散華!
この日、日本は最悪な一日だった。航空事故に爆破テロ、騒乱事件など多数発生したが、最悪の犠牲者を出したのは「万騎が原難民キャンプの虐殺」であった。
この日、付近は猛烈な低気圧の影響で吹雪を伴う悪天候で周囲の視界は利かなかった。「万騎が原難民収容所」の境界はゴルフ場時代のフェンスで囲まれていた。しかし森林地帯なので警備が徹底できず難民が脱走することも多かったが、この日は吹雪なので逃げ出す難民がいるはずないし、警備隊の主力は近隣の収容所で起きた暴動鎮圧の応援に行っていたので、残された警備兵は錬度が低かった。
午後11時過ぎ、周囲の森林地帯に重装備の”黄金の約束”メンバーによるテロリストがいた。だが彼らは”奴ら”の日本潜入分子によって中田と”奴ら”から派遣された氏名不詳の人物によって機械化された犠牲者だった。その機械化テロリストによって収容所は包囲されていた。
時限爆弾によって通信回線と送電回路が遮断されると同時に、収容所管理事務所と警備隊詰め所が地対地ミサイルによって破壊されたため、防御システムが機能しなくなった。このとき警備兵と収容所職員の多くが犠牲になったため、残された難民は何が起きたか判らないまま大混乱に陥った。
攻撃開始の瞬間、ボランティア詰め所で書類整理をしていた今井誠二は衝撃で椅子からひっくり返ってしまった。窓を見ると収容所管理事務所が入ったクラブハウスは炎上しており、更なる攻撃が周囲から浴びせられていた。これはテロリストからの攻撃だと思って、電話機を使い、内線や外線をかけたが何処にもつながらなかった。通信回線は遮断され照明も落ちてしまった。
「くそう、携帯も繋がらない。無線中継所も破壊しやがったな。こんな山奥を襲っいやがるとは」というと、誠二のそばに頭から血を流した男が近づいてきた。同僚の足立博史だった。すぐ誠二は足立の止血をしていたが、その間も周囲からの攻撃は激しくなるばかりだった。しかし収容所の警備隊からの応戦は殆どなかった。
もし、これが市街地にある収容所だったら、ただちに付近住民から通報があったかもしれなかったが、ここは雪深い山奥で近くの民家でさえ10Kmも離れていたので、気付く住民がいなかった。
「足立、悪いが俺のオートバイで万騎峠を越えてから麓で通報してくれないか? だぶん正面ゲートはテロリストでいっぱいのはずだ。だから第三地区脇の獣道を使え、それと見つからないように峠を越えるまでは照明をつけるなよ。見つかったら終わりだぞ」
足立は誠二に「くれぐれも気をつけて、死ぬなよ」と見送られ、奇跡的にテロリストの包囲網を突破し一時間後に警察と自衛隊に通報できたが、二度と誠二に会うことが出来なかった。
テロリスト達は、充分な装備を持たない警備兵を始末すると、難民が暮らす仮設住宅を次々と攻撃し始めた。武装しているはずの無い難民は逃げる間もないまま次々と犠牲になっていった。一方的に殺されるだけだと絶望していた難民の前に救世主が突然現れた。誠二が操縦するパワーローターだ。
「みんな、奴らの攻撃は防ぐから、第10ゲートから避難してくれ。そこのゲートにいた警備兵も協力してくれているから大丈夫だ。出来る限り遠くに逃げてくれ」と誠二は朝鮮語で呼びかけた。誠二のパワーローターは重火器がなかったが、パワーを生かすためにゲートに使われていた鉄骨を両手に持っていた。
避難する難民を皆殺しにしようとして、”奴ら”によって「二二式機動重装備強化服」と融合した機械化兵士と機械化人歩兵が殺到したが、誠二のパワーローターと残存警備兵は善戦していた。警備兵の射撃によって動きが鈍ったところをパワーローターが持つ鉄骨で叩き潰す戦法であったが、テロリスト二十人以上を殺害しても数の上では圧倒的に不利だった。
「今井さん、こっちも弾丸が枯渇します。もう応戦は無理です。ここは私たちが食い止めますので、あなたは逃げてください。あなたは民間人ですから」と女性警備兵の白浜美咲陸士は逃げるように勧めた。
