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夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第一四章:薫の青春時代
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14-01 薫の目覚め

 眠れる森の美女ではないが、長い昏睡状態から一人の少女が目覚めた。だが眠りに就く前とは別の存在になっていた。


 「あたしって、長い間眠っていたようだね。どれくらい眠っていたのかしら? 」その少女はかつて張薫媛”だった”。彼女は目覚めた瞬間から心身とも予想もしない現状に驚いた。


 「どうして、あたしって日本語で考えたり話したり出来るのよ? あたしは中国人なのよ? 日本語って母がしゃべっていたので少しは判っていたけど、こんなに話せないのに、どうして日本語で話せるのよ」


 戸惑っている彼女はベットに横たわる自分の身体を起こそうとしたが、その時さらなる衝撃を受けた。いつかは忘れてしまったが、眠りに就く前に自分が覚えていた身体とあまりにも違っていたのだ。


 「どういうことなの? あたしって8歳だったよね? なのに手足がこんなに長くなっていて身体がお姉さんのようになっているし、胸も膨らんでいる。いったいあたしの身体はどうなっているのよ」


 あたりを見回すと、上品で見たことのない美しい壁紙が張られた内装。外の窓には綺麗なカーテンがかけられている。しかしその高級感漂う雰囲気はともかく枕元には医療器具のようなものがあり、病室のようだった。あたりを見回すとカレンダーが架けられ横にはデジタル時計がかけられていたが、その表示によれば今は”2029年3月27日火曜日”とあった。


 「火曜日? 星期二の事よね? あっ! なんであたしって日本語が読めて理解できるのよ。日本語の読み方は母に教えてもらえなかったのに」と彼女は戸惑っていた。その後よく考えると、どうやら中国語でも日本語でも考えたりすることが出来ることがわかったけど、いつ日本語をマスターしたのか判らないし、身体が成長している理由は2029年3月なので13歳だからと判ったが、どうも4年以上の記憶がないのだ。


 そうやって困惑していると一人の女性医師がドアを開けて入ってきた。その女性は50歳近い風格があり、かなりのベテラン医師のようだった。


 「江藤薫えとうかおるさん、お目覚めですか? どうやら無事に自我が戻ったようで安心したわよ。これでおじい様にもお義父とう様にも喜んでもらえますわ。いろいろと質問したいことがあるようだけど、これからできるだけ応じるわ。申し遅れましたが私はあなたの主治医の水沼玲奈といいます」


 「あ、あたしって江藤薫という名前なの? あたしの母は江藤香織えとうかおりだけど、何故似たような名前なのよ? それよりも父と母は何処なのよ? 」と言ったところで、五年前の2024年9月29日の記憶が甦ってきた。


 あの日、自分は一家全員で北京首都空港から日本に向かう飛行機にのるはずだったのに予約トラブルのため実際に乗れたのは自分だけだった。その飛行機も朝鮮半島東海岸付近を飛行中に猛烈な核爆発の閃光と衝撃波に襲われ、機長が機体トラブルを理由に目的地を大阪ではなく広島に緊急着陸した。その後の事を思い出して戦慄に襲われた。


 「たしか、あの時あたしはひとりで祖父の会社の人が迎えに来るのを待っていたのよね。それで広島に着いたのよって母に電話したのよね、そしたら母はもうあなたとは会えなくなるけどいつまでも幸せで暮らしてね、といって泣いていたのよね。その直後に電話が不通になってしまって困っていると、待合室にあったテレビが北京が核攻撃を受けて壊滅した模様ってニュースを伝えていたのよね、それを見たあたしは泣き叫んでしまって・・・」


 薫はこの時気付いた。あの時父母は亡くなったことを。そして自分の記憶はそこで切れていることを。父母はもういないとわかったが、自分の身体に起こったことが理解できなかった。すると先ほどの女性医師はこれから言うことは全て事実だから受け入れなさいといった。


 「あなたは、日本に来た直後に原爆症になったの。それで出来る限り治療したわ。でも残念ながらあなたの上半身は広範囲に腫瘍ができたの。だいたいの臓器は人工の物に置き換えたけど、あなたの大脳皮質も失ったのよ。だから、あなたの脳の大半は薫媛さんのものではないのよ。生物工学で模造した人工頭脳なのよ」


 その言葉の意味は良くわからなかったが、どうも私の脳は使い物にならなくなったらしい。でも、いま考えているのは一体誰なのという疑問がわいてきた。ひょとして私は薫媛ではないわけなの?


 「そうやって考えているあなたの脳は機械仕掛けの脳なのよ。ショックだと思うけど他にもあなたの眼もそうよ。見てごらん」といって手渡された鏡に写った顔を見た。少し大人びた顔にある眼球を良く見ると、機械の絞りのようなものが見えた。


 「あなたの両目は義眼よ。ついでに言わせて貰うとあなたの自我は、薫媛さんを基本にプログラムしたもので、マーク4なのよ。それまでの三つの人格は失敗だったので改めて作ったのよ。もし失敗と判断したら改良、すなわち消えてもらうから。そうならないように頑張って」


 薫は戦慄した。自分は機械のプログラムのように書き換えられる代物なのかと? だから日本語ができるのも脳いや機械脳に書き込まれているからだと。そう、自分の自我は作り物だと。幸い薫の4番目の自我は問題ないとされ、そののち江藤薫として生きていくことが許された。



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