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熟練度カンストのチート者

 象の部族がもりもりやられていく。

 同じ武器を持ち、同じ乗り物に乗り、それを自分たちよりも上手く使いこなす相手にかかればこんなものだろう。


 連中は、手に入れたオモチャではしゃぐ悪ガキに過ぎなかったわけだ。

 だが、オモチャがとにかく強かった。

 お陰でそれを自分の力だと勘違いし、精霊を使う技も鈍って、象の部族はこうして大変な目に遭っている。


 それを横目に、俺とバララが乗り込んだバギーは、象の部族の本拠地に突入した。

 立ちふさがろうとした連中が、青のテュポーンによって文字通り粉砕されていく。


「すげえ威力だな。剣というか、鈍器みたいな得物だぞ」


 バギーの上で一閃すると、側面に寄せようとしていた敵のバギーが二台まとめて跳ね飛ばされていった。

 切断面は浅い。

 俺でなければ、振り回せないような重量バランスの悪さと、信じられないほどの切れ味の悪さ。


「これはじゃじゃ馬だな。だが、新しい戦い方が見つかりそうだ」


 青のテュポーンは、赤と比べれば癖が強い。

 弱いわけではなく、想定されている戦い方が全く違うのだ。


 ああ、いや、こうして振っていると、剣の中にもう一つ別のものが存在している感覚があるな。


「ウグワーッ!!」

「おごーっ!!」


「象の部族がどんどん吹き飛ばされていく! やはりユーマは凄いな!」


「ああ。剣の調子を試しながらだから、ちょっとのんびりモードだがな」


「のんびりモード……?」


 疾走するバギーが、集落の中を駆け回る。

 ガンガンと大剣を振り回していると、刃の中にある感触が徐々にはっきりとしてきている。

 これは……。


 一旦周辺の金属を集めて作り上げたものが鞘で、こいつを振り回した人間の癖に合わせて刃を成形するタイプの剣だと見た。

 お前、こんなん振り回せるの俺だけだろ。

 なんでこんなピーキーなの作るの。


 道理で振り回してて違和感あるはずだよ。


「クソッ、手に負えん!! 来訪者の方々をお呼びせよ!!」

「来訪者様ー!!」


「来た来た。待ってました」


「ユーマ、何かウキウキしていないか?」


「そりゃあしてるとも。象の部族の連中じゃ、あまりにも歯ごたえが無かったからな。俺は別に、慈善活動でお前らを助けているわけじゃなくて、剣を振り回して自分の存在意義を確認するためにやってるところがあるのだ」


「ふむ……? 贅沢な悩みだな」


 そうかも知れん。

 色々満たされた結果、あれっ、俺がいなくてもこの場が成立してるんじゃね? なんて思って、ぼんやりとする日々を送っていたのだ。

 あんなに戦わなかった毎日は初めてではないか。


 お陰でお腹の肉も増えてしまったしな……。


 俺たちはバギーを止めて、わあわあと逃げていく象の部族を眺めていた。

 背後では、デヴォラ率いる三戦士が大暴れ中だ。


 弛むこと無く鍛錬し続けた戦士が、専門家の手ほどきを受けて銃をぶっぱなしているのだ。

 象の部族では抗えまい。


 で、俺たちが標的にしているのは、象の部族に過ぎた力を与え、ヒャッハーに変えてしまった連中……。

 宇宙から来た移民船である。


 それ、来たぞ。

 空が割れる。

 いや、光学迷彩でずっと隠れていたんだろう。


 球体状の宇宙船が出現し、それは地上とエレベーターで繋がっていた。

 象の部族の集落は、宇宙船と直接繋がっていたのだ。


 ポンッと音を立てるように、何かが宇宙船から吐き出されてくる。

 エレベーター使わないのかよ。

 ああ、攻撃される可能性があるもんな。


 吐き出されてきたのは二つの大きなボールみたいなものだ。

 それは地面にゴリッとめり込み、変形を開始した。


 鳥脚の人形ロボットだな。

 両手から、ビームサーベルみたいなものが飛び出す。

 おほー、やる気じゃん!!


「よし、ちょっとやって来る」


「援護するぞ! この辺りの土地は足場が滑る。私に任せろ。混沌の精霊よ、地を固めよ……!」


 俺が着地すると、地面は平らなコンクリートみたいになっていた。

 おお、こりゃあありがたい。

 とても動きやすいじゃないか。


「ありがとうな!」


「なんの。ちょこちょこ手伝うからな!」


 バララはやる気満々だ。

 彼女はうちの嫁たちと比較すると、アリエルに近い。

 つまり完全なサポート系だな。


 しかもサポートが極めて地味で、しかし状況に合わせて最適な対応ができるタイプ。

 縁の下の力持ちだ。


 相手のロボットたちは、足場が急激に変化したことで一瞬戸惑ったようだ。

 停止した後、足をカンカンと地面に叩きつけた。

 環境にアジャストしているな。


「へいへい、行くぜ行くぜ」


 俺がのしのし近づいていく。

 するとロボットが反応した。

 奴らの腕から銃口が持ち上がり……って、ビームサーベル振らないのかよ!


 射撃されてくるビーム。

 エーテル中で用いられる前提なんだろう。

 大気圏ではガンガンに減衰しながら、でも火傷しそうな程度の火力を保って俺に到達する。


 これを、俺は反射した。

 いや、反射しようと思ったら、剣で防いだ段階で消滅してしまった。

 なんだかなあ。


 ロボットもすぐに、このタイプのビームは地上ではよろしくないと理解したようだ。

 ビームサーベルをギュンギュン回転させながら前進を開始する。


 おっ、関節が伸びた。

 長く伸びた腕が、ビームサーベルを俺に叩きつけてくるぞ。


 こいつをテュポーンで受けた。

 おほー、金属の刃が融ける融ける!

