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Fake of second  作者: castella
6/6

概念保有者

エタったと思った?残念美少女でした。


冷たい。

手足の先から生命(ねつ)が喪われていく。


ここは何処なんだろう。暗い。暗いよ。

暗くて怖い。

私が私でいられなくなる。

遠くで誰かが話している。いや、すぐ近くかもしれない。

けれど、もうそんなことも分からない。

怖い、冷たくなる。

もう私は————。










「よく眠れた?」


そんな声が近くから聞こえた。

目を開けるとそこには見知らぬ女が立っていた。


「ああ、最悪」


オレがそう言うと、女はならよかった、と肩口まで伸びた髪を揺らして笑っていた。女は白衣を着ていた。その下は先輩と同じ式典奏者の制服だ。辺りを見回すと真っ白なベッドが幾つも並んで置かれている。


「オレはあれから」


そう、たしか聖典とやらの契約の途中で意識が朦朧として。


「あなたは奏が此処に運んできたわ。その時は既に意識を失ってたから、私のことも知らないでしょうけど」


先輩が!? 、そうだ思い出した。では、先輩は何処に?


「奏は、外にいるよ。例の『血損』探しに出かけてる」


先輩は今街で起こってる事件の元凶である、血損の異名を持つシャルドネートと呼ばれる元式典奏者を探しに回っている。


その事実を聞いてオレは微かな疑問を覚えた。だが、何が原因なのか判然としない。



「で、キミはアオって名前でいいんだよね」


ベッドの横に立つ女はそう聞いてきた。どうやらオレの名前は知ってるらしい。


「いきなり呼び捨てかよ」


一方的にオレの名前だけ知られてるのは感じが悪い。オレは知らずに女に当てつけのように反応していた。


「え、まさかアオくんってくん付けで読んで欲しかったわけ?」


女はオレの言葉に、軽蔑するかのような目線と声で返答してきた。


「いや、別に。オレとしては呼び捨ての方が性に合ってる。で、お前は誰だ」


「へぇ、君付けは自ら志願した訳じゃないのね。私はボクっ娘とかそういう系のが死ぬ程嫌いだから良かった。それと随分無礼な奴だな。私に面倒見させておいて、お前は誰だと来るか。ま、いいけど。次は殺す。私はレイネ。勿論、呼び捨てでいいよ」


レイネは嗜虐的な表情で笑っている。随分とまくし立てるように言った言葉の中に、物騒なワードがあったような気もするが。まぁいいが、値踏みするような視線と綺麗に整った顔立ちは中性的で、そういう趣味の人にはさぞ受けが良かろう。



