第4章 第1節 明日香との交際 ~ ヒロトの5年間
ヒロトは、東京生活を始めた。
もともと、努力家であったヒロトは、バイトが終わった後も、深夜までウェブデザインの勉強をした。
そのため、ごく短期間で、自分でつくったデザインの数々をネット上に公開できるまで上達した。
『そういえば、ユカリが中3のときに見せてくれた風景のスケッチはこんな感じだったかな』
ヒロトは、以前にユカリがベンチで見せてくれたスケッチの数々を思い出し、ホームページのデザインやイラストをつくる参考とした。
「ユカリと終わってから、ユカリの絵を思い出すなんて・・・。もう会えるわけでもないのに・・・」
ヒロトは、10月にウェブデザイナー会社への就職が決まり、バイトの住み込み先から新しいアパートに引っ越し、新しい職場で働くようになった。
そして、その会社で1年もたたずに社内で行った新人の制作発表会でデザイナー賞を獲得した。ユカリのスケッチの記憶を元につくったデザインが好評を得たのだった。
ヒロトは会社が休みの土日も猛勉強した。やがて、ヒロトは、以前から独自でつくって、ネットで販売していたイラスト集が人気となって売れ出すようになった。さらにヒロトは、プログラミングにも詳しくなっていった。
それからヒロトは、会社でコツコツ貯めたお金とネット販売で稼いだ資金で、21歳になろうとしていたとき、ヒロトは脱サラして独立した。
ヒロトは、苦労しつつも次第に事業を軌道に乗せ、以前の職場で縁のあったお客様、大手のソフト開発会社であるシラトリシステムのデザイン制作を依頼され、常駐して働くことになった。
シラトリシステムの部長が過去のヒロトの働きぶりとセンスとを評価していたことがきっかけだった。
シラトリシステムでは月曜から金曜日まで、常駐の仕事だったが、ヒロトは他にもいくつかの会社の小さな仕事を請け負っていた。これらの仕事は平日の夜や土日・祝日を使って仕事を片付けていた。
ヒロトは休みがまったくない状態だったが、ヒロトは充実していた。
『東京は、俺を必要としている人がいっぱいいた』
ヒロトはそう感じていた。
そして忙しさのあまり、ユカリのことも次第に忘れるようになり、いつしか、あの神社でユカリと出会ったことも遠い記憶になっていった。
ヒロトは、年商も順調に増えていき、22歳の春、株式会社となった。そして、白金で小さな事務所を構えるようになった。すでにお客様は上場会社のシラトリシステムの他、地元の会社からも信頼を得つつあった。
ヒロトはシラトリシステムの仕事を引き受けて、すでに1年8ヶ月が経過していた。
シラトリシステムでの業務単価も月120万円と上がり、月曜日から金曜日まで常駐して働いていたときとは違い、自分の事務所に持ち帰って仕事ができるようになった。そのため、シラトリシステムには週2~3日程度の常駐ですむようになっていた。
ヒロトの会社の年商は2000万円を越えるようになった。