「我々は殿だ。全滅は覚悟の上だ。君こそ逃げなさい。俺みたいに年寄りで身寄りがいない男が死んでも悲しむのは少ないが、君にはご両親がいるでしょ! 」
「あたしの両親は”奴ら”に殺されました。せめてあなただけでも逃げてください」
「わかった! そっちの弾丸が切れたら奴らにこいつを特攻させて自分は逃げる! まだ奥の第九地区の人たちは誰も逃げていない。その人たちを助けなければいけない」
誠二らの奮闘で難民数千人が外に脱出していたが、まだ多くの難民が残されていた。
攻撃開始から一時間後、誠二の目の前には”奴ら”の機械化兵士50人が目の前にいた。対する誠二側は警備兵は白浜ら三人しか残っていなかった。
「弾丸が底を尽きました。おそらく”奴ら”のことですから投降しても殺されるだけでしょうね。一か八か逃げようとするか殺されるかしかなさそうですね。さっき本部には攻撃を受けているというメッセージを送ったので直に援軍がくるはずでしょうけど」と白浜陸士は諦めていた。
「しかたない、奴らにこのパワーローターで特攻してやる。大丈夫、なんとかして脱出するから。だから君ら三人は逃げなさい」といって誠二はコックピットのハッチを閉めると特攻していった。
誠二は、パワーローターの両腕で鉄骨を振り回して飛び掛る機械化兵士を叩き落していったが、容赦なく重火器による攻撃を受けていた。そしてついに油圧システムの機能は停止しコックピットは炎上してしまった。
「泰三、お前が持ってきたパワーローターで無茶してすまなかったな。お前と親父達と一緒に酒を飲みたかったけど、先に行って龍一兄貴と宴会しているぞ」と言いながら、脱出できないまま気を失ってしまった。
目の前でパワーローターが爆発し飛散した時、機械化兵士が一時的に混乱したので警備兵も難民と一緒に脱出したはずだったが、一人だけ内側に向かっていた。白浜陸士だ。誠二が最期にいった奥の第九地区の事が気になっていたからだ。ここは周囲よりも小高い所にあるので”奴ら”に包囲されていたため、誰も脱出できそうもなかった。
しかし、ここには抜け道があったのだ。難民には知らせていなかったが、ゴルフ場時代に排水用トンネルが地下に設置されており、そこを通れば包囲網を突破できるはずだった。もちろん、援軍が来るのを待てばよかったが、狭い地域に押し込まれた難民が全滅する方が早そうだった。
白浜陸士は電磁ロックが機能していなかったので、包囲網を突破し第九地区の中心部にある難民用公民館地下室に出た。ここは国家情報局によって要警護対象になっている一家がいたからだ。此処まできて要員のキム・ヘギョンと合流したが彼女も何が起きているのか判っていない様子だったが、なんとか国家情報局との緊急通信システムでテロリストに攻撃されていることは伝えたといっていた。
「あなたたち、いま私が出てきた排水路から脱出できるわよ。ただ水が凍っているので滑って危険だけど、殺されるのを待つよりましだよ」
「そうだけど、もうすぐ援軍が来るはずだから。できるだけ隠れていた方がいいんじゃないですか? 今のところこの地区は攻撃されていませんから」
「でも”奴ら”が狙うとすれば、あなたが担当している家族かもしれないよ。それに奥の秘密エリアもやられるでしょうから」
そういったとたん、隣接する第八地区から巨大なきのこ雲が上がった、第八地区が”奴ら”によって吹き飛んだ瞬間だった。”裏切り者”の機械化兵士を始末するため、携帯用核弾頭が炸裂したのだ。
「このままでは、こっちもやられる! 早く第九地区自治会にいって脱出させなさい! 」と白浜陸士が言ったので、仕方なくキムは待機していた難民の脱出を始めた。
「聞いた話では、排水路はゴルフ場の外の池に注いでいるそうよ。もし、入り口にテロリストがいた出ないでね」と指示していた。
しかし、数百人が脱出した時点で”奴ら”の攻撃が始まった。そのため仮設住宅からは火の手が上がり人々は逃げ惑っていた。機械化兵たちが次々と侵入し容赦なく殺害行為をしていた。機械化兵は「いたぞ!一人も撃ちもらすな、殺せ!」などと言って難民を殺害していた。この時、白浜陸士とキムは仕方なく排水路へのハッチを閉めた。もし排水路の存在が知られると折角逃げた難民が殺害されるからだ。
