朝早く出社することはなくなった。
ただ、ある日、開発部の部長がこういった。
「あんなに夜遅くまで仕事しているのに、事前に会議の書類やセッティングを段取りよく用意しているなんて、早川さんは本当にたいしたものですね」
『え、誰がいったい・・・』
そこでヒロトは、会議が午前9時予定のある日、早朝7時に出勤した。そして、偶然、明日香が書類を用意しているのを見かけた。
「あら!おはようございます。早川さん」
「秋本さん・・・」
「早川さん、準備しておきましたから」
明日香は、おもいっきりの笑顔で答えた。
「秘書課の秋本さんが朝早くから出社してやってくださっていたなんて・・・」
「大丈夫ですよ。きちんと秘書課の部長の許可もとっておりますから」
『ひょっとして、俺が手際よくできたのは・・・。
最近、段取りよく会議が進むのは秋本さんのおかげだったのか』
ヒロトはこういったことは会議以外にもあったことを思い出した。
『そういえば、あのときも、そしてあのときも・・・」
その日の午前中の会議が終わり、昼の休憩時間になった。ヒロトがコンビニで弁当を買いに行く途中で、ビルの1階で明日香とばったり会った。
「秋本さん」
「早川さん、会議お疲れ様でした」
ヒロトは、明日香に感動のようなものさえ感じていた。
「秋本さん、ありがとうございます。今まで、何も気づかなかったです。秋本さんがいろいろ陰で支えてくれていたこと・・・」
明日香は、にこっと笑って、答えました。
「いえいえ、気になさらなくても大丈夫ですよ」
「あはは・・・」
ヒロトは、笑って頭をかいた。
「あの~早川さん、今度のお休みのとき、一緒にお食事でもどうですか」
『え・・・』
ヒロトはびっくりした。
それは明日香からのデートのお誘いだった。