彼女(アンドロイド)から告白を受けてしまった俺
遥か先だと感じられていた近未来の日本――。
今やどの職場でもロボットやアンドロイドが仕事をこなすことが当たり前になってきた。
工場の現場関係はもちろんのこと、ファミリーレストランや喫茶店の店員はホテルのフロントも……。
もしかしたら、人間とロボット、或いはアンドロイドが恋人同士になるという時代が近づいているのかもしれない。
この話はもし、人間である俺がアンドロイドに告白されたら……というお話――。
◇◆◇
俺は細田 来斗。
職業はシステムエンジニアで、年齢は30歳。
外見は「派手」でもなく、「地味」でもなく、「普通」の類。
彼女いない歴は残念ながら実年齢と同じで世間では「おっさん」と言われそうな年齢だ。
ある日の日曜日。
俺はのんびりとパソコンのニュースサイトを一通り見終わり、スマートフォンの待ち受け画面を見る。
「おっ、メールがきてる。誰だろう?」
職場からだと嫌だなぁと思いながら、俺は「受信ボックス」から未読のメールをタップ。
そのメールの内容は高校時代の友人からで『彼女ができましたぁ!!!!』と一言だけ書いてあるだけだった。
それを見た俺は「……マ、マジかよ……」と呟いたあと、口をパクパクさせる。
「はぁ……ついに、あいつも彼女ができたんか……」
その一言を見ただけで俺の心に傷が付く。
俺の唯一の「彼女いない仲間」がいなくなったのがショックで、虚しくてしょうがない。
俺以外の友人は全員彼女がいるからなおさらだ。
「俺もいい加減に彼女がほしいなぁ……」
最後まで彼女が作れずに残ってしまった俺は溜め息をつきながらガックリと肩を落とす。
そんな時、俺に幸運の女神が舞い降りたのだ。
◇◆◇
あれから、数日が経ったある日のこと……。
家のインターホンが鳴り、俺は「はい」と返事をし、玄関に出る。
「こんにちは」
「こ、こんにちは!」
突然、聞き覚えのない女性の声が耳に飛び込んできた。
その女性は表情はぎこちなく、機械音のせいか声に感情がない。
「H-0245は細田 来斗さんを認識しました」
え!? なにこれ?
「H-0245」って何?
これまた女性が感情のない機械音でわけの分からないことを話してくる。
もしかして、俺は自宅でロボットかアンドロイドか分からない物体に遭遇してしまったかもしれない。
俺には一体全体どういうことだかさっぱり分からず、キョトンとしながら彼女を見るしかなかった。
◇◆◇
「こんにちは。はじめまして、細田 来斗さん。私はH-0245と申します。「H-0245」の部分は変更が可能です 」
「何回も言われていますが、細田 来斗です。こちらこそよろしくお願いします。まぁ、こんなところでしゃべってもなんだから、家に上がれ」
「ありがとうございます」
俺達は一応、自己紹介をし、ロボットだかアンドロイドだか分からない物体を家に入れる。
なぜならば、近隣住民の視線が少し気になったからという単純なものではあるが。
「ここがリビング、あそこが風呂……」
「ふんふん」
俺は「H-0245」に家の中を案内する。
彼女は適当に相槌を打ってくれていたので、少し嬉しかった。
そういえば、「H-0245」に名前をつけなければ……。
「あのー……」
「はい?」
「確か、名前って自由につけていいんだよな?」
「ええ。あなたの好きな名前にしていただいても構いません。私はアンドロイドですので、できるだけ自然な人間の女性の名前を望んでおります」
「うーん……自然な人間の女性の名前か……」
「H-0245」がついに自分でアンドロイドと告げると、俺は彼女の名前を考え始めた。
名前は自由につけていいと言われたので、適当につけてもなぁと思ったり思わなかったり。
今、気づいたけど、「H-0245」はおそらく「製造No.」とかかもしれない。
「うーん……じゃあ、佐々木 莉乃はどうだ?」
「佐々木 莉乃……佐々木 莉乃……気に入りました。ありがとうございます」
「莉乃、改めてよろしくな」
「来斗さん。こちらこそよろしくお願いします」
名前を言った途端、莉乃の奴は表情を変えず、与えられた名前を連呼しているところと俺のことを「来斗さん」と呼んでいるところが可愛いなと感じた。
「来斗さん、私はなぜあなたのところにきたか分かりますか?」
「んー…………」
突然の質問に俺は驚く。
俺には唯一、心当たりがあり、数日前に「彼女がほしい」と呟いた記憶があった。
「何日か前に彼女がほしいとか言っていませんでしたか?」
「…………ご名答だ…………」
莉乃はおそらく人工知能を備えられているらしく、俺が言ったことをすぐに当ててしまった。
こればかりは脱帽するしかない。
「ならば……」
「ならば……?」
「私が人間の女性のようにあなたの彼女になってもよろしいでしょうか?」
莉乃からの大胆な発言をしてきた。
俺達が出会ってからまだ数分くらいしか経っていないし、いくらなんでも唐突すぎるため、「あ、あのー……」と少し申し訳なさそうに彼女にこう続けた。
「莉乃、今だと答えが導き出せない。まずは「友達」から始めさせてくれないか? お前が俺の彼女になるか、ならないかは少しだけ考えさせてくれ」
俺の意見を聞いた莉乃はすぐに答えが出るものかと思っていたらしく、彼女は表情を崩さず、無表情のままテーブルに突っ伏してしまった。
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