熟練度カンストの上陸者再び
暗黒大陸側からの刺客が、波状攻撃のように襲ってきた。
これを撃退していたら、途中でふいと襲撃が止まったのだった。
「なんだなんだ」
「ユーマさんの強さを理解したのでしょうね。もう。テュポーンはまだ一つの形態しか披露していないというのに」
「長剣モードがここでは使いやすかったからな。やっぱりどこから敵が来るか分からない時はリーチだよな」
テュポーンをブンッと振って、通常モードの三色形態に戻す。
付属のメカメカしい鞘に収めると、重量感がフッと消えた。
「ふしぎ」
「不思議でしょう? マリア様の技術で、鞘自体にバランサーが内蔵されているのですわ。これによって腰に佩いた状態で、装着者の重心とマッチして負担感を与えませんの」
「凄いなあ……。バルゴーンが超自然的な力でやってたことを、科学的に再現してるのかこれ」
俺とデヴォラが大いに盛り上がる。
彼女と俺は、科学関係の話が通じるので、こういうトークでよく話し込むのである。
まさか彼女が俺の嫁の一人になるとは、ネフリティスで初めて会った時は想像もできなかった。
だが、あれだ。
世界中に降り立った移民船団との戦いの時、彼女との仲が急接近。
全てが終わった後、彼女は突然灰王の森にやって来た。
そしてエルド教の大使だと言って居着いたのである。
科学関係の話が合うのは、早苗さんもなんだけど、彼女は常識人側なのであんまり厨二トークとかはできないんだよな。
そこのところ、デヴォラは俺と妙にウマが合った。
金が掛からない話になると、デヴォラはエルド教のSF武器を、ロマン基準で語るのである。
ということでお互いなんか好きになったのでいたした……!
あれほど奥手だった俺がまさかこんなことになるとはなあ。
「おほん! ごほん!」
「あっ、ローザが間に割り込んできた!」
「貴様ら、何を見せつけているのだ。私のケラミス武器だって凄いのだぞ。私がいればどこでも生成できて、何よりも軽いし形状も三つどころではない。自由自在なのだ!」
「対抗意識だ!」
どうやら、俺とデヴォラがマシン武器が素晴らしいと言うトークをしていたのがカチンと来たようだ。
「確かにケラミスの武器もいいよなあ。セラミック製だから軽量だし、錆びたりしないしなあ。日常使いを考えるとこれほど扱いやすい武器はない」
「そうであろうそうであろう」
ふふん、と鼻を鳴らして胸をそらすローザ。
とっても自慢げだ。
「つまり、日用品ということですわよねそれ?」
「なんだと!?」
「テュポーンはワンオフの、ユーマさん専用の逸品ですわ! 誰でも使えるようなものとは違いますわねえ……」
「誰でも使えるからこそ、ユーマもストレスなく扱えるということが分からんか! ワンオフなどただの自己満足!」
「そ、それは言ってはならないことですわー!」
おお、デヴォラとローザのバトルが勃発した!
二人がテュポーンとケラミス剣についての愛とこだわりを語り合っている。
聞いていてとても楽しい。
「ユーマさん、止めなくていいんですか?」
「いいんだ。二人とも根底では割と似てるし、どっかで妥結点を見つけて手打ちになるから。元指導者だったんだぞ彼女ら」
「そう言えばそうですよねえ」
俺たちはのんびり静観することにした。
船員たちも、気にせず仕事を再開している。
ジャイアント・ユーマ号はそのまま、暗黒大陸への航路を突き進むのだった。
「恐らく……。海で行動できるタイプの戦士が少ないのだろうな」
ローザが予測する。
「あやつらは、混沌の精霊と来訪者の武器を使っているであろう」
ローザはちょくちょく、移民船団のことを来訪者と呼ぶ。
「それに加えて、本来人間が行わぬ水中から船上への攻撃を仕掛ける戦闘だ。これをこなせる者が多いとは思えんからな」
「確かに」
「貴様みたいなのは貴様しかいないからいいのだ。世界中がユーマだったら今頃何もかも滅んでおる」
「仰るとおり」
ぐうの音も出ない。
つまり、思いの外戦闘員を削られたので、向こうは慌てて手を引いたということか。
その後、三日ほど旅をしただろうか。
襲撃はぱったりと無くなった。
今回の旅には、海の妖精族も協力してくれている。
彼らからの報告では、暗黒大陸勢はこちらを監視してはいるものの、手出しは控えているようだったという。
不気味なほど何も無いまま、暗黒大陸が見えてきた。
連中はこちらが上陸するのも把握しているだろう。
大群による迎撃がありそうな気がするが……。
「暗黒大陸の連中は、空を飛んで攻撃とかしてこないのかな」
「いそうではありますわね。少なくとも、海から攻撃してきた者たちが、他の勢力と連携していれば……ですけれど」
「連携していないと?」
「ええ。その可能性があるのではと思いますわ」
デヴォラの予測に、頷くのはローザだ。
「明らかに使う精霊と武器の質が異なっていたからな。ユーマが地上でやり合った連中は、我々とそう違わない者たちだった。人であるが、獣人のような性質を持っていたような」