「分かったよ。レイネちゃん」

「おい、アオ、今なんて言ったの」


怒気の孕んだ声。レイネの表情は途端に暗くなった。


「あれ、聞こえなかったか。レイネちゃんって言ったんだよ。レイネちゃん」


「後で殺す」


レイネは凍てつくような視線でオレの目を睨みつけた。

拳は怒りを表すかのように固く握り閉められていた。というかなんか血が流れてるのは気の所為か。


「あはは、冗談だよ勿論。当たり前だよ」


「いや、やっぱり今死ね」


凍えるように冷たい声と共にオレの腹に固く握り締められた拳が突き刺さった。


「グハァッ」


腹に重い一撃が見舞われる。

あまりの圧迫感に意識が、遠のいていく。


そういえば、今際の際に気が付いたことがある。

オレは他人をからかうのが嫌いじゃないみたいだ……。














「よく眠れた?」


そんな声が近くから聞こえた。

目を開けるとそこには、見知らぬ女が立っていた。


「そんなわけあるか」


見知らぬ女は突如叫びだした。怖い。オレは素直にそう思っていた。


「アオくん起きた?体の方は大丈夫?」


見知らぬ女の隣にはもう一人、先輩がいた。


「ああ、大丈夫。特に何の問題もない」


そう言って体を起こそうとしたら、


「ぐっ、」


思わず呻き声が漏れた。


「本当に大丈夫なの?」


先輩は心配そうにオレの背中を支えてきた。


「いや、気にしないでいいよ。なんかお腹が痛くて。ほんとなんでだろ」


オレはお腹を触ってみた。触ったそばから鈍い痛みがする。意識が落ちる前にお腹に何か当たったのか。


オレが原因が何なのか考えていると隣で先輩が何やら一人でぶつぶつと言っていた。


「腹痛は契約の際にアオくんの保有する概念が聖典の因子を拒絶して起こったのかしら。でも、聞いたことがない症状ね」


すると、


「って、いつまで私を無視する気なの」


見知らぬ女が突如叫び出していた。怖い。オレは素直にそう思っていた。


「アオ貴様、いい加減にしないともう一回眠りからの目覚めを繰り返させるぞ」


「ちょっとレイネどうしたのよ。なんか怒ってるみたいだけど。そうだレイネから見てこの症状に思い当たる節はある?恐らくはアオくんもあなたと同じ概念保有者であると思うんだけど」


先輩はレイネと呼ばれる女と話している。というか今更だがどちらかというと少女って感じだ。


「先輩そちらの御仁は?」



「まだ、紹介していなかったわね。この子は如月(キサラギ)レイネ。あなたを看病してくれてた子よ」


先輩はオレの質問にそう答えた。たしかにオレの記憶にも朧げだが手厚い看護を見舞ってくれたような覚えがある。


「そうか。ありがとうレイネちゃん」


オレは礼を言った。


「なぁ奏」

「どうしたのレイネ。さっきからなんか様子が変だけど」

「こいつ殺していいか?」


レイネの目は据わっている。声のトーンも明らかに低い。部屋の温度が下がっていく錯覚を覚える。


「って、どうしたのよレイネ!?ダメに決まってるでしょ。怪我人なのよ、って怪我人じゃなくてもダメでしょ」

「じゃあ代わりに奏が殺されてくれるの」


レイネは薄暗い闇のような声で呟く。この世のモノを蔑むような目が奏を捉える。


「貴女、まさか」


先輩は緊迫した表情を浮かべていた。

先輩が微かに動揺している!?先輩はレイネの言葉を聞いて何かを予想したのか。

オレは先輩の姿勢が変わったのが分かった。重心が僅かに下がっている。何時でも動けるようなそんな状態に。


「嫌だなぁ、奏の想像してるような事はないよ。私って信用ないかなぁ」


直後、レイネの様子は先程と一変して砕けた印象に変わっていた。

初めてレイネと会った時と同じ感じに。


「私をからかうのはやめなさいよね。それと、御免なさい。私は別に貴女ことを、」

「いいよ、謝んなくて。後、そいつの腹痛は契約とかとは別物だから」

「別物?どうしてそう分かるの」

「それは私がやったから」

「やった? 何を?」


先輩は思い当たる節がないようで聞き返す。


「殴った。腹を」


レイネはそれに簡潔に答えを述べた。


「はい?」


先輩は言葉を失っていた。


「アオからもなんか言いなさいよ」


状況が読めない先輩を見かねたのか、レイネはオレに答えを言わせたいようだ。レイネの視線がオレを捉える。口の端が釣りあがっているのは釈だが、流石にこのままって訳にもいかないか。


「実はレイネに会うのは二回目なんだ」


オレは素直にそう告白した。


「二回目?アオくんってレイネと知り合いだったの。友達の全くいないレイネと知り合い?」

「アオ、わざとじゃないでしょうね。それと奏、友達いないとかそういうの余計でしょ」

「御免なさい、普通に言い方が悪かった。」








その後、アオは事のあらましを奏に説明した。アオがレイネをからかった所それに怒ったレイネがアオの腹を殴ったこと。そして奏が医務室に戻ってきた後再びアオが目覚めた時にまたレイネをからかっていたことを。

奏はそれを聞いて、「アオくんってそういうところあるわよね」と言っていたがアオはそれがどういうところなのかはよく分かっていない。


「それでレイネ、やっぱりアオくんは概念保有者って事でいいのかしら」

「そうね。聖典との契約を本人が拒んでない以上契約は自然と成立する筈だから、そうでないのなら奏の言う通り、概念保有者って事になるでしょうね」


現在、医務室内でアオ達三人はアオの契約拒絶について話していた。


「先輩、概念保有者って何のこと」

「先ずはそこから説明しましょうか。概念保有者ってのは元々、魂に何らかの法則を有している者のこと。魂に刻み付けられた法則があると体内に聖典の因子を取り込む際に、元からある法則と拒絶し合うの。聖典の因子自体が一種の法則のようなものだからね」


