反撃 前編
レフトの守備位置に就いた大夢。
これでわかったよ。
シュート回転とシュートの球くらい区別がつくってことが。
あの打線は本物だ。小豆島オリーブ旋風到来・・・か。
だが、あのチームは守備に難がある。
大町岳陽戦で毎回のようにランナーを出しながら、
1点しか取られなかったのは奇跡だ。
あれは大町の方が諦めムードだったからだ。
申し訳ないが、弱点をつかせて頂く。
マウンドでは俺の力不足を露呈してしまったが、
まだチームとしてできることはある。
俺は絶対諦めない。
監督の心の中。
言っちゃあなんだが、ああいう程度の選手をベンチ入りさせて俺は悪者だ。
しかし、ああ言っても自分に非があるのを素直に認めるし、
全部員の中で一番伸びる選手だと確信している。
だから使ってあげたいし、しかもこのメンバーなら逆転できる底力は充分備わっている。
1回裏、高商の先頭バッターがスリーベースを放つ。
初回の大量点を引きずるムードなど全くと言っていいほどなかった。
次のバッターは162cmの大夢だ。
相手ピッチャーが180cm台の高身長など関係なかった。
初球の甘く入ったストレートを逃さなかった。
ピッチャーの頭上を抜け二遊間の間を抜ける芸術的なセンター前ヒット。
塁上の大夢はガッツポーズ、しなかった。
よっしゃ、と言いたいところだけどここが始まりだ。
なぜなら俺が二点目のホームベースを踏むだけだから。
その仕事に徹する。
グラウンドにいる以上はタイムを競う陸上選手ではなく野球選手だから。
相手ピッチャーの癖だけでなく、フィーリングも鋭かったのか、
大夢はすかさずディレードスチールを決めた。
基本はノーサイン。しかし、意図していたかのようでもあった。
二塁上に居る大夢。
悪いけど小豆島ナインは間抜けなところがある。
だが、これは序の口だ。
打撃は隙がないが、守備はまだまだ完成していなかったな。
この冬場、西日本は異常なくらい雨多かったし、
室内練習場の改修工事でまともに練習できてなかったろう。
俺は事前にその情報を得ていた。
やられっぱなしでは弱みにつけこむしかない。
相手の心までわからないが、8点も取って安心してんじゃないか。
俺も高校生だけど、中身は「高校生らしくない」高校生だから。
見た目でごまかせても中身まではごまかせないな。
大夢は味方のタイムリーで、
三塁ベースの見事なコーナリングも相まって、
2点目のホームを踏んだ。
1回裏が終了。
6点を追う高崎商、リードを守る小豆島中央の展開となる。