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第6話 『浴場にて』


居館の外に出ると西の空は赤く染まり、夜の帳が降りようとしていた。

メイドに続き、最初に案内された居館へと歩を進める。


ほんとに疲れた。身体的にではなく精神的に。やはりこの体は相当頑丈なようだ。

しかし褒美か…第一候補は金だよなー。安定した収入源が見つかるまでは援助してもらいたいな。あとは宿だ。あの部屋をいつまで貸してくれるかが問題だな。

第2候補に仕事なんてのもいいかもな。いい仕事を紹介してくれそうだ。・・・異世界にまで来て就職活動とは…流石に一生生活できるだけの金とかは申し訳ないしな…


・・・ていうかエルフって長寿なイメージがあるけどどれぐらい生きれるんだ?情報が欲しいな…


「すみません。ここに図書館のような場所はありますか?」メイドに聞いてみる。

「はい。王家の居館に様々な資料の置いてある図書室があります」

おお。だったら…

「よろしければ使わせてもらいたいのですが…」

「わかりました。おそらくは大丈夫でしょうが、許可をいただけるか確認しておきます」

「ありがとうございます」


よし。とりあえずはそこで資料漁りだな。


そうこうしていると居館へ着く。そのまま同じ部屋へと案内された。

「食事はすぐにお運びします。浴場には後でご案内いたしますので。それと、お着替えはクローゼットの中に用意しております。そのほかに何かございましたらお呼びくださいませ」

「分かりました」

「ではごゆっくりとお休みください。失礼致します」

頭を下げた後、メイドさんは去って行く。


「ふう」


・・・やることがないな…

スマホもパソコンもテレビもない。暇すぎる。


「後でメイドさんに本はないか聞いてみるか」

字を読めるかはわからんが、魔法でなんとかなるだろ。

時計を見ると6時ごろを指している。


―――同刻。王家の居館、会議の間。

そこには長机が正方形に並んでいる。一辺に5脚椅子が並べられ、国王と先程の謁見で国王の近くにいたこの国の重鎮と思われる者たちが座っていた。しかし席は全て埋まっておらず、誰も座っていない椅子が何席かある。


「本当にあの者は敵の手の者では無いのですか?」

エルフの1人が言う。

「安心せよ。確かに怪しい者と言うのに変わりはないが、決して悪性のものではない。・・・我が目が未だ衰えていなければだがな」

国王は微笑を浮かべる。

「ふふ。ではあまり信用なりませんな」

髭をさすりながらエルフが言う。否定的な言葉ではあったが、その者の目には王への信頼が見て取れた。

「我々も衰えましたな。昔が懐かしい」

「戦場で走り回っている者が今では羨ましい」

「そうですな。昔はよく暴れたものだ」

席に座った者たちは、口々に全盛期の事を口にする。竜を倒した、多数の敵兵を倒した、魔族の将を討ち取った、その言葉には愉快さ、自負、そして哀愁が含まれていた。


軽く机をばんばんと叩く音がし、

「昔話はこれくらいにしよう。今はここが我らの戦場だ」

国王が顔を真剣なものへと変える。すると周りの者たちも意識を切り替え、会議へと戻る。

「今回の襲撃の件だが…やはり目的はユノーを攫う事だろう。敵は黒ずくめの者が10人ほどと帝国兵が3人、<転移門(ゲート)>や<機械仕掛けの羊の夢(ナイトメア)>といった高位魔法を使える魔術師も居る。詳しい事は騎士団長が目を覚ましてから聞くことができるだろう。そしてこれがちょうどユノーが外出した時、将軍の遠征中に起きたのは偶然ではないだろう。探知結界が一部破壊されていた。さらにはそれを巧妙に隠蔽していた。・・・情報はこんなところか」

