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熟練度カンストの迎撃者2

 本陣到着までちょっと歩いたのだが、ここでざっと振り返ってみた。


 今、俺の奥さんたちはたくさんいる。

 なんと十人だ!!


 第一夫人がリュカ。赤ちゃんはルナ。

 未来の風の巫女だな。


 第二夫人はサマラ。赤ちゃんはシェイラ。

 未来の火の巫女だな。


 第三夫人はアンブロシア。赤ちゃんはアンナ。

 未来の水の巫女だな。


 第四夫人がローザ。今ここにいるね。赤ちゃんはロリー。

 この子は別に才能があるわけではなく、普通。


 第五夫人がアリエル。赤ちゃんはユート。

 現在唯一の男の子だ。泣き虫だな。


 第六夫人が竜胆。赤ちゃんは菖蒲と牡丹。

 双子だぞ。


 第七夫人はヴァレーリア。赤ちゃんはヴェロニカ。

 ヴァレーリアの魔法剣は鍛錬の末に身に着けたものだが、どうやらヴェロニカには魔法剣の素養みたいなものが見えるようだ。

 今はグラナート帝国に赤ちゃんと一緒に里帰りしている。


 第八夫人が亜由美ちゃん。赤ちゃんはまろんちゃん。

 すっげえおっぱい飲んでめちゃくちゃうんこするんだ。

 亜由美ちゃんの両親がめちゃくちゃ可愛がってる。この両親は、他の嫁たちの子育てにも協力してくれて、大変助かっているぞ。

 灰王の軍では、その功労から異種族たちからも一目置かれているのだ。


 第九夫人は深山早苗さん。赤ちゃんは風花。

 普通の赤ちゃんだ。ザ・普通。


 第十夫人がデヴォラ。赤ちゃんはデルフィニア。

 今はネフリティス王国に母子ともにいるな。

 パスを通って三日に一度くらいのペースで遊びに来る。


 いやあ……。

 すると俺、十一人子どもがいることになるのか。

 よく頑張ったなあ……。

 

 俺に家族を養う甲斐性など無い。

 だが、ここまで築き上げてきた灰王の軍と、亜人たち、そして各国との同盟関係がある。

 子どもたちが大人になるまでは、楽に暮らさせてやれるだろう。


 大人としての義務は果たした。

 というかリアルで俺ができることはもう無い。


 なので、こうしてディアマンテの軍勢に加勢するなんてことをやっているわけだ。


「お、お、お前はー!!」


 俺を指差したのは、どこかで見たことがある男だった。

 太っちょでヒゲの男……。


「あっ! お前、森に攻めてきた時のディアマンテの将軍かあ! 処刑されずに生きていたんだなあ……」


「う、うむ。あの後、フランチェスコ様がわしを助けてくれてな……。というか、なんで灰王がここにいるの……」


 ヒゲの将軍が泣きそうな声を出した。

 一気に、ディアマンテ軍の本陣が物凄い緊張状態に包まれる。


 気持ちは分かる。

 かつてやり合った、人類の敵である異種族。

 その総大将が俺だからな。


「ひええええ、ほ、本当かよう」


 俺が連れてきた兵士が、やっぱり泣きそうな声になった。

 ディアマンテ軍の一同も、一斉に腰砕けになっている。


「なんだなんだお前たち。俺は今回はお前たちの敵じゃない。謎の敵と戦っていると聞いて、加勢に来たんだ。灰王の森がディアマンテにある以上、お前らが負けたらうちに被害が来るからな」


