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かりそめの花嫁は斯く語りき  作者: 宮城まお
誰がために鐘は鳴る〜私が花嫁ってそんなのアリ!?〜
3/9

一世一代の勘違い

私が呆然として眺めていると、夜半は鼻じらんだと言いたげな表情をして一歩離れた。急に手が動くようになり、驚いて開いたり閉じたりしてみるが、今はもう違和感はない。


「興が冷めた。まぁいい。貴様俺が言ったことが信じられない、というような顔をしているな。我が城の中を見せてやろう、着いてこい。おい、鶏鳴けいめい!」


「言ったこと」が信じられないという次元の問題ではない。

これまでの経緯で、どうやって夜半を信用に足る人物と判断するに至るのか。私がされたことと言えば、少女趣味の透けそうなキャミソールを着せられて監禁されたあげくに、俺の嫁宣言をされただけじゃない!

それに、人様のことをキサマなんて呼ぶなんて、どういう教育を受けて育ってきたのこの高慢ちきな俺様男は。


「はっ」


夜半の背後にどこから来たのか、長い髪をうしろで一本の三つ編みに束ねた女の子が現れた。浴衣のような服をきており、紫色の髪はつややかだ。その顔立ちからおそらく私と同い年ぐらいだろうと推測できた。


「ああ、お前、名を名乗れ。」

「言わないわよ、この変態!」


誘拐しておいて、よくも抜け抜けとこの男は。

私が睨みをきかせても、夜半は涼しい顔をしている。すると、鶏鳴が懐から短刀を取り出し鯉口を切った。垂れ目の美人だからだろうか、凄んだその表情さえも見とれるほどに綺麗だ。


「おい、女。夜半様に無礼な態度を取るなよ、殺すぞ。 」


その瞬間、鶏鳴の腰に携えられた短刀に目が留まる。背中を嫌な汗が伝うのがわかった。


「 夜半様、この女の名前は山崎ゆいと申します。」

「は!?」


私を無視して鶏鳴は続けた。

「入念な下調べの上、巫女として最もポテンシャルが高いと判断しました。こうして、無事我が国に召喚できた。これがなによりの証拠でしょう。しかし、夜半様。この女見かけは、なんと申し上げていいか、こう平凡ではありませんか。私の方がまだ・・本当にこの女で良いのですか。」


鶏鳴の失言にいちいち目くじらを立ててなんかいられない。今しがた鶏鳴の言った「山崎ゆい」というのは、ほかでもない私の幼馴染の名前だ。ゆいちゃんは同じ高校に通う高校三年生。家も近くだから、毎日近所のタコ公園で待ち合わせをしてから登校する。もちろん帰りも一緒だ。ゆいちゃんは美人だし、頭もいい。落ち着きのない私と反対のタイプだけれど、片時も離れず一緒にいるからだろうか、クラスメイトからは双子みたい、と比喩されることはある。だからって、まさか、鶏鳴は私とゆいちゃんを間違えて・・・。


「ちょっと待って!鶏鳴さんが私を連れてきたの?どうやってここまで?」

鶏鳴は何を今更、と言いたげに続ける。

「ヴィカラーラ国と、お前の世界を直接に結ぶものはない。夜半様が開いた道を私が通り、媒介を通して、お前をここまで連れてきた。そうだ、お前の場合は表面の艶やかな小さな箱があっただろう。ほら、これ」


「わ!私の携帯電話!・・・割れてない。」

携帯電話は弧を描いて私の手の内に治った。電源ボタンを押すと、満開のヒマワリ畑が映し出される。悪夢じゃなかったんだ。あれはやっぱりー


「じゃあ、あの時の手は。」

「私のものだ。」

したり顔の鶏鳴を、夜半はじっと見やる。


「ところで鶏鳴。この娘、ゆいと言ったか。」

夜半はそう鶏鳴に聞き、じっと私を見た。

不信な顔をする鶏鳴を尻目に、夜半は私に向き直る。


「お前、人違いをしているようだな。見てろ。」


夜半は私の胸元に手を伸ばす。二本指を立て、何かを呟いた。やっぱり聞き取れなかった。指は今にも触れそうな距離で止まり、肌が急に熱くなったと思ったら、私の鎖骨のあたりが桃色の光を放った。


「え!?何これ…」


鶏鳴は瞬きをして、私をみている。

夜半が手を開くと、桃色の光がきゅっと一つに集まると、宝石のように光る一つの玉になった。表面は滑らかで、まるで磨き上げられたローズクウォーツ、いや、透き通った飴玉の様だ。夜半はそれをじっと見つめる。

「あ・・」体の芯が熱くなり、掠れた声が漏れた。夜半は、私の瞳をじっと見つめて口の端を上げる。体は金縛りにあったように自由が効かない。


「百瀬桃」

心臓が跳ねた。


鶏鳴は信じられない、という表情で足早に夜半に近寄る。

「…まさか、同じ時代に、同じ場所に2人も。」

「いや、ありえないことじゃない。極めて稀ではあるが。」

「夜半様・・・私なんということを!」


見るからに鶏鳴は狼狽していた。しかし、はと我に帰り、物凄い勢いで頭を下げている。そんなに、私とゆいちゃんを間違えたことが問題!?ゆいちゃんじゃなくてすみませんでしたね!と普段の私だったら言っているところだったけれど、鶏鳴のあまりの勢いに、口を挟むことは憚られた。


桃、そう夜半がつぶやくと、桃色の玉は空中分解して消えた。それと同時に体が軽くなり、自力で動かすことができるようになった。


「城の中、いや、俺の父、先代の皇帝の元へ向かおう。着いてこい。ああ。その前に鶏鳴、桃に服を。長い間そのような格好のままで済まなかったな。先に外にいる。」


夜半は先ほどまでビクともしなかった扉を押して出て行った。

信じられない。まさか。私は本当に別の世界に来てしまったというのだろうか。でも、こんなこと、現実じゃありえない。



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