概念保有者。魂に法則を宿した者。アオが契約を拒んでない以上、契約が成立しない理由として考えられるのはアオが概念保有者である事だと奏とレイネは結論付けた。


「じゃあ、オレの契約の話はどうなるんだ。今更やっぱり殺しますとかはなしにしてくれよ」

「そんなことはしないわよ。それに契約することが条件って訳じゃなかったでしょ。あくまであなたが最低限自分の身を守れるようにって配慮なだけで」

「そういえば、そうだったな。じゃあオレが死ぬ確率が高まったって事か」


聖典と契約できない以上、アオは式典奏者としての魔術行使をすることは不可能になった。即ちアオは自分の身を守る為には同じく魔術を使う相手に生身で逃げ回らねばならないことを示す。無論、付け焼き刃の式典詠唱が出来たところで安全というわけにはいかないのだがないよりはあった方がマシなのは事実。


「必ずしもそうとは言い切れないわ」


と、アオの言葉をレイネが否定した。


「何故?」

「アオが契約できない理由聞いてなかった」

「理由、オレが概念保有者かもしれないって話か」


アオは先程の話から思い当たる節を述べる。アオにはそれがまだどういう意味を持つ言葉なのかは分かっていない。


「そう、概念保有者。概念、法則を魂に宿す者。聖典との契約ができないとは奏の説明の通り魂にある法則が聖典の因子を拒絶するってことだけど、魂に法則があるということはそのまま魂が一つの魔術行使を可能としているっていう意味でもあるの。アオの頭でも分かる?」

「バカにするな。なんとなく分かる」

「じゃあ続けるけど、魔術とは物理法則の外側にある、物理法則以外の数多もの法則が存在する場所から法則を持ってきて物理法則を無理やり書き換える物なのよ。その外側にある法則がアオの魂にあるということはアオはその法則が持つ力を使って魔術行使を行う事が出来るというわけ」


ここまで理解できた、とレイネは嘲るような目で見ながら言った。

当のアオはやはり細部までは理解出来ないもののなんとなくは理解していた。

概念保有者が自らの魂に宿している法則に限ってはその法則の力で魔術行使を可能とさせるということ。

しかし、裏を返せば概念保有者というものは己の抱える法則が邪魔をして自由に魔術行使が出来ないという意味でもある。魂が法則量(エーテル)の通り道であるなら概念保有者はその通り道自体が一つの概念、法則に染まっている状態だ。そこに無色の法則量を通して魔術を行おうとしたところで魔術を行使する大元の魂が既に一つの色の付いた法則に染まっている、いや、色の付いた法則そのものであるのだから自由な魔術行使など出来る筈がない。


「まぁ、一般的な魔術行使とは少し違うものなんだけど

。概念保有者の場合は魔術行使というより概念行使って呼ばれるモノになる。細かいことは別に知る必要はないけど」


レイネはそこまで言うと一旦説明を止めた。何処と無くレイネの態度は面倒くさそうだ。


「つまりはアオくんがどんな概念を有しているのかは分からないけど、何かしら身を守る術を習得出来るかもしれないってこと」

「何もないよりは何かあった方がいいのは確かだけど、オレは具体的に何ができるわけ?正直オレに概念とかなんとかってのはよく分からない」


アオは今まで生きてきた中で自身が概念保有者であると気が付いたことはおろか、今まで魔術というもの自体に触れたこと自体ない。自分自身の概念と言われたところで全く想像することが出来ないのは当然だ。


「それはこの後確かめればいいでしょうね。奏は忙しいから私があなたに概念行使を教えてあげようか仕方なく」


レイネは嗜虐的な笑みを浮かべてそんなことを口走った。













/A



白い。

白い部屋だ。

幾つもベッドが並んでいる。


まるで学校の保健室みたい。


近くに立っている女の子がいた。


私に気がついたのだろうか女の子は私の方を向いて此方を見てきた。



でもそこで私は途切れた。



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