歴史は嘘と史実のミルフィーユである。
遅れてごめんなさい。面倒だとかそんな理由では決して......いや、面倒でした。切腹してきます。
遂に来てしまった。目の前に聳え立つは、来たる者を拒むかの様な威圧感を放つ本庁舎。
ただ高いビルなら幾らでもある。然し、目先に存在するこの普請は違った。高さは勿論の事、土地の広さも広大で、その敷地内には種類問わず様々な建物が点在していた。
其処に足を踏み入れる。勇気が要らない訳が無い。胸を張って新人ですと言い張り、大股で図々しく歩を進められれば良いのだが…。流石に厳しい。自分にそんな烏滸がましさはないと、そう思いたい。
さて、思索を巡らすにも手はない。たかが歩行に時間を掛けている場合では無いのだ。
_行こう。先はすぐそこだ。
「トシさん!あの方がもう直ぐいらっしゃるそうですよ!」
「そうか。ならば此方も丁重に饗さなければな。」
「はい!どんな方なのでしょうか…気になって俺氏、いや私の毛根が爆ぜちゃいそうです…。」
「全く、変な喩えはやめてくださいよ恥ずかしい。」
「はいはーい。」
「お二人は本当に仲が宜しい様で結構結構。」
女性の否定する声が部屋に響き渡る。そんな賑やかな部屋に簡素な曲が鳴り響き、室内の雰囲気は180°変化した。老けた男性が立ち上がり、「どうぞ」と言う。
すると、扉は開き、一人の女性が入ってくる。顔が若干強ばっている、不安なのだろう。
「ここまで来るのは大変だったでしょう。どうぞ此方へ腰掛けて下さい。」
「あ、ありがとうございます…。」
女性が腰を下ろすと、ソファーの弾力でその華奢な身体がふわりと浮く。女性は一息つき、老けた男性の方へと視線を移す。
男性も腰掛け、口を開く。
「初めまして、涼宮小柚さんですよね。私は、情報管理部署総指揮者の俊崎秀雄と云う者です。以後お見知りおきを。」
「よ、宜しくお願いします…。ところで、情報管理部署総指揮者というのは…?」
「それは後々。で、私の横に居る二人は、右に情報管理部署次席の春山秀人、左に情報管理部署機密管理官の春山理子ですな。さて、ここからは次席の彼に任せます。私は暫し席を外しますよ。それでは。」
俊崎が去ると、秀人は「あの方は忙しいので」と一言添え、空いた席に座り込む。それを見た理子も同様に座り込む。
そして、秀人は涼宮へ問いを投げかける。
「歴史はお好きで?」
「ええ。多少は…。」
「それなら話が早い。この大都市では昔、犯罪件数が異様に増えた時期があります。」
「Messiah shockですっけ。確か、昔現れた破壊組織が復活したのが原因だと言われている…。その後の詳細が不明なので詳しくは分かりませんが…これがどうしたのでしょう?」
「実はその話には続きがありましてね。能力者ってご存知ですか?」
「能力者?何かの神話です?」
「いいえ。ならば、Messiah shock以前の時代に現れたテロ集団はどうです?」
「知ってます!破壊組織に対抗こそすれ、その生態は謎に包まれている集団で破壊組織が消えたと同時に姿をくらましたっていう!彼等の戦い方は多種多様で世界中に拠点を持っていたとか…あ、つい喋り過ぎましたね。すみません…。」
「随分とお詳しいのですね。あ、お茶をどうぞ。」
「小説の肥やしになればいいなと思いまして…。ありがとうございます。」
涼宮が茶を啜ると、秀人が淡々と話し出す。
「そう。先程のテロ集団。歴史上ではこのように‘‘悪‘‘の存在とされていますが、実際は破壊組織を殲滅する為に政府が指図し結成された暗躍者達です。」
ゴホッゴホッと涼宮が咳き込む。一般的に当たり前ともなった歴史を今、覆してしまったのだから。
「大丈夫ですか?…にわかには信じ難い話でしょうけど、これは史実です。本来は、感謝こそすれ悪の存在として疎まれる筈のない彼等です。これは、我々政府の人間の甘さと傲慢な心こそが生んだ虚偽。到底許されるべきことではない。」
「は、はあ。そうなのですか…ところでこれまでの話にはどのような意味が…?」
突然の告白に戸惑いを隠せない涼宮は、秀人の話を遮る。秀人は「本題に入りますか」と一言呟いて雄弁に語りだす。
「能力者は、そのまんまの意味で能力を扱う人間です。Messiah shock以前まで存在していた、いや、存在を認められていた者達です。」
「存在を認められていた?」
伝説や伝承の世界の話を現実に持ってこられても困る。これが普通の反応だ。涼宮は訳が分からないというように首を斜めに振る。
「今では神話のような話ですが、当時は居るのが当たり前だった。そういう事です。それがどうかしたかって思っているでしょう?…居るんですよ。」
「居る…?」
「ええ。現代に。」
「え?」と呆気にとられる涼宮に目も呉れず、秀人は淡々と話を続ける。
「今現在、Utopia内での犯罪係数は減っていますが、それでも尚Messiah shock以前より格段と多いです。そこで数十年前、ある政策が為されました。Prediction policy。言うなれば、犯罪者候補を事前に処分する…間引きですかね。」
「処分…?それは、殺害する…ということです?」
「ええ。最新技術により簡単に犯罪者候補が見つかる。事件を未然で防止するんです。他ならぬ救世主達の手によってね。」
涼宮が俯き、震えだす。
そして、
「罪を犯してない人を殺すなんて…!惨たらしいとは思わないのですか!?犯罪者候補!?Prediction policy!?いくらなんでも酷すぎる!どんなに最新技術が秀才でも、人の未来なんて…。それじゃあまるで…。」
「落ち着いてください」と涼宮を宥める理子。段々落ち着いたのか、涼宮は静かに頷き「続きをどうぞ」と告げる。それを見計らい、秀人は話を続ける。
「今回貴女を情報管理部署執務官に任命したのは、コンピューターによる選別で選ばれた為です。今は精神的にお疲れでしょうし、軽い説明をしたら休憩部屋へ案内致しますので。」
「はい…。」
涼宮小柚はまだ知らない。決断の時を。運命の歯車はまだ回り始めたばかりだ。
挿絵の小柚はこの回限定の服を着ています。まだ本人の持ち衣装なんでしょうねはい。第二話はやっと本編という感じなのでさっさと執筆したいと思ってます。思ってはいます。
それでは!失礼致しますわ!ここまで読んでくださった方々に感謝!