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第5話 『謁見と褒美』


俺は扉の前に立つ。巨大な両開きの扉。装飾は少なくシンプルな作りだが、その木製の扉の表面は美しくなめらかで、職人の丁寧さが伺える。

両脇にはハルバードを持った2人の兵士が立ち、その鎧は翡翠の輝きを放っている。


兵士が同じ動きで、扉に手をかけゆっくりと開いていく。扉の隙間が広がっていき、そこから光が溢れ出す。


そこは豪華絢爛という言葉が最も似合う場所。30mほどの奥行きがある部屋。床には真っ直ぐに赤い絨毯が敷かれ、その横には等間隔で兵士が並んでいる。天井は高く、大きなシャンデリアが6つほどぶら下がっており、柱や天井は金と思われるもので装飾が施され、シャンデリアも黄金に輝いている。部屋の端には胸像や壺などの調度品が並びこの部屋を彩る。


そして最奥。少し高くなっているところに二つの玉座が並んでいる。背と座面が赤い布で、それ以外の枠や脚などは金色だ。左の玉座に座っている人物は王冠を被っており、その気配は王にふさわしき威風堂々としたものだ。顔には皺が刻まれ、口には白い髭を生やしている。髪もまた白く、年季を感じさせる。右の玉座に座っている人物は少女。そう、ユノだ。紺色のドレスをまとい、頭には翠色の宝石のついたサークレットをつけている。・・・そしてどや顔。

玉座の近くには先程会った宮廷魔術師のほか、歳のいったエルフ達が横に並んでいる。


「お入りください」

横に立つ兵士の1人が言う。

俺は頷き、玉座へと足を進める。赤い絨毯の上を堂々と歩く。

こういうのはかなり苦手だ。手には汗、心臓はばくばく。正直帰りたい。しかし、ここで無礼をはたらけばこれからの生活が厳しくなる。リオは国王が優しいと言っていたが、その部下はどうか分からんからな。

テンプレだと、どこぞの馬の骨〜とか敵のスパイ〜とか言われるよな。はぁ。お腹痛い…


玉座の前に着くとゆっくりと片膝を立てて跪き、頭を下げる。

一拍おいて王が口を開き、威厳のある声を発する。


「面をあげよ」


頭を上げる。こちらは自己紹介をすればいいんだっけかな?


「お初にお目にかかります。国王陛下。(わたくし)、名をスカーサハと申します。どうぞスカサハとお呼びください」

「うむ。よくぞ参った。我こそがこの国の国王、ヴィーザル・エイワズ・オークス・エルフェン・シャーウッドだ」

国王は続けて言う。

「そなたのことはユノーより聞いている。大儀であった。気を失っていた3人の帝国兵と思われる者は回収し、牢に入れておいた。黒装束の者達は発見できなかったが、この帝国兵を尋問すればある程度の情報は手に入るであろう」


はやっ!1時間程度で3人見つけて、リオの弟も回収したのか…有能。さすが森に住んでるだけあるな。


「帝国兵3人というのは極めて不自然。少数でこなくてはいけない理由があったのか、違う勢力の偽装工作か、そう思わせるための帝国の作戦か。考え出せばきりがない」


たしかに3人だけというのは不自然だよな。少数で来ると言っても、精鋭のはずだ。しかしあいつらは明らかに雑兵だった。黒いやつらは確実に精鋭だっだが。


すると宮廷魔術師が口を開く。

「<転移門(ゲート)>は<転移(テレポート)>と違い時間制限はあるが、質量制限はない。強いて言うなら門のサイズ以下しか通れないがサイズは魔力に依存して可変可能。つまり<転移門(ゲート)>が使えるなら少数よりも物量で押した方が楽ということじゃ」

「どこかの勢力が、帝国とこの国の戦争を望んでいるようだな」

王は渋い顔をした後、俺に語り始める。


「この国と帝国は元から仲が悪かった。昔はよく国境の森で戦争が起きていた。帝国は多くの兵を持っていたが、こちらは少数。それでも国を防衛できていたのは森が戦場であったからだ。永く生きたエルフならば自分の住む森など目を瞑っていても迷わぬ。しかしヒューマンからすれば視界が悪く遮蔽物も多い戦場。エルフは弓術、魔術での奇襲や狙撃を主とし、数の有利をはねのけた。森への火属性の攻撃は火耐性の結界と加護によって無力化し、盤石の備えを築いた。戦争の頻度はしだいに落ちていき、そしてある事件を機に停戦の条約を帝国と結んだ」


徹底しているな。有利な戦場に立て篭もり、さらにその戦場を強固な守りで固める。

「なるほど。戦争の動機は何だったのですか?」

「それは我が国に良質なミスリルの採れる鉱山があったからだ。帝国はそれを狙い兵を送ってきたのだ。だが、一度たりともあの鉱山にたどり着けた兵はいなかったな」


帝国は馬鹿なのか?それともそんなに資源に困っていたのか?しかし、わざわざ相手が待ち伏せしているところに何度も飛び込んで兵を減らすのはダメだろ。


「そうでしたか。するとこちらからは攻撃を仕掛けていないのですか?」

「そうだ。しかし、条約締結の際には今度はこちらから攻めに行くぞと脅してやったがな」

国王はそう言って笑うと話を変える。


「話が逸れてしまったな。では、先程の礼拝堂での件だ。ユノーだけではなく、騎士団長の命も救ってくれたそうだな。これは先に言うべきだったが…我が愛し子と忠臣を救ってくれたこと、本当に感謝している。ありがとう」