「つ……つまり、味方ということで?」


 ヒゲの将軍が恐る恐る聞いてきたので、俺は頷いた。


「そう。俺は味方」


「良かったぁ」


 ヘナヘナとなる将軍。

 ディアマンテ軍もへなへなになる。


「随分情けないことになっているな。これがディアマンテ軍か?」


 ローザが唖然とした。


「見たところ、ラグナ教の手が入っていないからな。本来のこいつらの士気なんてこんなものなんだろう。この様子では、上陸してきた謎の敵に押されまくっているんだろう」


「そ、そんなことはない」


 将軍は強がって見せる。

 だが、俺の目は、彼の前に展開された戦場図を見ている。


 この赤い石が敵で、白い石が味方か。

 押されまくって包囲されかかってるじゃないか。


「負けてるだろ。怒らないから正直に言いなさい」


「ま、負けてます。わしの命も危ういです」


「正直でよろしい」


 危機的な状況を嘘で取り繕うほど、バカな事はない。

 ヒゲの将軍がその辺り、まあまあちゃんとしていてよかった。


「ところで将軍、名前は? ここから共同戦線を張る以上、いつまでもヒゲの将軍ではいけないだろ」


「ステファーノだ。灰王、頼む、手を貸してくれえ」


「よしきた。昔の俺ならおっさんに頼まれてもやる気はしなかっただろうが、俺自身がおっさんに片足を突っ込んでいるからな。明日は我が身だ」


 俺は戦陣を抜け、戦場へと歩き出す。


「灰王ユーマが加勢してくれるぞ!! 道を空けろ! 戦場へ案内して差し上げろー!!」


 ステファーノ将軍が叫んだ。

 パパラパー!とラッパが鳴る。

 なかなか燃えてくるじゃないか。


「じゃあ、出陣だ。灰王ユーマ、出るぞ!!」


 一度言ってみたかったんだ。


「灰王様! 俺も!」


「灰王様! 俺も!」


「ついてこい、ゴメル、ギヌル!!」


「「おう!!」」


 ゴブリンキング二名を従えて、俺は戦場に飛び込んでいった。





 謎の敵、と呼ばれていた彼らは、南方の暗黒大陸からやって来た。

 空から降り来る者たちと、彼らの長は盟約を結ぶ。

 互いの持つ力を合わせ、この世界に覇を唱えんと。


 彼らは混沌の精霊を奉じる、混沌の民。

 かつては広大な世界を支配していた者たちだ。


 だが、敵対していた精霊女王は外なる世界より神々を呼び込んだ。

 機械の神である。


 機械神は人々に知恵と技を授け、混沌の民に抗う事を可能にした。

 逆転が始まり、混沌の民は暗黒大陸まで後退していく。


 それは屈辱の歴史。

 混沌の精霊の力を用いてなお、機械神の技には届かなかった。


 だがしかし。

 彼らにもまた、機械の神が降り立ったのである。


 それは、最後の移民船と名乗り、暗黒大陸の大地に眷属を住まわせる替わりに、彼らに力をもたらした。

 混沌の民は、その力をおのが物とし、ついに反抗を開始したのである。



「行け、行け行け行け! 機械神のしもべどもは腰砕けだ! 我らの偉大なる力を見せてやれ! 押し潰せ! 世界の全ては混沌の民のものだ!」


 豹の毛皮を纏った長身の男が叫ぶ。

 彼の言葉に応じて、戦場を駆けるの戦士たち。


 豹の部族と呼ばれる彼らは、混沌の力を色濃く受け継ぐ言わばエリート。

 手にするのは短剣。

 だがそれは……。


「うおおお! 蛮族めえ!」


 迎撃してくるディアマンテの兵士。

 得物は槍。

 短剣とのリーチは圧倒的。


 故に、豹の部族の攻撃は届かない……はずである。


「混沌の……爪よ!!」


 短剣の尖端から、黒い奔流が生まれた。

 それが槍を遡り……「う、うわーっ!?」槍を手にした兵士を巻き込み、ズタズタに引き裂く。


 次の瞬間には、豹の部族の戦士は、兵士の背後まで駆け抜けていた。


 さらに、彼を目掛けて射掛けられる矢。

 これを、戦士は懐から取り出したリングで対応する。


 一見するとチャクラム。

 だがそれは、戦士が投擲すると同時に、金属部に埋め込まれた半透明の樹脂パーツを点滅させた。

 刃が展開し、回転を始める。


 空飛ぶ回転ノコギリである。

 これが矢を巻き込んで切断し、そのまま射手たちへと飛び込んでいく。


「こ、こっちに来る!」


「なんだあれはー!!」


「ウグワーッ!?」


 血と肉片が飛び散る。

 一方的だ。

 

 ディアマンテ軍の攻撃は通用せず、混沌の民の攻撃は複数の兵士を巻き込んで殺していく。


「なんなんだ……なんなんだお前らあああ」


 兵士が叫ぶのを、豹の戦士は冷徹な目で見下ろした。


「弱き民よ。命乞いは聞かん」


 短剣が振り下ろされ、兵士は動かなくなった。


「はははは!! なあ若長! この地の民は弱いな! 弱いなあ! 機械神の力を使うものはまだ出てきてはおらんが、それも大したことは無いだろう!」


 戦士が振り返り、号令を発していた長身の男に呼びかけた。


「うむ。混沌と、我らに味方する機械神。この二つの力に勝てる者などおらぬだろう。今度こそ、父祖が願った新天地の獲得が成る。だがムガラ、慢心するなよ。我らの戦いはまだ、局地的な勝利に過ぎぬからな」


