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夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第一一章:それぞれの想い
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古びた巨人のスクラップ

 富山県東部の町にある今井工務店は町外れの国道沿いにあった。敷地に古い日本家屋に作業所と倉庫が連なっていたが、その敷地の片隅にパワーローターの残骸の一部があった。これこそ泰三の兄の誠二が最期に乗っていた機体の一部だ。


 ただ、その機体の謂れを美由紀に話したことはないので、彼女は父がパワードスーツを毛嫌いする理由はわからなかった。もし話をしていると彼女もパワードスーツが嫌いになってしまうのも可哀想だと思った父の心遣いだった。


 ずっと助手席で眠っていた美由紀が眼を覚ますとその残骸が飛び込んできた。それで実家に戻ったことが判った。今年の夏はバイトするから戻らないと思っていたのに、いつの間にか戻っている。全く何が起きるのか判らないものだと感じていた。


 その後ろを祐三と薫が乗る乗用車も到着した。すると家の中から今井真由美が出てきた。「おかえりなさい父さん、美由紀。はじめまして、私が美由紀の母の真由美です」と言った。その姿を見たとき少し母の面影を見たような気がした。泰三の話では真由美は江藤英樹の妻の妹の子という事で、二人とも母方に似ていたので、容姿が良く似ていたという話だったので、似ていてもおかしくなかった。


 「あなた薫媛ちゃんだよね? あなたに最後に会った時はずっとベットに寝たきりだったね。こんなに大きくなってよかったね」といった。しかし次の言葉は言い出せなかった。そう「母の香織に似ているし、美由紀にも似ているし」である。これは薫を気遣ったこともあるが、娘の美由紀を取られるのではないかとも恐れたからだ。いくら生物学的には香織が美由紀のは母と言っても、腹を痛めて生んで育てたのは自分だという自負があったからだ。


 「狭くて汚いところだけどみんなの食事を用意しているからね」といって一同を中に案内した。しかしすぐに美由紀は入らなかった。そう駐車スペースのそばにあるパワーローターの残骸を見るために。前の晩に父がスクラップの言われを話したので気になったのだ。


 このスクラップのコックピットの部分に父が花をささげていたが今まで理由を話さなかったが、その理由を初めて聞いた。そのため美由紀は確認しに行ったのだ。敷地内には他にも使えなくなった車両や機材が数多く置かれていたので、それほど気にしていなかったが今頃になって叔父さんの形見だと知ったのだ。


 パワーローターは全体的に黒焦げになってしまい、骨格フレームにわずかに機材の残骸がついているという不気味なものだった。だから美由紀はよく見るのが恐ろしかったのだ。しかし叔父さんが闘ったものだと聞いて見ずにいられなくなったのだ。


 先日、自衛隊員とともに模擬戦をやったがあれはシュミレーションにすぎなかった。今見ているものは命を奪ったり奪われた現場にあったものである。そのためショッキングなものだった。この黒焦げのコックピットで叔父さんが最後の時を迎えたと思うと胸が痛くなった。


 すると後ろから泰三がやってきた。その時美由紀は手を合わせていたのだ。「叔父さんはなここからみんなの事を見ていたのだよ。もう叔父さんの様な事が起きない時代が早く来て欲しいものだな美由紀、母さんが朝食だといっているぞ。そうそうお前はね自分の信じる道を向かえばいいんだ」といって肩に手を置いた。その感触は硬い外骨格のそれであり気に入らないものであったが、今は仕方なかった。

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