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かりそめの花嫁は斯く語りき  作者: 宮城まお
誰がために鐘は鳴る〜私が花嫁ってそんなのアリ!?〜
4/9

巫女の条件 甲

「儀式、って。」

「何も言う、夜伽だ。」

「ヨトギ」

ふん、小娘。とも言いたげに、夜半は 交わることだ、と勿体振るように言った。

腰を抜かしそうだ。口で言うより早く、そして今度こそ、夜半の右頰をはたいていた。







ここで、時間を戻したい。遡ること1時間ほど前ーー


だだっ広い部屋に鶏鳴と2人。鶏鳴は私の頭から足の先までじろりと見ると、はぁと盛大なため息を吐いた。


「桃と言ったか。夜半様はこのような平凡な女を嫁にめとるというのか。おいたわしや…」

鶏鳴は両手て顔を隠し、さめざめと泣いているように見える。世界の終わりを嘆くような、悲痛な姿に見えた。

もしかしてー 私は湧き上がる親近感を禁じ得なかった。


「ねえねえ、もしかして!鶏鳴ちゃんは、夜半のことが好きなの!?」

「え?」


鶏鳴はつと顔を上げると、花が開いたように表情をパッと明るくする。それから、ニッコリというより、にやりという表現がベターだろうか、鶏鳴は私に笑みを向けた。


「桃、一目でそこまで判断するとは、なかなかの女。」

「ふふふ、協力してあげてもいいよ!私、憧れの人がいるし、なにより受験生だし、まだまだ女子高生だし!夜半と結婚なんか出来ないもの。ね?どう。その代わり、あなたは私がお家に戻れるように協力してくれない?」

「ふん、何はともあれ、お前が元いた世界に帰れば私の間違いも帳消しか。悪くない。乗った!」


鶏鳴は私に右手を差し出す。手を取ると、意外としっかりしていた。武道をやっているのだろうか。


「よろしくね。鶏鳴ちゃん。」

思わずできた、敵中の仲間。これで少しは動きやすくなった。鶏鳴ちゃんは目をパチクリとさせ、にやりと笑う。それから、私の手をしっかりと握った。

「たった今から私たちは同士だ。鶏鳴でいい。しかし、時間がない。夜半様は今日にでも行うつもりだ。」

何を、と口を挟む間も無く、鶏鳴は手をパンと打ち、扉から離れるよう指示をした。


「そこに立て。そう、そのまま。」


鶏鳴は両手を私に向けると、難しい顔をして呪文を唱え始める。鶏鳴の周りが白く光り始めて、ぼんやりと、あの夜の白い手を思い浮かべる。凄い力だったなぁなどと思い返してると、私は中世のヨーロッパで大流行をしていそうなドレスを着ていた。


「うっ苦しい。」


ドレスの裾を持ち上げると、ずっしりと重く、コルセットで体が締め付けられているのだろうか、体が動かしづらい。魔法にしては意外と本格的だ。髪もボリュームを出したアップスタイルに変わっていた。


「我慢しろ。そちらの世界では、この姿が正装だったろう。そう、言い伝えで聞いているが。」鶏鳴は得意そうな笑みを浮かべる。

「違うよ、この服は時代が、いや、流行遅れよ。」

「何!?じゃあ、この家具も。」

「そうね。これはこれで可愛いと思うけど、少し今風じゃないかも。」


鶏鳴はショックを受け、口をパクパクさせている。私の美的感覚は古いというのか、と消え入りそうな声で呟き、手をわなわなと震わせている。そして真剣な表情でこう言った。


「桃。お前のいたところの絵を見せてくれないか。私の能力は投影。見ればだいたいの物はコピーが出来る。」


どうしよう絵は不得意中の不得意だ。暗記の次くらいに。美術2の私が書いた物を、私の世界で流行っているものとされれば、元いた世界が馬鹿にされしまう。さて、どうしようと考えていると最高の案を思いついた。そう、携帯が使えるはず!


「鶏鳴これ見て!」


私は携帯電話を操作する。電波は圏外のようだけれど、充電は90%、問題なく使えそう。鶏鳴は、感嘆の声を漏らし携帯電話の画面に目を凝らしている。ほら、と鶏鳴に先週の放課後に撮影したゆいちゃんとのツーショットのプリクラを見せる。


「桃の世界では、この服が流行しているのか!隣の美人も着ている。」

「流行っていうか、うちの高校の制服だけど。」


もう一度、と鶏鳴は手を向ける。

次の瞬間には、息苦しさはなくなり、私は着慣れた制服姿になっていた。


「凄い!鶏鳴、ありがとう!」

制服なんて大して好きでもなかったのに、こうして知らないもので溢れた世界の中で袖を通すと、悔しいけれどほっと安心をした。


鶏鳴が照れたように、頰を書く。そのボーイッシュな仕草に、鶏鳴の人となりを見たような気がした。






今度こそ、扉は簡単に押し開くことができた。


「おお、桃。その姿、正装か。時代が変わるとこうも変わるのか。スカートもこう短くなるとは、桃のいた世界は随分と性に奔放らしい。」

夜半は私のスカートの裾をひょいと摘む。その手を叩くと、鶏鳴がじろりと私を睨む。あ、ごめん。心の中で鶏鳴に手を合わせる。


「私がいたとこの女子高生は皆、こんな格好よ。あと、直ぐ性とかそういう話しないで!そういうのセクハラ。」

「・・・そうか。お前は巫女だったな、それは失礼した。」


言った意味がわからないというように、夜半は目を見開いて、そして諦めたように謝った。意外と素直なところあるじゃん。

そして、夜半の後についていく。


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