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夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第一一章:それぞれの想い
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箱根越え

 聖美と真美、望月を乗せたジャンボタクシーは箱根の峠道を走行していた。ジャンボタクシーの運転手は技術者風の無精ひげを生やした男はともかく、ガイノイドを二体同行させていることを不審に思っていた。しかも人間の娘にでも話をするような感じで会話しているのだ。


 男の話ではとあるガイノイドメーカーの者で、黒いほうの試作機のサイズが大きいので、シートを倒せば入る車両を用意してくれという事だった。そこでマイクロバスは、すぐ座席をはずせないのでジャンボタクシーにしたのだが、後ろの”二体”は窮屈そうであった。


 聖美も真実も、機械娘五人が一緒に移動するのだと思っていたのだが、優実と美咲は一足先に向かい、美由紀も別行動になっているのがおかしかった。しかも主任研究員の薫も同行していないのだ。この後なにをしないといけないのかが不安であった。なお、カンナは”奴ら”の工作員を確認した後で電車で移動することになっていたが、工作員の尾行は国家情報局の別のエージェントが行なっていた。そのエージェントは前田所長の本職である”隠密調査観察官室”所属だった。


 今回の機械娘の件に対する”奴ら”の暗躍振りがここ数ヶ月で活発になっていた。実は最初は薫に”奴ら”が接触するのを恐れて前田所長が友人の江藤社長の依頼で派遣されたが、予想を超えて”奴ら”は浸透していたため、研究員を全て女性にしたのも対策だった。しかし殺害してまで工作員を潜入させたのは前田所長の誤算であった。そのため責任を取るため”所長更迭”でケリをつけることになったが、最後に”奴ら”の日本の活動細胞を壊滅させる作戦を遂行していた。


 この時、聖美と真実の二人は美由紀の素顔をはっきりと思い出せなくなっていた。何故だろうと思うと機械娘になってからの美由紀の印象が強すぎるからだ。それに薫が入っていたエリカを引き続き着ているような感じなので、両者のイメージが重なってしまったのかもしれなかった。そのため二人が姉妹であることに気付くはずもなく、それを知ったのは随分先のことだった。


 ジャンボタクシーは箱根の峠にあるとあるドライブインに到着し、そこで迎えのサイバーテック東京の運搬車を待っていた。わざわざ一般道を使ったのは”奴ら”の工作員と鉢合わせにならないようにするためだ。望月にはメールでそのようにするようにとの薫の指示が伝えられていたが、望月には今起きていることは殆どわからなかった。彼の任務は二人の機械娘を送り届けることであった。


 それにしてもあの川島エリカという女子大生は一体なんだったんだろうと思っていた。容姿はアイドルタレントのようにかわいらしかったが、タブレットでなにやら難しそうな作業をしていたし、炎上させた運搬車に残った意図もわからなかった。


 しばらくすると迎えの運搬車がやってきた。真実はすぐに出れたが装備品が多い聖美の方はジャンボタクシーの内装を痛めないように慎重に出た。この時、東京本社への到着予定時間に間に合わないのは明白だったが、薫によれば問題ないようにしたとのことだった。


 蝉時雨がざわめく山を抜けるように運搬車は走っていった。望月とアンドロイド運転手が乗っていた運搬車は焼失したので松山に戻るのは別便だった。アンドロイド運転手は静岡から回送されるが、望月はしばらくの間、機械娘に同行しろとの上司からの指示が来た。


 「しばらく付き合えという指示か。代休は取らせてもらえるということだけどお盆の予定はキャンセルだな。でも、もう少し機械娘ちゃんと一緒にいれるからいいけどさ」と、望月は思っていた。

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