国王は頭を深々と下げる。それに続きユノも頭を下げた。


「国王陛下、王女殿下も頭をお上げください。私は周囲の情報を集めるために最も近くにいた殿下をお助けした次第。決して褒められたものではありません」

この人の前で嘘はつけない。


「では、スカサハよ。貴公は情報があったなら我が子を助けなかったのか?」


俺は…


「危険にさらさられている子供を助けることは当然の行いでございます。攫うなどという蛮行を許せるはずがありません。故に感謝など…」


国王は笑みを浮かべながら言う。

「貴公は実に素直だ。先の答えで分かった。そしてその心の底には正しさが宿っている。謙虚を美徳とし、協調を重んじる。好感の持てる人柄だ」


すごい評価されてる…本当にそうなのか…?


「ありがたきお言葉でございます」

俺は頭を下げる。

すると国王は面目無さげな顔をしながら。

「うむ。正直に言うと貴公を警戒していたのだ」


ですよね。どう見ても怪しいもんね。


「出身のわからぬエルフが国内をうろついているのと同時にユノーの一件が起きたわけだしな。敵勢力のスパイかと思っていたのだが、違ったようだ。貴公は信頼できる。よって!」

「この国に籍を置くことを許可しよう!」

「あ、ありがとうございます」

疑われていたようだが、とりあえず当初の目的は達成できたな。


「そして最後に褒美だ」

おお、テンプレイベント来た!しかし…

「陛下、先程も申し上げましたが、私は当然な行いをしたまで。ご好意はありがたいのですが褒美など勿体無く存じます」

「遠慮はせずともよい。我が感謝にふさわしき褒美を与えなくては王家の恥よ。それとも我が好意を踏みにじるとでも言うのか?」

国王はにやりと笑う。

弁の立つ王だ…


「では"素直"に受け取らせていただきます」

「ふっ。我が与えられるものならば何でもやろう。先も言ったが遠慮はせずともよい」

とは言ったものの…別に必要なものは地図とか金ぐらいだよなー。うぐぐ。どうしたものか。

少し迷っていると、

「ふむ。別に1つに絞らなくてもよいのだが。迷うならばまた明日、同じ時間にこの場に来るがよい。居館の一室を貸していたな。食事はメイドに運ばせる。とりあえずは休むといい」

「寛大なお心に感謝いたします。陛下」


「父上。私は少しスカサハと話してから戻ります」

「分かった。では、スカサハよ、また明日に会おう。さらばだ」

国王はそう言うと宮廷魔術師たちを連れ、玉座の横にある扉から出て行く。ふぅ。緊張した。

するとユノが近づいて来る。


「お疲れ様でした。スカサハ。父上はどうでしたか」

「素晴らしき方ですね。聡明で、弁も立つ。さらには寛大なお心をお持ちになっている。非の打ち所がない王であらせられる」

「そうでしょうそうでしょう。私の自慢の父です!」

「ところで王女殿下は私に何用でございますか?」

「・・・あなたは適応力がすごいですね…私はこの国の第一王女なのですよ?もっと驚いてください!」

理不尽な。


「まあ、森での殿下のお話を聞いて何となく予想はしていたので」

「なるほど…はあ。もっと驚いてくれると思ったのに…」

「申し訳ありません」

心にもないことを口に出す。

「・・・その話し方やめません?」

「何がでしょうか?目上に対する最も適切な対応だと思っていたのですが」

「最初に森で会った時はもっとくだけた感じでしたよね!?」

「何を仰いますか。最初からこの口調でしたが?」

「えっ!?そうでしたっけ?」

おい。アホの子すぎるだろ。


「冗談だ」

「ムキー!騙すとは失礼ですよ!」

「すまんすまん。だが、流石に国王陛下や他のお偉いさんの前では敬語は使わないと俺がまずいことになるからな」

「分かっています。だから私と2人で話している時はいつもの口調で話してください」

「まあ、いいだろう」

「急に偉そうですね…しかし、普通に話していてもリオの前なら大丈夫だと思いますが」

「リオには普通に敬語を使っているがな」

「なぜ!?私には最初からタメ口だったのに!」

「そりゃ年上には敬語を使うに決まってるだろ」

「常識知らずに常識を説かれるとは…」

「誰が常識知らずだ」

失敬な。確かにこの世界の常識は知らないが。


「で?結局何の用でここに残ったんだ?」

「・・・自分の口からも改めて感謝の言葉を言おうと思いまして…」

「はあ」

「はあ、とは何ですか!?まあいいです」

ごほんとわざとらしく咳をしてから続ける。


「スカサハ。私だけではなく団長様まで救ってくれた事、本当に感謝しています。あの時は本当に怖かったです。あなたが来てくれなかったらどうなっていたことか。・・・私は父上と違い何でもはあげられませんけど…これはせめてものお礼です」


そう言うと前かがみになり、顔を近づける。

そして頰に優しく口づけをする。柔らかな感触が頰に伝わり、すぐに離れていく。


「じゃあ、また明日!」

少し顔を赤らめた少女は手を振って扉の方へと向かい、部屋を後にする。残された大きい方のエルフは、


「・・・」


そう言う趣味はなかったが…


「目覚めちまいそうだぜ…」


ロリコンだった友人の顔を思い出しながら呟いた。


キマシ?

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