 ま、鞘だしな!


 そしてテュポーン内部で、またガチャガチャ動いている。

 耐熱機能を作り上げているな。

 面白い剣だなあこれ。


 別方向からもビームサーベルが襲ってくる。

 こいつを、剣を振り回して防ぐ。


 おお、融ける融ける!

 俺はスパルタでテュポーンを分からせていくぞ!


 剣のガチャガチャが激しくなった。

 大急ぎで調整をしているぞ!

 おもしろーい!


「ユーマ、大丈夫か! ええい、石つぶてよ! 風よ! 炎よ! 水よ!」


 いきなり横から、石つぶてと旋風と、炎の塊と水が飛んできて、ロボットに炸裂した。

 混乱するロボット。

 威力はそこまででもないが、いきなり四属性を同時に叩きつけられたからな。


 そんな事は普通ない。

 混沌の精霊、面白いな。

 威力は弱めだがなんでもできるのな。


 そしてバララが時間を稼いでくれたお陰で、テュポーンは完全に調整を完了したようだ。


 大剣の刃に亀裂が走る。

 そして、砕け散る。


 現れたのは、複雑な紋様が浮かび上がった片刃の大剣である。

 スッと剣が軽くなった。

 重量バランスまで、俺が扱いやすい形態になったんだな。


 こりゃあいい。

 不用意に近づいてきていたロボットが、俺が軽く振り回した一閃できれいに切断された。


 叩き切られたロボットは完全に機能停止。

 断面からは火花すら散らない。


 あまりに見事な切り口は、そこをくっつけると治るとか、斬られたことに相手は気付かないとかあるらしいけど、その次元ですらない。

 斬った瞬間に相手がなんだろうと死ぬ。

 そういう切り口だなこれは。


 残るロボットは、ビームサーベルを回転させながら俺に向かって突撃してきた。


「これはつまり、無生物でも殺せるわけか。チートだなあ」


 ロボットのビームサーベルを斬ったら、ビーム刃が消滅して二度と出現しなくなる。

 返す刃でロボットの首を飛ばしたら、そこでそいつは機能停止した。


 俺の今使っている剣技と、それ専用に調整された大剣。

 この組み合わせは、自分でもチートだと思うような強力さだった。


 剣に合わせることは多かったが、剣が俺に合わせてくれたのは初めてだろう。

 俺の剣技をダイレクトに出力できるとこうなるわけか。


 ロボットが二体倒されたので、移民船は慌ててビームみたいなものを吐き出してきた。

 そこから作り出されるのは、人造神である。

 頭がジャガーっぽい感じになっている。


 槍を持って、風のような速度で俺に襲いかかってくる。

 ああ、いや、分身した。

 ジャガーマンっぽい人造神は、風のごとくその身を幾つにも分けることができるのだ。


 だが、風を斬ったりするのは得意なのだ。


「ユーマ! 気をつけろ! そいつは象の部族に逆らったという者たちを一瞬で……」


「大丈夫だ、慣れてる」


 青のテュポーンを、振り抜いた。

 ちょっと飛び上がりながらの一閃である。


 俺を取り巻くように繰り出された槍を、ジャガーマンを、刃が切り裂いていく。

 切断されたジャガーマンは消滅する。

 ここにバララが風を送り込み、俺を回転させる。


 刃が螺旋を描き、全ての人造神は、俺の刃の通り道になった。


 言うなれば、俺が放ったのはただの一撃のみだ。

 それで、分身したジャガーマンは残らずに消滅した。


 後に立ち尽くすのは、その輪郭を薄れさせつつあるジャガーマン。

 彼は目を見開きながら俺に振り返り、そのまま、ディスプレイの電源が切れたように消えた。


 上空にある移民船が、ブルブルブルっと震えると、そのまま全ての光が消える。

 人造神を破壊されると、船は機能停止しちゃうんだよなー。


 エレベーターから、ぶるぶる震えながら未来ルックの人間が出てきて、両手を上げて膝を突いた。


「こ、降参だ!! 頼む、殺さないでくれえ!!」


 俺に対する百点満点の対応である。

 心の底からごめんなさいしてくる相手は斬らないからね。


「ま、まさか神機顕現を生身で破る人間がいるなんて……。一機で文明すら滅ぼす力を持つヤオロ星系最強の兵器なのに……」


「うむ、これでなんか五体目だからな。神殺しは専門家みたいなもんだ」


「ひいー」


「とりあえず、お前の扱いは鹿の部族に任せることにする。色々な、血は血で贖うみたいな文化があるからな……」


「ひいー」


 かくして、象の部族は壊滅した。

 鹿の部族は雪辱を果たし、俺はこの大陸に入り込んだ移民船の一つを無力化したのである。


 しかしまあ、あの移民船の管理者らしき奴を見ていると、僧侶はマジで傑物だったんだな。

 人造神をぶっ倒されてなお、俺と交渉して、現地の支配も継続できて、灰王の軍と共闘体制を作り上げるんだから。


 あの憎めない知り合いの事を再評価しつつ、俺はバララのもとに戻っていくのだった。

 ちなみに、大喜びのバララがバギーから飛び出してきたので、俺は押しつぶされてしまったのである。

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