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夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第一一章:それぞれの想い
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11-01 稜線に昇る朝日の中で

 明奈は直ぐに横山副所長に機械娘の尾行が失敗したと連絡した。「まあよい、行くところは決まっている。取りあえずお前らは用賀のアジトに行って”東京ベイエリア文化祭”の出品ブースの準備をしているメンバーと合流しろ。次の目的は津田美咲の拉致だが、彼女についての情報は後で連絡する。それと、お前の洗脳だが成功すれば解いてやるが、その間の記憶は消してもらうぞ」といって回線を切った。


 横山は東の稜線から昇る朝日を見ていた。思えばこんな山奥の研究所に赴任して二年は長かった。もともとサイバーテックの上位にある持ち株会社グローバル・コーポレーションで資産管理部門に所属していたが、上司の不正経理事件に連座して”左遷”されてきた。以来、いつも何処で何をしているのかわからない前田所長と、無茶な納期と予算で開発のための資材購入をするように迫る江藤薫に振り回せてきたが、これももう直ぐ終わる。


 元々横山には野心があり、いつの日か独立して生体機械開発を支援する投資ファンドを作ることが夢であった。実際にある開発計画に投資したが、サイバーテックのグループ企業に類似のものを先に開発されたため、投資した資金が戻らなくなり焦げ付いていた。サイバーテックの管理職という身分こそ明らかにしていなかったので、今も現職であるが経済的失敗と研究所の資金に手をつけており、もはや後戻りできなくなっていた。おそらく弁済できなければ背任罪で告訴されるのは時間の問題であった。


 この時”奴ら”の勧誘を受け乗ってしまった。”奴ら”は研究所にスパイを潜り込ますため二人殺害しているし、次は機械娘の壊滅を目論んでいる。その共犯だから後はバレないうちに幕引きになってほしいものであった。そう、あの目障りな二人に一泡を吹かせたうえでだ。


 特に横山が許せなかったのは前田所長であった。彼はずっと怠慢な態度で適当に仕事をしているし、趣味の釣りにばっかり行っているようであった。しかし、裏では薫と男女の関係になっていたほか、”奴ら”と対峙する組織を運営していたのだ!


 公式には前田所長の前歴は経済産業省産業機械管理庁亜人課付きという閑職であったが、実際には国家情報局の内偵スパイであったことを”奴ら”から聞いていた。どうも前田は”奴ら”の工作員をアブリ出すため”昼行灯”を装っていたようだ。しかもスパイなので出世もありえないにも関わらずでだ。


 朝日が昇るのを見ながら「もしかすると前田の奴にワシの正体がばれているのかもしれないが、とにかく奴に一泡吹かせてやる。これは人生最後の勝負だ」と口にしていた。

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