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Fake of second  作者: castella
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契約式

永遠の二話、タイトル変えました。仮題なのでまた変わる可能性もあります。申し訳ございません。

「アオくん、準備はいい」

薄暗い室内に羽曳野奏の凜とした声が響く。

「ああ、いいよ」

アオは薄暗い室内の光源、両脇に蝋燭の火を湛えた金や銀で装飾の施された石の祭壇の前に立っていた。

「体調はもういいの?」

「大丈夫。昨日の夜から色々あって疲れてただけだ。今はもう平気」


アオはここに来る途中、建物の外で何度か頭が痛くなり、立ちくらみのような症状が出ていた。それを奏は心配して言った。出来ることならなるべく早く契約を済ませてしまいたいのだが、余りにも具合が優れないのなら今は休むくらいの猶予は十分にあった。

が、アオは自身の体調に問題ないと言った。本人が言う通り奏の目から見ても特にこれといった異常は感じられない。


「なら始めるわ」

凛とした声が薄暗い室内に反響する。祭壇の手前に立つ奏は一冊の分厚く古めかしい本を手に持って、胸の前に広げて掲げる。


彼等が今始めようとしているのは、『聖典』との契約だ。契約に際して既に、この教会に来る前にアオと奏の間で合意は取れている。


目下、この街の【聖典】の教会で一番の問題は街に現れた、『血損』こと元『式典奏者』シャルドネート=シュタイナーの捜索及び捕縛または排除だ。

そのシャルドネートが次に殺人を起こす場合、被害者として可能性が最も高いのはアオであった。

秘密を知ったアオと奏との間で交わされた約定の一つにこの契約も入っていた。

現在、最も命を狙われる可能性の高いアオはシャルドネートから自身の身を守る術が無い。『式典奏者』という存在を知ってしまったアオが記憶の焼却から逃れる為には、秘密の共有として、自身もその仲間になる以外道はないが、しかし、アオは偶然巻き込まれた謂わば被害者なのであってそれでは余りにも不憫であるからと奏は自分の身を自分で守れるようにと、【聖典】との契約を交換条件として提示したわけだった。




「祭壇に手を翳して」


羽曳野奏の声音が真剣なものとなる。それにつられてアオは祭壇に手を翳す。


これより始めようとする契約というのは『聖典』とアオの間に交わす契約術式である。


『式典奏者』としての異能を振るうにはこの『聖典』との契約は必要不可欠なこと。中には元より自ら異能を発現させている例外がいるものの、『式典奏者』としての異能の力を振るう為にはこの契約は必須なのである。


異能の力を振るうことができるということは常人を超えた能力を手にするということであり、無用な混乱を招く恐れもある。よって誰もが簡単にこの契約を行うことはできないようになっている。

この契約は、教会で技能や思想を学んだものだけが『式典奏者』に相応しき者として認められて初めて行える。

現在アオが契約を行う事ができるのは、此処にいる『式典奏者』である羽曳野奏の【聖典】内での権限によるところが大きい。

奏は【聖典】で一年に一度、誰もが一回は出場を義務付けられている『式典奏者』の実力把握と技能向上の為に行われる試験での優勝経験や、それを裏付ける本人の実力、任務の遂行実績もあり、【聖典】内での序列が高い。その為、奏個人に契約者抜擢の権限が与えられているわけだ。


本来なら然るべき過程を経て行われる契約も今はその権限により全ての過程を飛ばしている。『式典奏者』とは栄誉ある称号であり、契約の際には自らが『式典奏者』となることを誇りに思い、またこれからも使命に準じていくという決意を固める者が多い中、流されたままに奏の権限によりあらゆる過程をすっ飛ばして此処まで来てしまったアオは、


