第3話 『白亜の城』
「ところでスカーサハって言いにくいのでスカサハにしませんか?」
「おい」
かっこよく決めたのに何を言っているんだこの女は。
「違います!そういう意味ではなく、呼び方ですよ!私のことをユノと呼んでいるように、貴方のことをスカサハと呼んでいいでしょうか?」
「そうか、なら別にいいぞ」
「じゃあスカサハ 。貴方はどこの森からいらっしゃったのです?」
・・・やば。地名なんて知らんぞ。まずこの国の外にエルフは分布してるのか?・・・そうじゃなかったらまずいよな…考えなしに言うんじゃなかった…!
「えと…あっち…?」
「そっちは海ですよ?」
「・・・」
「あはは…あっちだったかな〜」
「ドワーフ領にエルフの住める森なんかありましたっけ?」
「・・・」
「やっぱ地図がないとわからないな!」
小脇に抱えているユノがジト目でこっちを見てくる。かわいい。いや、流石に怪しまれたか…なんとかごまかさないと…!
「ちょっと方向音痴でな〜!それにここにくる時辛いことが何度もあったからな…あまり思い出したくないんだ…」
と少し暗い雰囲気で言ってみる。こいつがいくらチョロいと言ってもこんな苦しい言い訳じゃ――
「そうでしたか!お気遣いが足らず申し訳ありません…」
やっぱチョロいわ。将来が心配になるレベルで…
「やっぱり帝国を通る時はどうしても…」
「帝国?」
「はい。貴方が着ている兵士の服が帝国のものです」
「そうだったのか」
「帝国…カザネウス帝国は4つのヒューマンの国の1つで、亜人を迫害する者が多くいます。ドワーフ領と隣接しているので交易はしているようですが、それも渋々といったようでして…この国とも仲は良くないですね…」
「なるほど。亜人を嫌う国か」
「そういえば、ずっと帝国兵の服を着ていますがどうしてなんです?」
「ああ、川辺に居たら襲われてな。武器がなかったからそいつから剥いだ」
「そうでしたか。まあ、スカサハなら大丈夫でしょうが」
「まあな…」
結構危なかったのは言わないでおこう。
そんな話をしていると生い茂った木々が少し晴れ隙間から城が見えてくる。
少し先にある丘。その上にある緑に囲まれたずっしりとした城。塔や礼拝堂、居館、城門、城壁。様々な建物が組み合わさり、巨大な山を構築している。屋根は焦げた茶色で、壁の色は白。ツタが張り付き、その白い壁の面積を減らしている。何本もの塔が立ち並び、その様相は城が侵入者を威圧しているように見える。
「おお、すごいな…」
「そうでしょう、そうでしょう!」
ユノが満足げに頷く。
「近づいてきたしここからは歩くか?」
「はい!」
ユノを下ろす。
「じゃあ行くか」
「はーい!」
かわいい。
・・・軽く舗装された道を歩く。城の正面から見て右側の丘のふもとから城門へとスロープのように斜めに道が続いている。その道に沿って歩くと城門へとたどり着く。門は開いていて、そのすぐ上には木を模した紋章。近くで見るとすごい迫力だ。
「やっと着きました!」
「結構遠かったな…」
そう言いながら城門についた詰所の窓らしきところへ行く。そこには男のエルフが椅子に座っていた。無精髭を生やし、苔色の髪の毛を後ろに束ねている。眉は太く黒い。肌は健康的で薄く小麦色に日焼けしていた。今は目が閉じられており、いびきをかいて寝ているようだ。
・・・こいつほんとにエルフか…?優雅さのかけらもないただのおっさんだぞ…耳は長いようだが…
「門番さん!起きてください!職務怠慢ですよ!」
ユノが大声で呼びかける。男は体をビクッと震わせ、目を開ける。瞳は黒色だ。
「あー?」
寝ぼけているようでやる気のない声を出す。
「門番さん!森にヒューマンの侵入者です!詳しい場所は後で言うので、まずは衛士さん達を集めてください!」
男はようやく覚醒したようで、
「ユノー様!?りょ、了解しました!」
男は急いで詰所の奥へ行き、昔の電話のような魔導具らしきものへと話し出す。そして少しするとこちらへ戻ってくる。
「いやーすんません。ちょっと寝不足で。へへ」
「はいはい。徹夜でお酒でも飲んでたんですね」
呆れたようにユノが言う。
「ところでそっちの帝国兵士の服を着た美人エルフささんは?」
「私を助けてくれた方です!すっごく強いんですよ!」
「どうも」一応会釈をしておく。
「ほお!え、じゃあ団長はどうされたんです?」
「それはかくかくしかじかで」
とユノがここまであったことを話す。
「そうでしたか。しかしキマイラが出てくるとは…」
「ええ。驚きました」
「分かりました。ではとりあえず居館に戻ってお休みください。メイド長には自分が連絡しておきます。」
「はい。よろしくお願いします。行きましょうスカサハ」
ユノはそう言うと門をくぐり、中へと入る。俺も門をくぐろうとすると、後ろから声がかかる。
「スカサハさん!」
振り向くと窓からおっさんが身を乗り出している。
「感謝する。ユノー様を助けてくれたことを」
「・・・当然のことをしたまでだ。足元に転がってきた命をただ拾い上げただけだ」背を向けながら言う。
――フッ、決まった。
「じゃあ今度、一緒に酒でもどうすか?へへ」
「後でボコボコにしてやるよ。ふざけたことを言えないようにな」
