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十字架の咎  作者: 万年貧乏人
3/3

副警備長はスパゲッティを食べる

「あー!もうどうでもいいわよ!犯人がどうだとか!凶器がなんだって!!」


アーネルジルバは癇癪をおこしたかのように騒ぎ立てる。


「せ、先輩!そんな今までの努力を無下にするような言い方は…。」


ハクカが静止に入る。ここまで犯人の手がかりを探し当てようとしてきたのに、ここにきてその全てを無しにするようなことを言われてはたまったものではない。


「うるさいわね。大体私はこんな風にお淑やかに考えごとをするような質じゃないのよ!こう、怪しいやつがいたらぶっ飛ばすってな感じでいいじゃない!」


それにとアーネルジルバは続ける。


「本当に奴らの仕業だったら、こんなふうに推測するだけ無駄よ。奴らに理性はない。行き過ぎた狂気の固まりなんだから。」


ハクカは一つため息をついた。


「本当にその通りなら間髪入れずに被害が出ているはずです。しかし今回の事件はそうではありません。犯人には理性があり、何らかの意図があるはずなんです。」


先輩だってわかっているはずです。こんなことを私に言わせないでくださいと言わんばかりの口調で述べた。その言葉を聞いたアーネルジルバの体が、時が止まったかのようにピタリと止まる。ハクカの言う通りだ。彼女の言は正しい。しかしそれを後輩に言われたというのが彼女のプライドに傷を付けた。


「へぇ~~~。言うようになったじゃない。」


目が光っているような錯覚を見た。炎が揺らめいてるいるようにすら感じる。ハクカから汗が止めどめなく流れる。それは熱による汗ではない。


「せ、先輩?顔が怖いですよ?あ、え、えーと…。ご、こめんなさーい!」


癇癪の矛先を変えたアーネルジルバとその怒りをぶつけられているハクカ。この二人をよそ目にゲージカは時計を見る。先程ほどまではハクカと同様に暴れ出す彼女に動揺の色が見えたのだが、その矛先がハクカに変わったことを契機に落ち着きを取り戻したようだ。


「ふむ。どうやら根を詰めすぎたようだな。もうこのような時間だ。君達、昼食などどうかね?」


気がつけば太陽は真上に昇っていた。二人がこの場所に来た当初は太陽が出たばかりであったのだから、相当な時間ここに篭っていた事になる。


「…そうね。苛立ちもお腹が空いてるからかも。」


気分転換しましょう。とアーネルジルバは入ってきた扉の方へと歩き出した。ハクカも自分の先輩を宥めてくれたゲージカに一礼すると、小走りでその後を追って出ていく。


「やれやれ。」


そう一人心地をつくと、静かに退室した。



「で、副警備長様は私どもを何処へエスコートして下さるのかしら。」


街の通り、お昼時で激しく賑わう繁華街。人の行き来が盛んな道を3人は歩いていた。


「詰所の食堂でも良いのだが、あそこの料理はいささか健康的過ぎるからな。任務とはいえ、わざわざ遠いところから来たのだ。是非ともこの街の美味しい料理を味わって貰いたい。ということで私がオススメする店へとお連れしようと考えている。」


へぇとアーネルジルバは感心の声を漏らした。こういった気配りの良さが彼をこの地位に就かせた理由かもと内心感じていた。


「しかし凄い人ですね…。こんなに活気のある所なんて久しぶりです…。」


ハクカは本当に驚いているようだった。それもそのはず、今まで咎人の被害にあった場所は、その脅威の存在から疑心暗鬼に陥ったり、怯えるあまりに家に閉じこもっていたりと、活気など微塵も感じられない所ばかりであった。

故に疑惑とはいえ、判明していない脅威に対し、前向きでいるというのは彼女の狭い人生経験においてそう類を見ないものなのである。


(平和ボケとも言えるけどね。)


同じ感想を抱いていたアーネルジルバはそう胸の内で毒づいた。長年にわたって戦ってきた彼女からすれば、当然かつ素直な感想と取れる。つまりこの街の人達は自分が危機にあるということを自覚出来ていないのである。自分には関係ない。自分は大丈夫と無意識に言い聞かせ、保身に無関心なのだ。

しかし同時にその平和ボケというのが、どれだけ大事かということも彼女は理解していた。だからこそ心の中でのみ批判したのである。


「ここは行政区付近。いわばこの街の中心ともいえる場所だ。毎日多くの人々が行き交う故、それの伴い商業の店も多い。活気付いて見えるのはそのおかげとも言えるだろう。」


 警備詰所からも近いため、警備隊の格好をしている者も多々見受けられる。行政、治安維持組織両方が近いため、ここは安心して商いができる場所なのだろう。店先で声を出している者、テラスで食事をしている者。食べながら歩いている者、皆笑顔であった。


「本当になんでこんないい街を咎人が襲うんでしょうか…。」


 ハクカは信じられないといった口調で言葉を漏らした。彼女はアーネルジルバより先にこの街に来ていたが、知れば知るほどに絶望の化身がここを脅かしているなんて信じられないのだ。


「…さてね。連中の考えることなんて、知りたくもないわよ。」


漏らした言葉を拾い上げる。それは無意識による返答だったのかもしれない。しかしまぎれもないアーネルジルバの本音がその言には含まれていた。


「二人とも。この店だ。」


 数歩先を歩いていたゲージカから声がかかる。どうやら到着したらしい。


「ムーン…サンディエゴ?何屋さんなんですか?ここ。」


 ハクカが疑念の声を上げるがが、ゲージカはそれに答えない。少し顔を綻ばせながら「まあ、入ってみればわかる。」と言い、二人を催促した。


「ところでずっと気になっていたのだが、それが君の素なのかい?」


 席を案内されたところで唐突にゲージカが質問してきた。ちなみに二人の荷物は店の外へと置いてきている。大きい十字架と思い棺桶なんぞ盗む人はいないだろうし、たとえ盗まれてもどうとでも取り返せると判断してのことである。