……蝋燭の火が熱いな。


これから始まる契約に特になんの感慨も抱くことができなかった。




「汝、奏者となり【聖典】に則り魔を滅する使命に殉ずるか」

祭壇の手前、奏が式典契約の為の術式の詠唱を始める。室内に風が吹き始め、アオの前髪を揺らす。


……右腕が熱い。これは蝋燭の火が強くなったわけじゃないよな。


祭壇の前に立つアオの手に法則量(エーテル)が収束する。常人には感じることができず眼にも見えないそれをアオは熱として右腕に感じていた。


「汝、連綿と紡がれる其の礎となるか」


奏の澄んだ声が室内に響き渡る。詠唱が紡がれる度、室内の法則量(エーテル)が一つの法則として形を成し始める。


「汝、是を認めるならば、其との誓いを此処に刻め」


契約術式の詠唱の最後の一文が唱えられた。


右腕に熱を感じながら、アオは漠然と外で出会った男の事を思い出していた。









ファミレスを出たとき、時刻は午前十時程であった。羽曳野奏とアオはそのまま、羽曳野奏の案内のもと、私立岬ヶ原高等学校の立つ丘の更に上にある教会へとやってきていた。


「この建物って聖典の教会だったんだな」


アオの見上げる先には荘厳な雰囲気の、教会というより城や要塞といった名前が相応しい堅牢な造りの建物があった。建物を取り囲む塀も城壁さながらで門の入り口は堅く閉ざされている。


「アオくん、この建物知ってるの?」

「いや、此処が聖典の教会ってことは今知ったけど、こんな馬鹿でかい建物なら学校に通ってたら嫌でも目に入るだろ」


アオが通う私立岬ヶ原高等学校とこの建物迄は道なりで一キロと少し、周りが森に囲われてるとはいえ校舎の窓からは十分見える距離と大きさであった。


「そう、まぁ此処が私達『式典奏者』の所属する【聖典】の教会ってこと。この場所以外にも教会は幾つもあるわ」


そう答える奏は、口調と裏腹に先程のアオの発言に引っかかりを覚えていた。


「そうなると、この中にも先輩と同じように式典奏者がいるってわけか」

「そうね、何人か出払ってる人達もいるけど、常時十人程はいるかしら」

「十人か、この建物にしては少なくないか?」


十人。アオ達の目の前にある要塞じみた教会に十人しかいないというのは些か、建物の大きさと人員の数が釣り合っていないように思える。


「此処は他の教会よりかは建物が大きい分、割り当てられる人員に対して建物が大き過ぎるって感じはするわ。単純に建物の規模で人員が割り当てられるわけじゃないからね。でも、此処よりも大きい教会だって何個もあるし、ウチが特別人が少ないってことはないかな」


奏は自身の内に湧いた疑問を取り敢えず押し込み、アオの疑問に答える。但し、此処が【聖典】の極東地域の本部であり、この丘の地下にとある物を隠しているということは伏せて、だが。


「式典奏者ってのもそこまで沢山いるわけじゃないってことか」


そんなことには微塵も気付かずアオは一人納得していた。


「それじゃ入るから、私の側から離れないでね」

「了解」


奏が門の扉に触れる。すると侵入者を拒むように聳えていた門は容易く開かれた。門の先には外から見えていた教会の全貌が明らかになり、教会の入り口まで長い石畳が続いていた。


……何処の豪邸だよ。


アオはその規模の大きさに圧倒されながら、奏の後をついていくすると、前から白い制服を着た男が歩いてきた。


「痛ッ」


アオが頭を抑え少しよろめいた。


「戻って来ていたの?珍しいわね峰塚」


その場で立ち止まっていたアオの数歩先で、奏は白い制服を着た男に話しかけていた。


「そう珍しい事でもない。それはそうと、長い間姿をくらましていた『血損』が見つかったそうだな」


峰塚と呼ばれた男は淡々と答える。長く伸びた手足、だがその内に力強さを感じさせる立ち姿。その顔は彫刻のように整っていて、そして無機質で人間味が感じられなかった。後ろから見ていたアオはその顔を見て唾を飲んだ。


