五話、妹が語る兄の像
私の家族はレイカさんとにぃにと私の三人。
皆、お友達は『何でママとパパがいないの?おかしいよ』とか『変だよ』って言うけど、私がこの家族で良かった。
一度、このことで泣いちゃってレイカさんに迷惑かけちゃったから、もう泣かない。
二人が傷つくの、嫌だもん。
レイカさんは温かくてやさしい人だけど、いつも怒ってるみたいに口が悪い。
でも知ってるんだ。
レイカさんが文句を言いながらもかならず早起きしてるのは、私たちに温かいご飯を作るためだって。
前に言ってた。
朝ごはんだけはしっかり食わせねぇと兄さんに怒られちまうからなって。
にぃには怒らないよって言ったら笑ってた。何でだろう。
詳しくは聞かないけど、私が大きくなったら教えてくれるって言ってた。
早く大人になりたいな。
にぃにもやさしい。すごいやさしい。私のことが大好きなんだって分かる。
学校に行くのは毎日一緒だし、怖い大きな犬がいたらにぃにがたてになって歩いてくれたこともある。
でも、最近にぃにの大好きと私の大好きが違うような気がしてきた。
にぃには守ってくれるし好きって言うけどそれまで。ぎゅってしてうれしくなる好きじゃないの。うーん、言葉じゃ言えないな。
物足りなくなって、私、にぃにがいない間に勝手ににぃにの部屋に入っちゃった。
戸を開けて真っ先に、ベッドに飛び込んだらにぃにの匂いがしてうれしくなった。にぃにはいないけど、にぃににだきしめられてるみたいだった。
そうさく開始。
布団の中やら下やらゴソゴソ探す。クラスメートの男の子がえっちな本をベッドの下にかくすって言ってた。
にぃにも持ってるのかな?
「リン手帳……?」
見つかったのは分厚いルーズリーフの束だった。表紙にリン手帳って書いてる。
リンって私だよね。
中はふつうだった。えっちとかそんなんじゃなくて、私の成長日記がつづられてた。
一番最後の方の古いページは、きたない字で『にぃにがまもるからね』と書いてあった。
そこには美人な女の人と、小さな男の子と赤ちゃんの三人の写真があった。
笑ってた。幸せそうに。
日記は、私が三ヶ月の時から始まってた。やっぱりきたない字で、私の一日のできごとを書いてた。
この字、お兄ちゃんの?
とけないパズルみたいに分からないのにムカムカして、それを持ち出した。
たまたまやきんで家にいたレイカさんにそれを見せたら、レイカさんの目は丸くなった。
「あいつ、こんな大事な物をどこに隠してるのよ」
苦笑いして、レイカさんは全て教えてくれた。
ぱぱのこと。ままのこと。レイカさんのこと。にぃにのこと。全部、全部教えてくれた。
知っちゃった。
「それ、諒が帰ってくる前に元の場所に戻すのよ?」
「ん!」
もう一度、にぃにの部屋に入ったら違う感じがした。知ったからなのかな?
にぃにの大きさとやさしさを感じたの。
ちゃんと元の場所にもどしていくついでに、部屋をみわたした。
あちこちに私の写真がはってる。うむむ。はずかしいな。にぃにはどんな思いでこれを見てるんだろう。
「あ、手紙?」
小さな折りたたまれた紙を拾った。中には文字が書いてあった。
「『教科書貸してくれてあんがと。ウリスキより』」
ウリスキさん、ウリスキさん……? にぃにのお友達なのかな? 仲良さそう。今度みてみたいな。
来週、バレンタインだってクラスの女の子が言ってた。
あんたは誰に作る予定なの? って聞かれたけど答えれなかった。だって今までに一度も作ったことないもん。
でも、作りたい人はいるでしょ? って聞かれて一番に出てきたのはにぃにだった。
うーん、でも初めて作ったのは美味しくないだろうから、にぃににわたしたくないな。
あ、そうだ。ウリスキさんに作って食べてもらえばいいんだ。うん、そうしよ。
「ね、凛子ちゃん。バレンタインチョコの作り方教えてー」
あ、そうそう。チョコだけじゃつまらないからにぃににお手紙書こう。大好きだって言うために。
にぃにへ、
にぃにのことを考えて一生けんめい作ったチョコレート、美味しく出来てるとうれしいな。
あのね、今年はチロルさんにたよらないで私の気持ちを伝えることにしたの。
私ね、にぃにがにぃにで本当に良かった。ありがとう、大好き。これからもずっとやさしいにぃにでいてね。
凛より
以上にて本編終了致します。ここまでお付き合いありがとうございました。
しばらくしたら小話『デブゴンと姉弟』、『パイオツと兄妹』を追加する予定となってます。それも、付き合ってくだされば尚嬉しく思います。