「キムさん、私たちはここで終わりかもしれませんね。出来ればもう少し助かってもらいたいわ」と言ったところキムの隣に小さな女の子を抱いた難民一家がいた。オ一家だった。彼らはキムと一緒にいたのだ。
「たぶんここも攻撃されるでしょうね。もう少し持ちこたえたら国連機構軍か自衛隊が助けに来てくれるでしょうけど。とりあえず時間稼ぎをしましょう」
そういうとノ・ヤンスクに娘のオ・クススクを公民館の地下にある食器棚の籠の中に押し込んで隠し、ホワイトボードで目隠して脱出した。ここにいたのでは脱出口の存在がばれるからだ。
「ヤンスクさん、娘さんは大丈夫ですよ。あそこは地下ですから多少の攻撃なら大丈夫ですよ。とりあえず隣の集会所に隠れていましょ。もうすぐ助けが来ますよ」
オ夫婦と白浜陸士とキムは隠れていたが、突然、白浜陸士が立ち上がった。
「あなたたちは、此処に隠れていて。私は他の人を何とかするから」
そういうと彼女は表にいた難民を誘導し、どこかに避難させようとしていた。だが、彼女はこの後どうなったかは判っていない。どうやら”奴ら”の機械化兵士に殺害されたようである。
隠れていた三人であったが、ヤンスクは夫のスンクスに「あなたには、本当に苦労ばかりかけたね。でも、この場を乗り越えたらクススクと一緒に幸せに暮らしましょうね」と言った。
「君のおかけで、あの機械に狂った場所から逃げれたからいいよ。もし戦争が終わったら西海近くにある俺の故郷に一度帰ろう。親戚がいるかはわからないけど君とクススクを紹介したいから」
二人はそういった会話をしていたが、キムは自分の判断ミスを悔やんでいた。白浜陸士が来る前にあそこから難民をすみやかに脱出させるべきだったのにと。
そう思っていると集会所の周りが火に包まれてしまった。そのため集会所にいたら焼死するかもしれないと逃げようとして立ち上がった瞬間、”奴ら”の機械化兵士に見つかってしまった。その機械化兵士はあの赤木田沙里奈の成れの果てだった。
彼女の視界にとても綺麗な女性が入ってきた。データーベースの検索が行われている最中にも関わらず、機関砲が暴発し彼女の身体を四散させてしまった。その瞬間、彼女の視界の指示は”殺さず確保せよ”と表示していた。理由はわからないが”奴ら”の上層部はヤンスクを生かして連れて行くはずだったのに、沙里奈の戦闘プログラムの不備で暴走していたのだ。この事実は直ちに中田の戦闘指揮システムに伝えられたが、中田は気にも留めていなかった。とにかく難民の皆殺しにしか頭がいっていなかったからだ。
妻を殺されたスンクスは怒りのあまり、集会所の備品を投げつけたが、彼も妻の後を追うことになった。そしてキムも殺されそうになった時、目の前の沙里奈のパワードスーツが空対地ミサイルによって吹き飛んでいた。ようやく国連機構軍の戦闘機が飛来したのだ。
「なんで、もう少し早く来てくれなかったのよ! あの人たち幸せになるはずだったのに! なんで! 」とキムは泣き叫んでいた。
”黄金の約束”による攻撃開始後、一時間半経過した12月19日午前0時33分、国連機構軍第785連隊と自衛隊機兵隊第211連隊による反撃が行われた。急造の機械化兵士など彼らによってあっという間に戦闘不能になっていった。足立による決死の通報もあったが、その時、場所はわからなかったが難民が次々と殺害されるライブ映像がネット上に流れていたので、国連機構空軍が出動していた。
壊滅する直前、今回の実行犯である中田由自は”奴ら”と秘密回線による接触でもめていた。
「俺や幹部はこの攻撃が終わったら脱出の手筈をしてくれるという約束だっただろ? なんで出来ないというのですか? 約束通り、こうやって難民を虫けらのように殺したんだから!」