「?なんのこと?」


 アーネルジルバはきょとんとした顔をしている。一体なんのことなのか、さっぱりわからないという様子であった。


「アーネルジルバ君。君に言ってるんだ。私の君への第一印象はお淑やかな女性という感じであったのに、いつの間にやら粗雑な女性という印象に様変わりしている。これはいったいどういうことなのかな。」


 そういう彼の言に嫌味はない。むしろそっちのほうが気が楽でいいと受け取れる声音であった。

それに気づいてない後輩は自分の先輩が大変失礼なことをしでかしたのでは。という焦りが出てきた。この先輩は普段こんな雰囲気なため、自分は全く違和感を感じていなかった。違和感がなかったので口調がお淑やかから乱雑になっていることに全く気づかなかったのである。


「す、すみません!先輩はいつもは空気が読める方なのですが、気を抜くとこう、普段の口調に戻るといいますか…。柄でないといいますか…。あのーそのー…。」


まったくフォローになっていなのである。むしろこの粗雑さこそがアーネルジルバ本来の姿であるとしか認識できない言い回しである。

ちなみにその横で聞いていた本人は、フォローになっていないフォローをしている後輩に、呆れ半分苛立ち半分の視線を向けていた。


「はははははは!いや、いいんだ。私も気を使われるかよりは自然体でいてくれたほうが気軽でいい。」


心底楽しそうな笑い声である。ゲージカの言葉に嘘偽りがないのは明白であった。


「そう言うあなただって。私、最初はあなたのことを強面で厳つい男だなと思っていたのよ。だけどもう、今はそんな印象なんてどこかに消えてしまったわ。」


そう返したのはアーネルジルバである。この言にも嫌味はない。堅苦しいのが苦手な彼女は厳格そうであったゲージカに苦手意識を持っていた。自分の態度に嫌な顔をしない、発言も気に止めない。むしろ気が楽だと言ってくれる。出会って短い間柄ではあるが、彼に対して好意を抱いていた。無論、男女の好意ではなく、人としての好意であるというのは言うまでもない。


「ふふ、部下の前では威厳がなくてはならないのだ。示しがつかない組織は内部から崩壊していくからな。だが、君達は私の部下ではないからな。そんな衣を纏う必要はないということさ。」


君たちに感化されたというのもあるがな。と言葉を付け加えた。なるほどね。とアーネルジルバは納得する。知れば知るほど、ゲージカという人物の人としての良さが判明していく。人の醜さを多数見てきた彼女にとって、その光は眩しすぎるほどであった。


「お待たせしましたー。カルボナーラでございます。」


そうこうしている内に注文していた料理が運ばれてきた。これがこの街で一番美味しいパスタだそうだ。ゲージカが言うには


「牧畜と小麦栽培がこの街の主産業だ。この付近は荒野ではあるが、その全てが荒れ果てているわけではない。生きている土もあったのだ。そこを耕し、作物を植え、収穫した穂を使って他の土を生き返らせる。そうしてサウスピーガは発展してきたのだ。」


その苦難のすべてがこの料理なのさと付け加えた。たしかにカルボナーラは牛、鳥、豚、小麦。この4つで出来ている。この街の全部がこの料理だと言われても納得できるだろう。少し大袈裟な気もするがとアーネルジルバは内心ほくそ笑んだ。

暫くの間、黙々と食に没頭した。アーネルジルバは食事中、食べることに集中するタイプであった。ハクカも喋りながら食べるということは、はしたないことであると考えているため、静かにパスタを口に運んでいる。ゲージカも喋る相手がこうなのだから、自然静かになる。こうしてこの3人の間にはただただ、食事の音のみが流れていった。


「さて、ここからどうするかだが…。」


どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。もう3人の皿は空っぽになっていた。そして時を見計らってゲージカが声をかけた。


「もう事件の資料はいいわ。大体分かったし。ここから行動と行きましょう。」


口の周り付いたソースを拭きながらアーネルジルバは答えた。本来ならば袖で拭うのだが、それをするとハクカがうるさく言ってくるため、所持していたハンカチで拭いている。因みに何も言わなければハンカチすら持とうとしないため、ハクカが持つように言ったということをここに明記しておこう。

話し合いをするのが飽きただけなのでは。とちゃんとハンカチで拭いていること確認したハクカはそう思考した。

ここに来る前に色々と駄々をこねていたのだ。その可能性は高かった。


「行動ですか?そうは言ってもいったいどこへ…?」


しかしそれを口に出すほどハクカは命知らずではない。藪に隠れた毒蛇を素手でつつくなど自殺行為以外の何ものでもない。なので素直な疑問を彼女にぶつけることにした。だが、


「知らないわよ。」


提案した本人の言である。何か案があったのではと考えていた2人は呆気に取られた。


「情報は聞いた。考えることは考えた。だったら次は行動よ!」


付き合いの長い相方はふふっ。と笑みをこぼした。実にこの人らしいなと妙な納得をしてしまう。この人もこの人なりに考えているはずなのに、それを直感で台無しにしてしまう。本当にこの人らしい。なら自分は、


「行きましょう先輩!とりあえず事件の現場を見て回りましょうか。私達でなければ気づかないということもあるかもしれません。」


この先輩について行こう。それが自分が出来る最大のことだ。そうハクカは考えた。

その2人を見ていたゲージカは僅かに笑みを零した。


「現場へは私が案内しよう。何度も検証に足を運んだからな。全ての場所を覚えている。」


そうして3人は新たな手掛かりを求めて歩き出したのであった。






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