表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第一一章:それぞれの想い
80/130

11-03 泰三の古い写真

 朝もやの中、一台の古い軽トラックが突っ走っていた。それを運転するのは泰三だ。その遥か後方に薫と祐三が乗る乗用車がついてきていた。泰三の隣には娘の美由紀の寝顔があったが首から下は機械娘のままであった。


 その姿を見て泰三は不快でしかなかったが、今はそのままでなければならない事は認識していた。機械娘の背景には巨大企業の戦略などがあるのは確かだが、すくなくとも今やめさせると”美由紀の実姉”が困ることが確かである。だから美由紀のことを薫たちに委ねるしかなかった。


 それにしても三十年前、妻の真由美と出会ったのは富山の立山の室堂であった。観光に来ていた真由美と香織に声をかけたのが切っ掛けだった。この時香織の方に心を動かされていたのだが、実際に真由美の方と結ばれることになった。しかし運命のいたずらか娘の美由紀の”生物学的の母”は香織なのだ。科学が発達した現在だからありえる奇談である。一体神と仏はなんという運命のいたずらを引き起こすのだといえる。


 それにもまして張薫媛いや江藤薫が実の妹との再会がこのような事になるのかが、不思議でならなかった。そう考えると泰三はこれから起きることはさらに予想しがたいことではないかと思っていた。


 先ほど停車した石川県内のパーキングで薫から「美由紀さんのご両親にどうしてもお伝えしないといけない話があるので、そのまま泰三さんの自宅まで行かせてください」と頼まれていた。なんでも美由紀が今着ている機械娘のことについて説明するとの事だった。


 一行は富山県東部にある今井工務店に近づいてきた。おもえば泰三が一昨日の晩に飛び出した時に想像もしていないことが現在進行形で起きつつあった。泰三は自宅近くまで来たときに、コンビニに立ち寄った。車内に美由紀を残したままでコーヒーを買いに行った。その時財布からカードを出したがこの時いつも持ち歩いている写真を見つめていた。一枚は真由美と美由紀と自分が写った高校の卒業式の写真、そしてもう一枚は兄の誠二と難民キャンプで知り合った難民たちの写真だった。兄と一緒に写っている者はみな”奴ら”の虐殺に遭い十数年前にこの世を去っていた。


 その写真に写っている若い夫婦と女の子の姿を見つけた。この一家は誠二と特に仲が良くて北軍の元兵士オ・スンクスと元大学生のノ・ヤンスクは難民キャンプ内のボランティア活動に協力してくれていた。二人の死体と思われるものは誠二が操縦していたパワーローターの傍で発見されたが、二人の娘オ・クススクだけは発見できなかった。この三歳の女の子も虐殺の犠牲になったとされているが、泰三は娘の美由紀と遊ばせたことを思い出していた。


 少し眼から涙が出てきたのを恥ずかしく思ったのか、店員に尋ねられてもいないのに「いけねえ、眠たくって涙が出てしまったぜ」といってレジ前から去っていった。


 コンビニの前には祐三の乗用車が止まっていた。「ここからまっすぐ行って3Km先が俺の工務店だ。うちの家内がみんなの朝ごはんを用意してくれているとのことだから、一緒に食べよう。話し合いはその後でいいだろう」といった。


 それから二台の車はまっすぐ今井工務店へと向かっていたが、美由紀は機械娘の頭部の拘束から解放されたためかまだ眠っていた。泰三はこれから薫が何を話すかが不安でたまらなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