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00-08 夏の昼前の研究所

 研究所は山間部の国道と川沿いにある小さな集落のはずれの丘の上にある。かつての高校を活用したものであるが、ここは林業科と農業科もあったため、敷地面積がかなり広く旧校庭の周りには研究員の住宅や倉庫が点在していた。主要の機能は旧校舎や旧食堂、旧体育館などに置かれていた。


 かつての校長室が所長室になっているが、業務用の端末を除けば備品の大半が学校当時のものであり、所長の権限が限られているのが伺えた。そこに痩せた男と事務長とガイノイドスーツを纏った女がいた。


 「特に用事はないけど所長は今日はどこにいったのかな、また遊びにでも行ったのかな?」と女性事務長は事務室で外の旧校庭をのぞきながら副所長の横山に聞いた。


 「ああ、所長なら今日有休をとって鮎つりに行ったのさ。いつもの事だけど。そうそう彼は今回のアルバイト選考で自分がやることはないから、君らに任せるよといってたよ。まあ本当のことだからしかたないよ。まあ居たところで本当にやることないのだから」と言った。


 所長の前田は監督官庁からの天下りで来たが、元々大した役職にいたわけではなく肩書だけの所長であった。お飾りにすぎない彼がやることといえば取引先を案内するだけであった。そのため所長室に応接セットと机と彼の暇つぶしの道具があれば問題なかった。選考に関係のない所長はいなくてもよかったから休みを取ったが、普段から彼女の研究そのものに興味もないらしかった。


 それらが欺瞞であることを薫は知っていたが、話すことはなかった。彼は研究所内にうごめくスパイに彼の正体を知られたくなかったからだ


 今回の選考の指揮は江藤がすべてやっており、彼女が採用不採用を決定することになっている。実際この研究所の実権は全て主任研究員の江藤が握っていた。この研究所の実態は彼女の個人研究所といえた。


 彼女が開発したい製品を生み出すために会社は全て支援していた。なぜ、そこまでの権限が与えられているかの経緯を副所長の横山はあまり知らなかったが、彼に任されいるのは彼女が要求する予算執行にかかわる事務を担当していた。つまり発注と会社への清算である。ほかの部署も江藤が決めた研究開発に必要なものを全て応じるのが仕事だった。


 横山はアルバイト選考のプログラムを見ながら「それにしても今回のアルバイトの選考費用が莫大いるな。最初から派遣会社か自衛隊の機兵部隊にでも頼めば、こんな面倒くさいこともなかったんではないかな。まあ君の研究にかかわる費用なら上層部にいくら請求しても査定なしで全て認めてもらうから問題ないけど。今回の募集は例の見本市で裏の製品を紹介するためだろう。たしかに研究員を製品の中に入れてしまうのはまずいからね。それにしても君の趣味かね、この選考試験の内容は?」と少しあきれた表情で話した。


 それに対し江藤は女性らしい身体のラインを強調するかのようなポーズで「ええそうよ、うちの女性研究員に対し去年やったような事をまたするのよ。あの時は選考ではなかったけど少し逃げ出してしまったけどね。まあ研究の被験者には向かなかったということだけど、あれから開発もはかどったけど。うちの研究員も今回の製品発表会の仕上げに専念してもらいたいし、それにね」とにやけたような声で「なにも知らない娘を被験者にするのも楽しみだし」と待ちどうしいような様子だった。


 「今回のアルバイト募集は思ったよりも集まって二十二人応募してきたよ。まあ大学生だからこんな山奥の田舎に来るのが途中で嫌になってドタキャンしたりするだろうから、何人か来ないだろうけど。ところで江藤君。今回のアルバイトは何人採用するつもりなのかい?」という問いに対し彼女は「そうねえ、新製品のうち三体のために三人を使って、バックアップを一人、それと実演で一人いるから五人かな。でも気に入らなかったら誰も採用せず、もう一回募集してもいいかな」と答えた。


 横山はもう一度募集するのは手間だからこれで終わりにして欲しいと思った。こう思っても逆らうことは彼には出来なかった。決定権は全て彼女が握っているのだから。


 「そうね、私も選考を見ているから少しでも問題があればすぐに帰ってもらって。それと身元確認は確実にしてね。スパイが来てもおかしくはないから。特に見本市を開催する国からの偵察が来ているかもしれないし」といって外をのぞいた。


 そして「あの子なんか私と体格が似ているし私の代わりにしてもいいかな。適正があればいいけどね」と校門の外から見えてきたアルバイト希望者の一人を見ていた。外は真夏の猛烈な光に満ちていた。

 

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