「問題は帝国兵のことでしょうね。偽装か、本当に3人だけ送り込んだのか、おそらくは前者でしょうが」

「ユノー様が攫われなかったのが不幸中の幸いでしたね。帝国が攫ったのなら戦争は避けられず、森から出て戦わなくてはいけませんでしたから」

「うむ。質はこちらが上だろうが、数は圧倒的に向こうが上。単純なぶつかり合いでは勝機はほぼ無かっただろう」

「で?将軍殿はいつ戻られるのかな?」

「<遠隔会話(リモートトーク)>でわしが連絡したのじゃが、王国から魔導船で5日ほどかかるそうじゃ」

「そうか。少々かかるようだがおそらくは大丈夫だろう。明日には団長が、後は…あの者に手伝ってもらおうか」

「そうだな。出身は違えど、もはやあの者は我らの同胞。さらには腕も立つようだ」

「では、明日の謁見で我が頼もうと思うがよいか?」

王が言い、皆が頷く。異論はない。

「では次に、なぜユノーを攫ったかだが、あのことが―――」


―――浴場に一人、プラチナブランドの髪を結い上げているエルフが広い浴槽に浸かっている。


「ふい〜極楽極楽。それにしても夕食は普通に美味かったな〜」


夕食のメニューを思い出す。

ここで作ったらしい丸パンが二つに赤い汁に野菜の入ったスープ、この森に自生している野菜のサラダ、スライスしたニンニクの乗った鹿肉のステーキ、海を挟んだ隣の国の特産品のリンゴらしき果実。


鹿肉は初めて食べたがなかなか美味しかったな。見たことない野菜もあったが、別に気にせず食べれた。

リンゴみたいなのは、リンゴだったな。


聞いてみたのだが、この国では野菜の栽培や牧畜という文化はなかった。狩りや採取、後は仲の良い国との交易で食料を調達しているそうだ。このような生活で生きていけるのは、国のほぼ全域が森に覆われ、領土に比べて圧倒的に人口が少ないなどのエルフの特性からだそうだ。・・・その気になれば一年は何も食わずとも生きていられるそうだ。水分は必要らしいが。後の詳しい話は図書室にある種族図鑑に書いているらしい。気になる…


「あ〜。シャワー派だったがやっぱり風呂に浸かるのもいいな」


俺は誰かと鉢合わないために、深夜2時ごろに風呂に入っていた。もちろん女風呂。

・・・確かに気になるが、見た後、冷静になった時に罪悪感で押しつぶされるのは目に見えているからな…

俺は後になってぐちぐち悩むタイプだ。意味がないと分かっているが頭の中で考えてしまう。ああすればよかったとか、なんであんなことをやったのだろうか、とか。


うん。誠実に生きよう。そうすれば良いことあるさ!

その時、後ろから扉が開く音がする。


「・・・」


なぜだ…なぜこんな時間に…内心焦りまくりである。体は女だが、中身は男。相手はそんな事想像もつかないだろうが、非常に不安になる。後ろめたいことがある時は過敏に反応してしまうってやつだ。

不自然な行動は避けよう。ちょっと世間話でもしたらすぐ風呂から上がろう。流石に会話も無しだと評価が落ちる。これは風呂に残りたい言い訳ではない。へへ


ぺたりぺたり。足音が近づく。

「ん?スカサハ様?随分と遅い時間に入られているのですね」

この声はリオか…顔を少し後ろに向けちらりと見る。


タオルで前を隠しているが体のラインははっきり見える。胸は控えめで、体は全体的に引き締まっており、透き通った美しい肌をしている。まさに無駄のない体つきだ。タオルからはみ出る柔らかそうな太ももは白く、艶やかな光沢を持っており扇情的だ。