すぐにユノを追いかけ、居館とやらに向かう。途中には様々な施設があり、表に武具の並んだ大きな煙突のある建物、どこか神聖な雰囲気を纏う礼拝堂、こぢんまりとした綺麗な花の咲く庭園、いくつかの大きな塔
など現代では海外へ旅行しないと見れないようなものがたくさんあった。綺麗な翡翠の鎧を纏ったエルフたちがユノに礼をして、俺を見た後城門の方へ向かっていった。見てるだけで楽しい。満足。
建物に見とれているうちに居館に着いたようだ。高級感のある3階建の建物にたくさんの窓が付いており、屋根にも出窓がいくつかある。中央にある玄関には両開きの木製扉がはめられており、華やかな装飾が施されている。
「ただいまー」
そう言いながらユノが扉を開ける。
「おかえりなさいませ」
扉が開くと、広いエントランスホールが現れる。上には豪華なシャンデリアが吊るされ、床には赤いカーペットが敷かれている。周りには絵画や調度品、花などが飾られ、真っ直ぐに進むと真ん中に上へと伸びる階段がある。その手前、この玄関の中心には1人のエルフが頭を下げて立っていた。
ボブカットでオレンジベージュの髪を肩の少し上まで伸ばし、頭にはホワイトブリムをのせている。身長は160cmくらいで、丈の長いメイド服を着ている。
「リ〜オ〜」
リオと呼ばれた女性は頭をあげる。透き通った綺麗な肌。瞳にはトパーズの輝きが宿っている。口には微笑を湛え、気品に満ちた雰囲気を纏っている。そこにユノが抱きつきに行く。すると、優しく頭を撫でてくれる。
「スカサハ様もようこそいらっしゃいました。リオ・フローレンスと申します。以後お見知り置きを」
「あ、ああ」
(俺、場違いすぎない?恥ずかしいんだが)
館の内部に圧倒されていると、リオがユノに話しかける。
「ユノ様、浴室の用意はしております。どうぞこちらに」
「スカサハ様は個室にどうぞ。メイドに案内をさせますので」
ぱんぱんと手を叩くと黒髪エルフのメイドが使用人室らしきところから出でくる。自分の前でスカートの裾をつまみ一礼すると「どうぞこちらへ」と階段の方へ案内する。
「スカサハ!また後でね!」ユノが笑顔で言う。
「ああ」俺もまた笑顔で言う。
俺は個室へと案内された。するとメイドが
「お召し物です。これにお着替えください」
礼服のようなものを渡してくる。
「ありがとうございます」
「では少々お待ちくださいませ。ユノー様の湯浴みが終わりましたらお呼びします」
「わかりました」
「失礼いたします」
そう言うと部屋を出る。
「ふう」
一度部屋を見回す。純白のシーツを被ったベット。美しい木目のデスクと椅子。大きなクローゼット。美しく装飾された枠にはめられた鏡のある化粧台。木製の振り子時計。窓からは心地よい太陽の光が取り入れられている。
「天井の明かりは魔導具のようだな」
天井のすずらんのような照明には<灯火>の魔法がエンチャントされている。
周りは森だらけだが意外と文明は発展しているみたいだ。
「さて、着替えるか」
渡されたものは、Yシャツに黒いスラックス、黒いベスト、皮のベルト、紺色のネクタイ。・・・そして紐パンと色気のない肩ストラップとカップのついたブラジャー。
「正直慣れた」
下半身に違和感はあるがだんだんこの体に慣れてきたな。全て脱いですっぽんぽんになる。息子が家出したからか自分の体には興奮はしない。すまんな息子よ満足させられず。
とりあえずは着替えて今後のことを考えよう。
―――「なかなか似合うな」
鏡を見ながら言う。しかも体にぴったりのサイズ。あの人相当すごいな。クローゼットにあった革靴を履く。髪は…紐で後ろにまとめておくか。少し高い位置で結ぶ。
机から椅子を引き、座る。
さて、どうしたものか。人…ヒューマンの国、エルフの国、ドワーフの国。まだまだありそうだが、ヒューマンの国はややこしそうだ。エルフの国は…ユノやリオは嫌な顔をせず接してくれるが、よそ者を嫌うやつが多かったらどうすべきか。ドワーフはエルフと仲が悪いイメージがあるな。一番良さそうなのエルフの国だよな。
あとは、この体となぜここに連れてこられたのか。この体は相当強そうだし、ゲームみたいに冒険者ギルドなんてものがあったらがっぽり稼げそうだ。
そんでもってこの世界。地図が欲しいところだ。あとは歴史の資料、魔法の情報、国の情報…やっぱり情報がないと怖いよな。
そういえばユノは確実に権力者の子供だろうな。もしかしたら…
「ふぁ〜あ」
あくびが出る。眠くなってきた。少し寝るか。
インドアの俺がここまで外で走ったのは初めてだろ。
ベットにダイブする。ギシィと音がするが、マットレスが衝撃を受け止めてくれる。そしてそのまま目を閉じて思考を止めて心地よい眠りへと落ちていく―――
―――バタバタと騒がしい音で目を覚ます。
時計を見ると1時間ほど経過している。何かあったのか?扉を開け、あたりを確認する。そのまま廊下を歩き階段を降りると、ちょうどリオが使用人室から出てきた。こちらを見ると足早に近づいてくる。
「どうかしたのか?」
すると玄関で会った時とは打って変わって焦ったように言う。
「すみません。一緒に礼拝堂まで来てもらえませんか?」
顔には汗が浮かび、不安が見て取れた。
「わかった。すぐに行こう」
そして2人は礼拝堂へと走っていく。
城のイメージは森の中にあるモン・サン=ミシェル
をゴツくした感じ




