00-07 町を出て森を抜けて
美由紀は大学近くにある北吉備駅前にあるバスセンターから路線バスにのった。だがバスセンターとは言っても都会にあるような何十台ものバスが停車するようなターミナルのようなものではなかった。
古い平屋の木造駅舎に隣接する、これも平屋のバス会社の窓口がある小さな建物の前に数台のバスが止まれるスペースがあるだけのセンターとは名ばかりの質素なものだった。
この町は山地に挟まれた川沿いの細長い盆地で、市街地も街道沿いにあるような細長い形状であった。しかも21世紀になって人口の流出が止まらなかったため空き家が目立っており寂れていた。梅雨が明け真夏の強烈な太陽光が降り注いでいたが、盆地であるため熱がこもり大変な暑さであった。
バスセンターから渓谷や避暑地にある温泉街に向かう路線もあったが、彼女の乗った路線バスは需要がない地区に向かうためか、マイクロバスだった。、最初は買い物帰りや病院帰りのような高齢者が乗っていたが、町を抜け田畑が山間部の森林の中を走るようになるころには、彼女も含め若い女性ばかりであった。
どうも彼女らも目的は同じのようであった。しかし美由紀は誰とも話そうとはせずバスの後ろに隠れるように座っていた。まさかこんなにアルバイトの希望者がいるとは思っていなかったため「どうしよう、私なんかまた不採用になるかもしれない。でも5万円は確実に貰えるから頑張ろう」と落ちる事を考えている美由紀だった。
最近では長距離トラックの中には人工知能を搭載した機械運転手による無人トラックは珍しくなくなってきたが、このバスの運転手は人間ではあった。しかも80歳近いような高齢ドライバーだった。やはり高価な機械運転手に任せるよりも高齢者の雇用対策のために雇われているようだ。
彼は車内に若い娘ばかりという事が気になったためか前のほうに座っていた娘に「どうして今日はこんなに若い子ばかり乗っているのかい?誰かに呼ばれたのですか。よかったら教えてもらえんかのう」と尋ねた。すると成内の研究所に行きますとの声がしたの。
「なんじゃ、あそこの人形屋敷かい。あそこは色んなロボットを作っているそうじゃからのう。でも変な予感がしたらはよう帰ったほうがいいですよ。夜な夜な近くでロボットのウォーキングをしているようだから、つき合わされなきゃいいですよ。若い娘が山道を歩くのなんか危険ですから。それにこの前なんか夜中に女忍者みたいな者が木々の間を飛んでいて警察に通報が入って、大騒ぎしたもんじゃ。いつものこととはいえ騒動をば起こしている」と聞いてもないようなことまでしゃべっていた。
どうも、これから行く研究所はきちんと活動しているようだが、近所の評判が良くないようであった。
山間を走る道路は広くドライブには最適であったが、沿道には耕作放棄地が多く原野に帰ろうとしていたり、古い民家が崩れ瓦礫になっているなど、人々の生活の場が消え去っていった様子が伺えた。
目的地の成内の市街地も古くて人がすまなくなった住宅が数多くあり、真夏の昼前とはいえ人の気配もほとんどしなかった。そして研究所の下にあるバス停に付いた。そこには「アルバイト面接会場までの経路図」と書いた看板が置いていた。目的地はすぐそばであった。