「若長は心配しすぎだ。見ろ、戦場を。一方的じゃないか。圧倒的じゃないか」


 ムガラと呼ばれた青年が笑う。

 日差しの元、混沌の民に共通する褐色の肌と、真っ白な歯が映える。


「なにっ、圧倒的じゃないか我が軍は、とな」


 そこに挟まれる無粋な声。


「誰だ!?」


 振り返るムガラ。

 彼の眼前で、豹の部族の戦士たちが、新たなる敵と刃を交わしている。


 あらかた戦場にいた敵兵は打ち倒したはずなのだが、新手か。


「それはいかん。死亡フラグだぞ」


「ウグワーッ!!」


 豹の部族の戦士が一人、武器を腕ごと断ち切られてのけぞった。

 伸びた混沌の爪は、その中ほどに剣を突き立てられ、そのままへし折られる。


「ローザ、剣のお替りだ」


「雑に使うなよ。ケラミスの剣も私の魔力を使っているのだからな」


「ほいほい」


 真っ白な剣が宙を舞い。これをキャッチした何者かが動く。

 その度に……。


「ぬおーっ!!」


「チャクラム・ソーが返された!?」


「当たらん! 攻撃が当たらん!!」


 悲鳴のような戦士たちの声が響く。

 一人、また一人。

 豹の戦士が打ち倒され……。


「やはり、バルゴーンではないと殺傷力が低いな」


「うむ、ケラミスの形状について、研究しておく」


 そこに立っていたのは、灰色のトゲ付き鎧を纏った男だった。

 大して背が高いわけではなく、顔つきにも覇気は無い。

 そして、その鎧には傷もまた全く無かった。


 即ち、豹の戦士の攻撃は一つとしてこの男に届かなかったことを意味している。


「何者だ、お前は」


「戦士ユーマ……いや、灰王ユーマだ」


「知らんな……! 死ね!」


 ムガラが仕掛ける。

 抜き打ちの、チャクラム・ソーである。


 回転刃を搭載した、機械じかけのチャクラム。

 だがこれを、ユーマと名乗った男は平然と見つめ、


「タイミングはもう掴んだ」


 なんと、回転する刃を指先でピタリと挟み止めてしまった。

 刃が動かず、チャクラムのリング部分だけが高速回転をする。


「馬鹿な!?」


「こんなものでも刃物だからな。投げナイフに見立てればそう難しくはない。ほれ、返すぞ」


 投擲されてくるチャクラム・ソー。


「ぬうおおお!!」


 ムガラは混沌の爪を展開する。

 チャクラム・ソーを撃ち落とし、断ち割った。


「避けろ、ムガラ!!」


 若長が叫ぶ。


「なっ!?」


 目の前に、その男がいた。

 彼が握る、白い剣が迫る。


「ぐうおああああ!!」


 ムガラは吠えた。

 彼の全身から、モヤのようなものが吹き出す。

 これは豹の形をとって彼を包み込む……。


「遅いぞ」


 その前に、刃がムガラの首を撥ねた。


「ちょっと切っ先に抵抗があったな。これは豹の力みたいなのを纏ってパワーアップするか、獣化するパターンだな? 至近距離なら全く脅威ではない」


 ぶつぶつと呟きながら、男は刃に付いた血を払う。

 その、覇気がない目に見つめられた途端、若長の背筋を凄まじい悪寒が走った。


「撤退だ! 退け、退けーっ!! この男に関わってはならん! 退けーっ!!」


「判断が早い!」


 男が嬉しそうな顔になった。

 そして笑いながら駆け寄ってくる。


 それは、死そのものにしか見えない。


「“豹の力よ!!”」


 若長は即座に、全身にそれを纏った。

 若長の姿が巨大な豹になり、海に向かって身を躍らせる。


 すると何もなかったはずの海上に、船が姿を現した。

 豹は船を駆け上がり、舳先に飛び乗る。


「帰還する! 退け! 退け!」


「ここで俺に向かって口上とかしない辺り、賢いなあ。ほれっ」


 ユーマは豹に向かって、ケラミス製のナイフを投げつけた。

 これは身を翻した豹の背中に突き刺さるが、致命傷にはならない。


 少しでもユーマへの何かを言っていれば、それは豹の頭部を刺し貫いていたことだろう。


「若長!」


「若長!」


「俺のことはいい! 逃げるぞ! あれはダメだ! 少なくとも、今の装備で相手ができる存在ではない!」


 船は混沌の精霊の力を得て、風がない中を加速し始める。


「追ってくるがいい。我らの暗黒大陸でお前を討ってやる……!」






「行ってしまった」


 俺は遠ざかる船を見つめた。

 ケラミスの剣オンリーでの戦いだが、全然いけると証明できたな。


「貴様、水の上も剣で走れるだろうに、追わぬのか?」


「ケラミスはまた感覚が違うからなあ。沈んだら溺れちゃうし」


「そうか。まあそれが良かろうな。世界を救った灰王が、海で溺れて死んだとあっては格好がつかぬからな」


「うむ……苦しそうだしなあ。おっ、ギヌルとゴメルも戻ってきたな。なにっ、チャクラムをたくさん拾った? いいぞいいぞ」


 ゴブリンキングたちが、嬉しそうにたくさんの輪っかを抱えて走ってくる。

 ひとまずは、これで今回の作業は終わりのようだ。


 灰王の森に帰るとしよう。

次回から、週一回更新になります。

更新日は、水曜ないしは木曜日になります。

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[気になる点] >ところで将軍 ガービーwww 作者さんfallout4やってるんだろうか?
[良い点] 嫁さん‘sのまとめ、ありがとうございます! [気になる点] ロリーちゃん、精霊使いの才能普通だったのね 第二部の最終話ですが、シャドウジャックは人を見て使われる人を選ぶのか、ローザにお目付…
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