「お前、あれほどノ・ヤンスクとオ・スンクスの身柄の確保を条件にしていたのに二人とも殺害しただろ! それに娘のオ・クススクも何処にいるのか? お前らの行動は機械化兵士に埋め込んだ戦闘記録デバイスによって管理していたのだぞ! なんで第九地区に突入する時に機械化兵士の戦闘指揮プログラムに入力していなかたんか? あれほど念を押したのに、お前は難民を殺害する事しか考えていなかったんだろ! お前のような奴を指揮官にしたのはこっちも愚かだった。お前も機械化兵士にすればよかった」
「なんで、そんなにあの親子に拘るのですか? 聞いた話では裏切り者だったのではないのですか。あの場で殺しても問題ないでしょうに。それよりも早く俺を助ける段取りをしてくれ」
「契約違反だということがわからんのか? まあよい、我々の目的を教えてやろう」といって中田は聞かされたが、恐怖のあまり腰が抜け、しばらく呆然としていた。しばらくして中田ら”黄金の約束”の残党は脱出しようとしたが、何故か中田だけが拘束された。
また機械化兵士にされた200人のうち140人は殺害され30人が拘束された。残りの30人であるが、身体が四散して認識できなかった者もいたが、仮に逃げたとしても数ヶ月のうちに機能停止したと思われている。何年かの後に朽ち果てた機械化兵士の骸が複数発見されたからだ。
拘束された機械化兵士であるが、後に死刑や無期懲役を受けたが実際に執行されたものはいなかった。彼らは粗雑な機械化による人体の影響を研究するために生かされたからだ。その一人に赤木田沙里奈がいた。
オ夫婦を殺害後に空対地ミサイルによって撃破されたが、内部にあった彼女の”機械生命体本体”が機能停止しなかったので、サイバーテック・メディカルによってサルベージされたので、命だけは助かったが悲惨なことになっていた。
「なんですか、これってニンゲンなのですか? まるで蟷螂の殻に筋だらけの肉がくっついたようなものじゃないですか? 本当は”奴ら”の新型バイオノイドじゃないですか」
「そういうな、これは”黄金の約束”のメンバーだよ。ほら足と腰の付け根にニンゲンの子宮のようなものがくっついているだろ。たぶん女だよこいつは」
「じゃあ、これも被害者なのですか?」
「そうだ。でも、そこのキムさんの話では其処の死体袋に入っている夫婦を殺害したそうだ。だからテロリストだ! 生かすのは標本としてだ。本当ならその場でガソリンでもかけて焼き殺したいところだ」
「どうしてそこまで憎むのですか? 」
「じゃあ、左側の死体袋を見てみろ! あんなに別嬪な人なのによ、可哀想じゃないかい。あの人も一緒にラボにお連れするぞ! こんな殺した化けモノと一緒に運ばれるのは嫌だろうけど仕方ないさ」
ヤンスクの遺体はラボに運ばれたが、これは彼女の機械細胞と脳髄に隠されていた”奴ら”の機密を調査する目的があった。一方、沙里奈であるが科学者に”化け物”と罵られたが、意識があり全て聞いていた。
「あたしって、化け物? どんな身体になっているというのよ? これも多くの人を殺したからなの? どういうことなの」と下を見ようとしたら自分の醜い身体があった。機械化細胞が暴走し、昆虫のような外骨格に覆われていた。その周りにはパワードスーツに取り付くために伸びた機械神経組織が、引き出す時に引き千切られたため転がっていた。その中に、人間として生きていた時の臓器の残骸が転がっていた。そのあまりの光景に彼女の意識はそこで消えてしまった。
事件直後には重武装の排他的民族差別主義者”黄金の約束”によるテロ事件とされ、首謀者を中田由自とされたが、その後の捜査により中田はネットを介して”奴ら”の破壊工作部門に指示され事が判明した。ただ中田は直接会っていなかったとして否認したまま獄中で自殺したため真相が明らかにならなかった。ただ、この虐殺の様子は”奴ら”によってネットに拡散され、日本と半島レジスタンス勢力との連携を断ち切ろうとしたが、日本政府の必死の政治工作によってダメージは最小限に食い止められたという。