「え、ええ。そういうリオさんも遅い時間に入られるのですね」

顔を戻し、努めて平静を装う。

「はい。いつもはこんなに遅くはないのですが、今日は色々ありましたから…」

かなり疲れているようだ。仕事か…

「お疲れ様です。ゆっくり疲れを癒してください」

「はい〜」

そう言うと、桶を取り湯船からお湯を汲んで体を洗い始める。

体を洗うのには固形石鹸を使う。歴史は好きだったが石鹸がいつ登場したのかまでは知らない。中世にあるイメージが無かったから意外だった。


リオが体を洗い終わり、湯船へと入る。すぐ隣に浸かり、はぁ〜という声を出す。髪を濡らし、頰を少し赤く染めている姿は非常に色っぽい。緊張する。


「仕事終わりのお風呂は気持ちいいですね〜」

「お疲れのようでしたが何をしていたのですか?」

「王家の居館の方でユノ様と少し話した後、ツェーロ様…宮廷魔術師様と館内の魔法系警備の確認をしていました」

「なるほど。あの人と」

あの爺さんセクハラしてないだろうな…?


「では、ユノー様とは何をお話ししていたのですか?」

「あなたのことですよ。からかわれたと、楽しげにおっしゃっていました」

そう言うとくすくすと笑う

「そ、そうでしたか」

「それと、私に敬語を使わなくても良いですよ。ユノ様と話す時と同じようで結構です」

「そこまで話されていたとは…」

「ええ。嬉々として語られておりました」

「そうですか…じゃあ、敬称はこのままで口調は少し軽くするとして、リオさんも様付けはいらないですよ」

「しかし、スカサハ様はお客様なわけでして…」

「今は勤務時間外だし、もう友達みたいなものですし」

「そ、そうですね…では、私もスカサハさんと呼ばせていただきます」少し照れながら言う。かわいい。

というか、わーい!はじめての女友達だ〜あ、ユノもいたか。まあ、あの子は女の前に子供だからな。謁見の後はドキッとしたが…


その後は軽く雑談をした。リオの弟のことやリオ自身のこと、この国のことなどだ。

リオとライオネルの姉弟は子供の頃からこの国に仕えていたそうだ。リオたちの両親は優秀で高い地位におり、子供もその血を受け継いでかなり優秀みたいだ。リオは40人程のメイドを部下に、ライオネルは60人規模の「碧翼騎士団」の団長をしているそうだ。騎士団はもう一つあり、「明翼騎士団」というこちらは20人規模と少ない騎士団だ。二つの騎士団は仲が悪く…いや後者の団長が一方的に因縁をつけてくるらしいが…


そして、この国ができたのは意外と最近で、2代前が初代、今は3代目らしい。その前は森の中の集落の長達が集まり、政をしていた。その時代は外交はせず、ずっと森に引きこもる保守的な種族だった。しかし、初代国王は外界に興味を持ち、何年か外の世界を旅して様々な文化に触れたことでエルフ族の生活がいかに遅れているか知った。そして、幾多の苦難を乗り越えこの国を建国し、エルフ族に繁栄をもたらした。


「―――とまあ、初代国王様は偉大な方なんですよ」

リオは自分の国に誇りを持っているようで、自慢げに話してくれた。

「確かに新しい一歩を踏み出すのはとても勇気がいる事ですよね」

「ええ。そのせいで多数の反対があったようで、説得するのにかなり時間をかけたそうですね――あ、いけないすっかり話し込んでしまいましたね」

湯気で見にくい時計は3時をまわろうとしている。


「明日も仕事がありますのでこのくらいで失礼しますね。スカサハさんは?」

「わた…俺はもう少ししてから上がります」

「そうですか、ではお先に。お休みなさい」

にこりと笑い、浴槽から上がる。

「お休みなさい。明日も頑張ってください」

俺も笑い、手を軽く振って送る。


扉が閉まった後、お湯の流れる音だけが残る。

「ふう。リオが着替え終わったら俺も上がるか」


しかし、楽しかった。可愛い娘と話すのは実に癒されますな。にやにやと顔が緩んでしまう。色々と話も聞けたし有意義な時間だった。


「この世界のことを知れば知るほど楽しいな」


はやくここ以外の国も見たい。


「そのためにもはやく職につかねば…!」


白金のエルフは外の世界に想いを馳せながら決意を固めた。

残業ほんとひで

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