2回戦6日目第3試合
バシッ!
ボール!
「おーっとこれで3球続けてボール」と実況。
大夢は左打席の先頭打者に際どいコースを突いていた。
シュート、シンカー、シュート。
決して調子が悪いわけではない。
正捕手島田ではなく、控え捕手山田勇喜のリードが悪いわけでもない。
打線が手薄にならないよう、島田は一塁を守っていた。
4球目、外角高めのストレート。
高さは入ってるが僅か1個分外にずれた。
先頭打者にフォアボールを与えた。
「ゲッツー取るぞー!」
と山田は声をかける。
次打者はバントの構え。
からのバスターだった。
三遊間抜けてヒットになった。
次打者もヒットを打ち、
無死満塁のピンチを迎える。
早くも内野陣がマウンドに集まる。
サードを守っていた恒輝は大夢の性格を知っていた。
ボーイズ時代何ヶ月かではあったが、
バッテリーを組んだことがあるからだ。
真面目さ故、自らの投球に考えすぎなのは仕方ない。
とにかく緊張をほぐす雰囲気を心掛けた。
各守備位置に散らばる時、恒輝は嫌な予感がした。
声をかけそびれた。
でもそれが彼のためにもなる、と。
4番で力があるバッターだ。
野球に100%は存在しない、しかし、
これだけのプレッシャーでは実力が半減する。
強烈な当たりはこぼしても良いから前で止めてやる。
かっこよくというより、最適なプレーを心がける。
恒輝にはそれが精一杯だった。
大夢の心の声。
この際打たれてもいい。今はやられ役で構わない。
負けようと思わない意地っ張りな奴がロクに結果を残せるとでも思うのか。
後ろにはエースの神津さん、左の小平さんと矢部さん、大河がいる。
レフトには凌平が控えている。
満塁ホーマー打たれたところでランナーなくしたところで俺がレフトに回ればいい。
・・・っていうのは逃げの発想か。
責任逃れは嫌いだ。
だから今全力で乗り切って見せる。
初球ストレート。
バッターは狙っていた。
球速表示123キロ。
甘く入った球を打った当たりはサードライナー。
恒輝は止めた、が落としてしまい、判定はフェア。
慌ててホームに送球したが、それてしまい、悪送球の間に2点を取られる。
バッターランナーも進塁し、無死2、3塁となる。
その後、ワンナウト取るも、気が付けば5点目を取られ一死1、2塁に。
まだ大きな当たりはなく、大夢が打たれ負けてるわけではない。
監督も頭を悩ませていた。
少なくとも、1回が終わるまで投げさせるつもりだった。
大夢は動揺していたのかもしれないが、うろたえる様子はなかった。
浮足立った様子はなく、むしろ堂々としていた。
解説者も不思議そうに
「あれね、普通は変えてますよ。なのに投げさせるのはなんででしょうね。選手がかわいそうですよ。」
いや、見た目はそうかもしれない。
しかし、実況も
「これは監督の期待と信頼の裏返しではないでしょうか。高商サイドは見守るしかないです。」
と必死にフォローする。
大夢が投げたこの回30球目。
まさかの9番打者にスリーランを打たれてしまった。
このタイミングで大夢は降板した。
解説者は監督の采配ミスを酷評した。
大夢は下を向かず、首をかしげず、
レフトの守備位置に就いた。
「2番レフト、坂上君。8番ピッチャー浦野君。」
8点を追う高商。
果たしてここから挽回できるか。