「あー、確かに。わざと獣人っぽい感じの動きをしてた感じだな。それに対して、海から攻撃してきた連中はなんか全然違った。すげえ人間離れしてるって言うかな」
「案外、陸と海、そしているなら空で、勢力が違うのかも知れんな。だから海の者たちは手勢を減らすことを恐れて、手出しを止めたのではないか?」
色々な予測はつく。
ともかく、上陸、上陸だ。
ジャイアント・ユーマ号は暗黒大陸に到着。
周辺が浅瀬になっているので、小舟を出して上陸だな。
船の上には、俺とローザとアリエルとデヴォラ。
メインメンバーだけが乗っているな。
船員が乗ってこっちに来て、襲われたら目も当てられないからな。
船の方は水の妖精たちの協力を得て、どうにか自衛してもらう。
パスが開いたら帰っていいよ、という話をしている。
「おお、暑いなあ」
小舟から降りて砂浜を踏みしめる。
第一印象は強い日差しだった。
ネフリティスの南側に近いな。
俺が砂浜をぽんぽん踏んだりジャンプしたりしているとだ。
ちょっと離れたところに茂みがあって、これを見てアリエルが「アッ」と叫んだ。
「あれ、森になりませんかね? 森扱いになりますかね? ちょっと行ってきます!」
「あ、一人だと危ない! デヴォラ、護衛してやってくれ」
「はいはい。お待ちなさいなー」
銃を担いだデヴォラが、駆け出したアリエルの後を追っていく。
「さて、俺たちは砂浜の散策と行こうじゃないか」
「うむ。だがしかし待っていろ。ふんっ」
ローザが砂浜に手をかざす。
「土の精霊はいるな。混沌の精霊の大地だからと言って、他の精霊がいないわけではないのだな。それっ」
ローザが砂の中から、ケラミス製の装備を呼び出す。
これは、ケラミスのフードか?
「日除けだ。日差しに直接晒されていれば、体力を失うぞ。ほれ、貴様のぶんだ」
「ありがたい」
ってことで、二人でフードを被って砂浜を歩き回るのである。
雲一つ無い青空。
ここは俺たちがいた地方とは遠く離れているから、空に開いているはずのスカイポケットは全く見えない。
俺たちの世界の大騒ぎなんか、暗黒大陸には届いていないんだろうな。
砂浜からすぐが小高い丘になっている。
トコトコと上がっていくと、足元が砂からパラパラとした質感の土に変わってきた。
「乾いた土と言う感じだな」
「ああ。砂浜もだが、あちこちに粘土質があって、ケラミスを作りやすくて助かる」
「どこでも作れるというわけじゃなかったのか」
「どこでも作れるぞ? だが、手間暇が違うのだ。……おや、ユーマ。向こうに村があるぞ。暗黒大陸の漁村というやつだな」
「そんなものが……!」
こっちにも、一般人というのは住んでいるだろうしな。
どれ、訪ねていってみるとしよう。
「こんにちはー」
王となり、国みたいなのも作り、妻も得て子どももたくさんいる俺だ。
地球にいた頃よりも、コミュ力が上がっているのだ。
「あらこんにちは……あっ、見たことがない人!!」
魚を干していたおばちゃんが、俺を見てハッとした。
日焼けしているというか、この熱い地方で生きているおかげで、肌にメラニンが多いらしい人種だ。
赤茶色の肌をしているというかな。
「海を超えてやって来たのだ」
「そ、そう……」
おばちゃんは明らかに、俺とローザを警戒している。
すぐに、村人たちが集まってきた。
手には、銛を持っている。
「同質の者だけが暮らすコミュニティに、私たちのような外国人が訪れれば、この反応は普通と言えような」
「なるほど」
ローザの分析がありがたい。
「で、どう出る、灰王殿?」
「俺任せなの?」
「私のような、あちらの常識を持った者ではむしろ話がこじれてしまう可能性がある。ならば、端から常識を持ち合わぬ貴様が対応する方が良かろう」
「なるほど」
常識を持ち合わせないとはこれはひどい。
だが的確な批評という気もする。
「じゃあ俺が。俺たちは外国から来たのだが、それはこの暗黒大陸の連中に侵略されたので侵略を仕返しに来たのだ」
「な、なんだってー!!」
村人たちがざわざわする。
「こいつ危ないんじゃないか」
「やっちまえ」
おっ、血気盛んだぞ。
というか細かいことを考えない人々なのかも知れんな。
「ローザ、ケラミスの刃を潰した剣」
「もう作ってある」
「さっすが」
ということで、襲いかかってきた村人たちを相手にする。
所詮素人なので、銛を受け流し、受け流し、受け流し受け流し受け流す。
彼らを一箇所に集めて、剣でお尻を叩いてバランスを崩したら……。
「ウグワー!?」
銛を持った連中が一斉に倒れた。
ドミノ倒しの要領である。
「ひいー!」
残る村人たちが悲鳴をあげた。
「俺は今は平和主義者なんでな。怪我はさせないでおいた。色々お話を聞かせてほしいのだが?」
俺が剣を肩にポンポンやってみせると、村人たちは赤茶色の肌で血の気が引いたので、なんか青紫色の顔になって頷くのだった。