……なんだ此奴、まるで死んでいるみたいなのに、それなのに一切の隙が無い。


「貴方が、『血損』如きの為にわざわざ顔を出すとは思えないわ」


「『血損』如きとは、君は随分と彼を過小評価しているが彼は【聖典】内での試験結果に基づいた序列において七一位だ。君よりも一つ格上の『式典奏者』だよ。それとも君は彼よりも格段に優れていると言うのかな」


峰塚の射抜くような視線が奏に向けられる。だがそれを軽く躱すように、


「いえ、私にとっては格上の相手ですが貴方にとっては違うと思いまして。【聖典】内での階梯上位者、『執行者』にのみ着用を許されるその白い制服。それに、峰塚秋蜂。嘗て『悪魔殺し』として名を馳せた『式典奏者』ならその程度の相手に手こずることはないでしょう?」

「その名を知っているとは、やはりくだらない役職を【聖典】が作っているとは本当だったか。それとも君が個人でそこまで辿り着いたのか」

「なんのことだかわかりませんね。それよりこれから用事がありますので失礼いたします」


剣呑とした空気の中交わされた会話は直ぐに終わった。


少し離れた位置に立っていたアオにはどのような話が交わされていたのか知る術はなかったが、彼等の表情を、見る限り世間話に花を咲かせていたようには思えなかった。

会話が終わり、門の方へ歩いていく白い制服の男、峰塚秋蜂はアオの横を通り過ぎようとしていた。

横にいるだけだというのにアオが感じるその威圧感は彼が『式典奏者』の中でも数少ない『執行者』であるという事実を物語っている。

峰塚秋蜂が通り過ぎようとしたその時彼の目がアオを捉えた。


————ッ!


斬られた、とまるでその瞬間に全てが停止したかのような錯覚をアオは覚えた。錯覚というには余りにも現実味のある感覚だったが体には痛みが感じられない。

ただ、見られたそれだけだというのにアオは今迄感じたことのない衝撃を受けた。一切の身動きが封じられ目を離すことすら出来ずにいた。アオは元々感情の起伏が大きいほうではなく、どちからといえばあまり物事に動じるような性格ではない。けれど、その時確かにアオの指先は微かに震えていた。


だがそれも一瞬、


「痛ッ」


アオは再び走った頭痛によりその場によろめき膝をついた。アオは通り過ぎた峰塚秋蜂の姿を追おうとするも、峰塚秋蜂は既に門を抜け姿が見えなくなっていた。



「アオくん大丈夫!」


膝をついたアオを見て奏が駆け寄ってくる。

アオは膝をついたまま、

「少し頭が痛かっただけだ。問題ない」

とだけ答えた。


「ならいいけど」


答える奏は門の方へ目を向けていた。


「先輩、さっきの奴は」

「峰塚秋蜂。【聖典】内でも数少ない『執行者』って呼ばれる肩書きを持ってる奴なのよ。見たでしょアオくんもあの白い服」

「ああ、見た。てことは先輩よりも凄い奴なのか……」

アオは先程感じた衝撃の原因に納得した。

「ちょっとアオくん?なんか私のこと、実は大したことない奴だと思ってない?」

奏がアオの顔をムッとした顔で覗いてくる、

「してないしてない。先輩も『式典奏者』として頑張ってるよね」

「いや、君。何も私のこと知らないでしょうが!」

奏は盛大に突っ込んできた。その笑顔はファミレスで話した時から変わらず明るくてアオには眩しいくらいだった。


……この人はよく笑うよな。いや、この人だけがってわけでもないか。クラスの奴等だって似たように。


そんな奏の様子を見てアオはそんなことを思った。と同時に、


……オレはなんてつまらないのだろう。


自分には何もないことを強く感じた。人として、何もない。自分の中には何一つ情熱と呼べるものが無い。人が感動する事に自分は感動できない。それは疎外感というよりも虚無感。自分の人生がただ無為に流れていくだけだという認識が一層それを強く感じさせた。

