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かりそめの花嫁は斯く語りき  作者: 宮城まお
誰がために鐘は鳴る〜私が花嫁ってそんなのアリ!?〜
5/9

巫女の条件 乙

建物の基本は、古代中国文化だろうか。映画のセットのような長い廊下は、朱色の絨毯が敷かれている。廊下に一定感覚で絵や、壺、食器が飾られていた。所謂骨董品の類だろう。

西洋画がかけられているかと思えば、水墨画が西洋風の金の額縁に飾られている。西洋の甲冑が日本刀と一緒に飾られていることもあった。

歩きながら、それらの骨董品を眺めていると、それぞれの国の文化の化身が一同に介して、大運動会を始めたような慌ただしさだった。だからと言って居心地は悪くなかった。

飾られている物のひとつひとつは、その形から、相当に古い時代のものと推測できるけれど、いずれも大事に大事にされてきたのだろう。保存状態は良く、そうした、大切に守られてきた骨董品特有の温もりがにじみ出ている。

そこには、私のいた世界つまり彼らにとっての異界への、尊敬の心、なによりも愛を感じることができたからだ。


「ついた。父上だ。」

夜半はこれまでより、一際落ち着いた声でそう言った。そう言えば、夜半は何歳なんだろう。その横顔をみて、高校生、いやもう少し上、恐らく大学生くらいだろうかと考えを巡らせた。


一際豪華な扉を目の前に、私の喉はごくりと鳴った。いつの間にか、鶏鳴はいなくなっていることに気づく。忍者みたい、などと間抜けなことを思っていると、扉が重い音をたてて、ゆっくりと開いてゆく。


「おお。お前が異世界から来た娘か!ご苦労であったな!ささ、そこに。」


扉が開くと、満面の笑みの太った男性が待ちきれないとばかりに私を招き入れてくれた。夜半と同じように、中華風の衣装を着ている。頭上には同じく映画で見たような、冕冠べんかんを乗せている。

先代の皇帝は、気さくな人のようだ。夜半と血が繋がっているとは思えない。クールな見かけの夜半とは似ても似つかなかった。それとも、夜半も年をとればこうなるんだろうか。そう思うと、夜半のクールな面にも少し愛着が湧きそうだ。

夜半の父はまるで、貫禄のあるタヌキだ。ニコニコとしながら、椅子にかけるよう勧めた。


扉の割に、部屋の中は小ぢんまりとじていた。しいていうなら、校長室のような広さで、素朴さだ。古い西洋屋敷の一部屋のようだ。この部屋が一番、私の世界に近いかも。


勧められたソファーに腰をかける。夜半は、私の横に座った。


「どうだ。私の部屋は。私は異世界の文化が好きでな、いや、会ったのは君が初めてだ。この国にとっては、いやはや何年ぶりだ。」

夜半が約500年です、と呟いた。


「そう。そう、500年になるか。私も祖父から聞き知った程度なのだが。夜半が生まれた時は、本当に驚いた。あの時の夜空を、とりわけ星座の輝きを忘れることはできまいよ。そして、君が現れた。半信半疑だったが、やはり言い伝えの通りだ。」

「はあ・・・」

私は愛想笑いで答える。次から次へと話題は尽きないらしい。矢継ぎ早に出てくるエピソードの数々に、質問を挟む間は一ミリもなかった。


「ささ、夜半。儀式は本日行うのか。」

「はい。そのつもりです。」

そして、冒頭の爆弾発言へと続くのである。


そうかそうか、と夜半の父は嬉しそうに頷く。

私は身体中の血が足元へ逃げていくような、急激な体温の低下を感じる。


「安心しろ、儀式を行えば桃はこの世界にとどまることができる。正確に言えば、巫女として、元の世界への道を通る資格を失うことになる。まぁいい。どちらにせよ、私たちの新婚生活は安泰だ。」


夜半は、生まれてから今まで汗もかいたことないの無いようなクールな表情で、今もの凄い大事なことをさらっと言った気がする。恐ろしいのは、少しも冗談に聞こえないことだ。彼は、至って真剣だ。

そしてその端正な顔を見ていると、私の意識は遠く遠く、誰にも捕まえられない場所まで逃げて行った。

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