空の器に、空の心。一体何の為に生きているのか分からない。そうして今迄ずっとアオは生きてきていた。今更考えるような事でもない。


「すいません先輩。今のは冗談です」


だからせめて表情だけでも笑った。自分には何もないけれど、表情を作るそれくらいならできる気がした。何よりもこの人に暗い顔は似合わないとアオはそう思った。


「仕方ないから、許してあげる。どうせ【聖典】に入ったら嫌でも私のこと先輩だと認める他なくなるだろうしね」


爽やかに笑う奏。だがその笑顔がアオの心には痛かった。 そして、またいつもの癖で余計な事を考えてしまった、と反省した。




日が陰る。アオの気持ちを映し出すかのように空は曇り冷たい風が吹き始めていた。








……右腕が焼けているみたいだ。




『聖典』との契約儀式の最中、アオは自身の右腕を焼くような熱さに晒されていた。


教会に入る前に出会った冷徹で機械のような男の事を思い出していたが、その間も右腕に感じる熱が徐々に高く熱くなっている事に気付いた。


アオは右腕の熱さに顔を顰めて堪えていた。熱は徐々に腕を侵しながら体の方へ這い上がってくる。

奏はその様子を見て違和感を感じ始める。


……様子が可笑しい、普通ならこの段階で刻印が顕れる筈なのに。


既に術式の最後の詠唱を終えてから数分。常の契約なら既に契約者の身体の一部に『式典奏者』の、証である『聖典』の因子が物質として形となった刻印が顕れても良い頃なのだ。


と、奏は『式典奏者』の感覚として法則量(エーテル)の集まる箇所アオの右腕を見て気付いた。


……聖典の因子をアオくんが拒絶している?



通常、聖典と契約を交わす際には術式の詠唱を行うが契約者が痛みを伴うことはない。だが今のアオの状態は常の契約とは様子が違っていた。


……どういうこと、アオくんが契約を拒んでいる。


それはない、と奏は一つの可能性を消去する。契約が嫌ならば事前にそう告げているはずだ。契約はあくまで交換条件で、強制ではない。ならば、


……まさか、概念保有者?


奏一つの答えに辿り着いた。『概念保有者』。通常、人の魂は法則量(エーテル)を操る為の器官だが稀に魂自体になんらかの概念を司る法則そのものを宿して生まれる個体のこと。それならば『聖典』の因子という一つの形を持った別の法則を身体に埋め込むという事に拒絶反応が現れてもおかしくはない。


奏が思考を巡らせている間にもアオの表情は益々険しくなっていく。アオの顔には汗が滲み呼吸も荒くなっている。このまま儀式を続行すれば、いずれアオは過剰な迄の法則量(エーテル)に侵され魂の強度を越え生命が保てなくなる。


奏は儀式の中断を決意した。


切断(cut)


行動は疾風のように迅速。直ぐさまアオと祭壇の間に流れる法則量(エーテル)の流れを断ち切ると、アオの下へ駆け寄る。


「アオくん、何処か具合悪いところない」

「ハァ、先輩、腕が熱い」


アオの腕を触る。熱い。アオの体温自体熱くなっているが特に、法則量(エーテル)の集まっていた腕は体温が他と比べて高くなっていた。


「医務室迄運ぶわ。じっとしていてね」


奏はアオの肩に手を掛ける。服の上からでも体温の高さが感じられた。


「ああ、大丈夫。もう意識が……」


そう言ったきり意識が途絶え、糸の切れた人形のように、アオの力が抜けて奏に寄りかかった。息が荒い。



『レイネ、今いる?』

奏は祝詞のりとが刻まれた指輪に念じ問いかける。実際に発音はしていない。

『はい、どうした?急ぎの用?』

奏の脳内に直接声が響く。この通信方法は式典内ではよく使われる手法だ。

『ちょっと医務室開けといて、契約中に倒れた子がいて』

『それはまた珍しい。私のとき以来か?』

『そうかも、話はあとで、頼んだから』

そう言って通信を切り、アオを担いで走り出した。







次は二話の六話です。熱といえば風邪には気をつけたいです。

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